ウインドサーフィン・エッセイ_22

センスのいい人、鈍い人
Text=Takayoshi “Yanmer” Yamamoto(HALE Surf & Sail_Enoshima)

ウインドサーフィン・マガジン
Marc Pare(E-334)/ ⒸFanatic_FishBowlDiaries 2022

一生懸命なのに、上達の遅い人。テキトーにやってるみたいなのに、すぐに上手くなってしまう人。いますよね。果たしてそういう彼らは数年後、どんなウインドサーファーになっているのでしょう。

トリックや派手な動きをウインドサーフィンの「華」のひとつに。基本的な動きや、風や波を見る目、それらを感じる感性などをウインドの「根っこ」とし、これまでに僕が見てきた「彼ら」の来し方を「植物」にたとえて振り返ってみましょう。

まず上達の早い人。彼らはパッと大きな華を咲かせます。ひまわりのように明るく、派手な華です。けれど多くの場合、それは長くは続きません。一時期は「おおっ!」と思わせるようなセンス溢れる動きを見せるのですが、ちょっとしたつまずきで、いとも簡単に海から消えてしまいます。やっぱり一年草だったのか、しっかり根が張れていなかったんだな、という感じです。

そのため数年かけて海や風と付き合っていくことで得られる、本当に凄い部分を体験できません。スピーディーな上達に有頂天になり、ある場合には調子に乗りすぎて、その反動で自らを見切ってしまうのかもしれません。端から見ていて、すごくもったいなく、残念に感じます。

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ⒸGun Sails 2022

一方なかなか上手くならない人は、当然のことながら目立ちません。けれど僕は、むしろそういう「彼ら」の方が気になります。インストラクターの職業病です。彼らは当たり前のようにつまずき、当たり前のように起き上がります。何度でもです。そして少しずつ養分を吸収していきながら、いつしか「海の常連」になっています。自然にそこに根を張ることに集中し、いつの間にやら「松」のような存在になっている、という感じです。

彼らの多くはずっと無理のないスタンスで海と付き合い続け、やがて「巧い!」と周囲を唸らせるような渋いウインドサーファーへと成長していきます。

もしかしたら上達の遅い人の方がセンスがあるのかもしれませんね。

「オレは上達が早い方だ」と思っている方は、上達の遅い人のいいところを取り入れるようにしてみましょう。ポイントは無理に頑張らないことです。

「上達は遅いけど、海に行くのが楽しみ」という方は、そのまま楽しみ続けてください。すべての経験が年輪のように身についていき、やがて仲間に認められる存在になれるはずです。

で、みなさん。数年後にカッコいいウインドサーファーになるべく、お互いに頑張っていきましょうね。いや、元い。あまり頑張らず、自然に海と付き合っていきましょうね。ウインドサーフィンは、そういう人になるために最適なスポーツであり乗り物です。

─── 山本隆義(ハレ サーフ&セイル_江の島


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