ウインドサーフィン・エッセイ_07

風と共に動く
Text=Takayoshi “Yanmer” Yamamoto(HALE Surf & Sail_Enoshima)

小学生の頃、初めてウインドサーフィンにトライしたときには知らなかった。大学に入り、思い出したようにまたウインドを始めたとき、ふとスクールにあった写真を見て初めて知った。

ウインドって飛ぶんだ、ジャンプするんだ!

海に出ているときの風と海面の感触を思い出してみる。どういうこと? 体と道具が一緒に宙に浮く?

ハーネスと少し大きめのセイルが使えるようになり、徐々にスピードが出せるようになったある日、少しだけ体が浮いたような瞬間があった。この延長線上にジャンプがあるのか、と思った。

やがてプレーニングができるようになると、水面から受ける感触が劇的に変わり、ジャンプのイメージがぼんやりと浮かぶようになった。偶然海面のチョップに乗り上げて、ふわっとボードが浮いたとき、血が逆流するような、妙な気がした。

いま、飛んだ?

空中に出ることでウインドの自由度はさらに拡がる。セイルとボードを天地逆さまにすることさえ許される。そんなに難しいことじゃない。ウインドを続けていれば、誰でもできるようになることだ。

Adam Lewis(K-516)/ ⒸFish Bowl Diaries_Fanatic Windsurf 2021
Adam Lewis(K-516)/ ⒸFish Bowl Diaries_Fanatic Windsurf 2021

けれど、いきなりジャンプを目指してはいけない、と思う。プレーニングするぞー、ジャンプ目指すぞっ、なんて躍起になると、いろんなものが見えなくなる。いろんなことに気づかなくなる。

急ぐ必要はない。いや、急いじゃいけない。

ブームから伝わってくる風の感触、その微妙な変化に対する感度を高めていけば、やがてジャンプはできるようになる。で、そうしてそこまで辿り着いてみるときっと気付く。『これまでに、ほんとにたくさんの、ジャンプに負けないくらいの、凄い体験をしてきたもんだ』みたいなことに。それがどんな体験になるかはわからない。でも凄い体験なしにそこまで行き着いた人はおそらくいない。

だから急いじゃいけない。せっかくの素敵なプロセスを省略するなんてもったいない。これから起こるかもしれないことをイメージして、風を感じて、そのときの感触を大切にしていけばいい。そうすると喜びや楽しさが倍増するし、上達のスピードも速くなる。ウソじゃない。

『風に対する感度を高める』コツは、まずはそう思うこと。信じよ、さらば自然に体の力みがとれてくる。腕の力が抜ける。ブームをソフトに支えられるようになる。微妙な風の変化を感じられるようになる。そうなればシメたものだ。

胸を張りすぎず、猫背にならず、水平線を見て走ろう。そうすれば頭は傾かない。その状態で腰を落ち着かせる。しゃがみ込むのではなく、ヘソの下に重みを集中させて、他から力を抜く感じだ。足は伸ばすでもなく曲げるでもなく、ちょうどいい感じのところでキープする。これで基本のフォームが完成する。

力を抜いたぶん「ブローが入ったらどうしよう」と心配になるかもしれない。でも大丈夫。そんなときには体の重みだけでバランスをとろうとしないことだ。上体をすっと風上側に移動させて、重力と足の筋力とでバランスをとる。そうすればブローに耐えやすくなるし、逆に急にブローが抜けても崩れない。上体がボードの近くに残っているはずだから。

それでも後ろに倒れそうになったときには、腰を曲げる。エビのように“くの字”になって、できるだけセイルに風を取る。そのとき何をしているのかといえば、風の力と体の力、両者をバランスさせる支点との距離や位置関係をコントロールしている。つまり風と一緒に動いている。

風を感じ続けること、風に敏感になること、風と共にあること、それがボード上でバランスをとるコツで、ジャンプのコツで、思い通りにウインドサーフィンを操るコツだ。やがてコツ密度を高めたあなたは、普通の人ではなくなる。風と共に陸から海へ、さらに空へとテリトリーを広げてゆく、極めて稀有なウインドサーファーという人類になる。おめでとう。

─── 山本隆義(ハレ サーフ&セイル_江の島

───────────── Windsurfing Magazine ────────────── ウインドサーフィン マガジン ─────────────

▶︎〈ウインドサーフィン・エッセイ_06 / 研ぎ澄まさえたパーになれ〉
▶︎〈ウインドサーフィン・エッセイ_05 / あなたの自由を奪うもの〉
▶︎〈ウインドサーフィン・エッセイ_04 / 考えない人〉
▶︎〈ウインドサーフィン・エッセイ_03 / 目に見えるものに、たいして大事なものはない〉
▶︎〈ウインドサーフィン・エッセイ_02 / ふたつのリズム〉
▶︎〈ウインドサーフィン・エッセイ_01 / 目標などない方がまし、かもしれない〉