ウインドサーフィン・エッセイ_21

変化を楽しむスキル
Text=Takayoshi “Yanmer” Yamamoto(HALE Surf & Sail_Enoshima)

十年以上も前のことだけど、そのころ僕はフォームの改造に取り組んでいた。きっかけは新しいボードをゲットしたこと。それを乗りこなすために自分のライディングをビデオで見たことだ。

その春にマウイで手に入れたカスタムボードは、曲がっているときと曲がった後、それに波の中でのスピードが速かった。スプレーはよく上がるし、エアーも容易にメイクできた。それまでできなかったボトムターンとトップアクションの組み合わせも可能にしてくれた。でもそれまでの乗り方のままだと曲がらなかった。特に頭以下の小さな波では、トップへの上りが悪かった。

どういうことかというと、ボードがスライドせず、だからパワーのロスが少なくてスピードが出るのだが、小波でトップにノーズを向けるときに、テイルをスライドさせるボードトリムがしにくかったということだ。

少しスライドするようにして、ボードの操作性を高めたい。そう思った僕はフィンを1cm小さくしてみようと思った。あまり本気で気にしている人は多くないと思うけど、フィンの大きさや形、硬さを変えると、テイルのグリップ力や感触が変わり、ボード全体のバランスを調節することができる。特性までもアレンジるすることができるのだ。

ジョイントやストラップのポジションも同じこと。買ったばかりのボードは、買ったばかりのパソコンみたいなもの。そのまま使うのもいいけれど、自分が使いやすいように少しずつ設定を変更してカスタマイズしていくと、より身体の一部に近い存在になっていくものだ。

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Victor Fernandez(E-42)Hookipa, Maui / ⒸDuotone 2022

で早速そのボードのシェイパーと連絡を取り「日本に帰ったらフィンを小さくしてみようと思うんだけど」と相談してみたところ、なんと「逆だ、フィンをもっとデカくしろ」と言う。げっ、んなことしたら、もっとスライドしなくなっちまう。マウイみたいに大きくてパンパンに張った波が頻繁に入る場所ならいいけれど、日本の波を舐めとるな、それはあなたが思うよりもっと小さくて、パワーだってないんだぞ、普通は。だからスライドさせないでラインを作っていくのは、ものごっつー大変なんだ。

僕はその思いを呑み込んだ。「そ、そうですか」と応えて、そしてふと思った。日本でマウイのような乗り方ができたなら、普段のウインドが劇的に変わるはずだ。今までよりも数段気持ちいいライディングができるかもしれない。改めて考えてみれば、小さい波でそういう(スライド幅の小さい)乗り方をしてる人もいる。

おっしゃー! ならばいろんなことを試しつつ、そういう乗り方を目指してみよう。フォームだって変えてみよう。そう心を決めるとワクワクした。「こんな感覚は久しぶり」だと思った。

帰国後、さっそく海に出て「改造」に着手した。スライドを抑えるには、ボードに横方向の力をかけず、レイルを入れて、常に上から下にプレッシャーをかけること。波を上がるときにはもっとボードを傾けて、身体も強めに内傾させて‥‥。と、いろいろ試した。そうすることが楽しかった。でもそうそうすぐにはうまくいかない。

そこでビデオで自分のライディングを撮ってもらった。久しぶりに見る自分の姿はまるで他人のようだった。「なっとらーん」と、イメージと現実のギャップの大きさに愕然とした。

ビデオの中の僕(リアルな僕)は、レギュラースタンス(ポート)で波に乗るときには、ボトムでの身体の沈み込みが少なく、内傾も弱かった。特に波が小さいときには、その体勢からさらにボードをスライドさせるような乗り方になっていた。グーフィースタンス(スタボー)では、結構身体が沈み込んでいて、いい感じではあったのだが、うーむ、レギュラースタンスでの体たらくは、おそらくそのスタンスがマウイの大きな波に慣れていたからだろうと思われた。マウイでは波に合わせて大きなラインを取ることが多かったので、それほど大きく身体を内傾させる必要がなかったのだ。でも日本ではその感覚を払拭しなければいけない。小さい波に乗りなれたグーフィーでの感覚を、レギュラーにも移植せねばならない。

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Liam Dunkerbeck(E-11)Tenerife / ⒸStarboard Windsurfing 2022

で、具体的にどうしたか? マスト手の握りを変えてみた。それだけで大きな変化が生まれた。ボトムターンをするときには(レイルジャイブでも同じだけれど)ブームエンドが下がる。そのとき身体はブームに対して直角か、あるいはマスト寄りに位置しやすい。それでは内傾は強まらない。もっとブームエンド側に身体をセットしたい。できれば体勢を低くしながら。

そこでマスト手を順手から逆手にしてみたのだ。と、腕が伸びやすくなり、身体を理想の位置にもっていきやすくなった。そうして身体の位置を自分のセンサーに記憶させると、その後はマスト手を順手に戻しても、何の支障もなく(僕なりの)いいフォームをつくれるようになった。

言葉にすると簡単だが、実際にやってみたらやっぱり意外なほど簡単だったので驚いた。そこで欲深い僕は、ついでにブームの高さもアジャストしてみた。これによっても、身体を移動させやすくなることを実感した。

それで日本でもマウイのように乗れるようになったかといえば、そうはならなかったけれど、でも日本での自分のライディングが変わったのは確かだ。ラインの取り方にバリエーションが増え、自由度が広がった。小さい波でも気持ちよさは大きくなり、ウェイブセイリングがそれまで以上に楽しくなった。

できなかったことができるようになる、というのはやっぱり嬉しいもので、ウインドサーフィンにはそうなるチャンスが無限にある。現状維持に満足してはいけない、なんて言わないけれど、ときには変化や挑戦を楽しむのもいいものです(それが小さな変化や小さな挑戦でも)。たとえ年齢を重ねても、自然のパワーを受け取る効率を高めれば、若かったときの自分を超えることだってできるのがウインドサーフィンですからね。

─── 山本隆義(ハレ サーフ&セイル_江の島


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