ウインドサーフィン・エッセイ_15

MENTAL WINDSURFING 4
「動中静」と静かに囁く

前回(MENTAL WINDSURFING 3)の最後にこう書いた───あなたが次にすべきことは、自分がウインドに乗るのではなく、潜在意識に乗らせるようにすることだ。そうすれば幼い子供が歩き方を覚えるときのように、人目や世間体や見栄などを気にせずに、本来備わっている(顕在能力をはるかに凌ぐ)潜在能力を発揮できる。ウインドをより楽しく感じられるようになり、自然に上達できるようになるはずだ。

いやいや、そう言われてもねえ、とあなたは思うかもしれない。だから今回は別のアプローチで説明してみることにする。

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Victor Fernandez(E-42)/ ⒸFishBowlDiaries_Fanatic Windsurf

「動中静」という言葉がある。武道の道場などによく掲げられている言葉だ。「動いているときにも静かな心をもって周囲を見、自分自身を感じることが肝要である」という教えである。外見のことなど何も語らず、ただ静かに「よく見て、よく感じよ」とだけ言っている。高度なインナー・ハウトゥのひとつである。

実は自然に上手くなる能力(潜在能力)は、ものを知覚する能力と密接に関係している。簡単にいえば次のように。

見たもの、体感したこと、自分の身体の動きの“感じ”などは、すべてデータとして潜在能力の側に取り込まれる。そして潜在能力はそれら膨大なデータの中から、その時々に応じて最適なデータをアウトプットする機能をも果たしている。

そこで問題になるのは、インプットされるデータの質だ。雑念(顕在意識)の混じった不鮮明な(あるいは純度の低い)データしか入ってこなければ、いかに潜在能力の分析・出力機能が高くても、そこから精度の高いデータが弾き出されることはない。その結果、全身の筋肉にミスを誘発しやすい指令が出されることになってしまう。

だからこそ「よく見て、よく感じよ」「いま何が起きたのか」「そのとき何を感じ、身体はどんな動き(反応)をしたのか」を「静かな心をもって知覚する」ことが肝要になる。

潜在能力に鮮明なデータがインプットされるようになれば、やがてより的確なデータが全身に送られるようになっていく。すると上達の速度が劇的に速まる。

つまり「動中静」は、顕在意識を排除して潜在能力を最大限に発揮させる───潜在意識に乗らせる───ためのキーワードであり、また同時に「正しくクリアな経験」こそが最高のインストラクターになる───つまりあなた以外にあなた以上の先生はいない───ことを教える言葉だ。

何か余計なことを思ってしまったときには「動中静」と静かに囁いてみるといい。それはおそらく「冷静」や「無」や「ゾーン」にもつながる思考法のひとつでもあるはずだから。


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