ウインドサーフィン・エッセイ_14

素晴らしきウインドサーフィンは、しかし例えようもなく━━━
Text=Takayoshi “Yanmer” Yamamoto(HALE Surf & Sail_Enoshima)

「ウインドサーフィンって、どんな?」

友達にそんな質問をされたとき、みなさんはなんて答えてますか? ウインドに乗っているときの感触を自分の中に呼び起こし、言葉を探し、しばし考え込んで、けれどうまい言葉が見つからず、最後は無理に言葉にしたくもなくなって、諦めてしまったり。「ヨットみたいな、サーフィンみたいなやつ。おもしろいよ」なんて誤魔化してみたり。そんな感じじゃありませんか?

セイルに風を入れたときの感触も、走っているときの感覚も、例えるものが他にないですからね。でもだからといって「ヨットとサーフィンがくっついたやつ」ではやはりどうも・・・。ウインドサーフィンはそのどちらでもなく、明らかに別物ですから。

僕は思うんですけど、こういう場合には、無理に大きく捉えて伝えるよりも、個人的な感覚を伝えた方が、何となくではあるにせよ伝わることは多いような気がします。

「ウインドで沖へ出て、夕陽に染まっていく陸や海や山や空の眺めは最高だよ。別世界にいるような、不思議な気分にとろけるよ(くさいけど)」とか「さんざんウインドに乗って、疲れ切って、そのあとで仲間と過ごすまったりタイムはいいもんだよ」とか。その方がイメージは膨らむと思うのですが、どうでしょう?

ウインドサーフィン マガジン
Maria Andres(E-2)/ ⒸToby Bromwich_Fanatic Windsurf

週に五日はウインドサーフィンするというある音楽家は「ウインドサーフィンは、中世ならば貴族の遊びだ」と言いました。欧州感の強いコメントで、純和風の僕は一瞬「鷹狩り」をイメージしたものですが、それでも何となく「そういう部分はあるよな」とは思いました。

たしかにウインドサーフィンは贅沢な遊びです。経済的にも身体的にも外的条件的にも。果たして世界中にウインドサーフィンを楽しめる人はどれくらいいるのだろう。地球に生まれて、それを取り巻く風と水で遊ぶ。そのことにお金と時間を使ってみようと思える人は、いったいどれくらいいるのだろう? そんなことにも思いは巡り、ウインドを楽しめている今の状況に、感謝! という気持ちにもなりました。

「海の上で風とダンスをしてるみたい」と言った人もいます。これはなかなか、言い得て妙という感じです。セイルを動かすときには自分も動く、セイルと身体の両方でバランスをとる。セイルだけを振り回したり、身体だけを動かすと、重心の位置がずれてボードが傾く。パートナーは風で舞台は海です。うまく通じ合ってますか、みなさん? 独りよがりは嫌われますよ。

タックのときには、セイルと身体を入れ替えるように動く。ジャイブではセイルパワーとは逆方向に腰を落とす。風を抜くときにはセイルを近づけ、入れるときには少し離れる。これまさに『ダンス・ウィズ・ザ・ウインド』ですね。

そんなことを思いながら、鼻歌まじりにウインドに乗ると、新たな発見があるかもしれません。セイルと身体、両方をセットにして動く、といういい習慣も身につくかも。

まあそれにしてもウインドサーフィンを説明するのは難しいものです。例えようのないその特別な感覚こそが一番の魅力だと思うんだけれど、それを十全に伝える言葉が見つからない。

ただ、ひとつだけ言えることは、ウインドサーフィンは乗り手のなかにある新たな感覚を覚醒させるということです。そしてウインドサーフィンを続けるということは、未知の感覚をどんどん自分の中に取り込んでいくということです。

“Dance with the wind in the ocean” 海で風とダンスする。ウインドサーフィンをするには最高の季節がもうすぐそこまで来ています。まだ未体験の人もそうでない人も“Shall we dance?” それはいつだって素晴らしい体験になるはずです。

─── 山本隆義(ハレ サーフ&セイル_江の島


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