「風に乗るのではなく、風になる」
12月1日-2日、JWA JAPAN PRO TOUR 2018-2019 / SLALOM ROUND_2
『掛川クラシック 2018 サーフスラローム』で、浅野則夫がまた勝った。持病の腰痛の具合が悪く、試合前にはほとんど練習ができずにいた。だが「何が起こるかわからない」といわれるこのサーフスラロームでも何も起こらず、浅野はいつものように優勝した。
ツアー中のレースで優勝を重ね、最後に年間王座に厳かに腰を据える。19歳で初めて日本チャンプになって以来、浅野はもう27年も同じように勝ち続けている。何も起こらない。それぞれの大会は決められたフィナーレを引き締めるための段取りのようにもみえる。日本のスラロームの王座は浅野の体型にフィットするように変形し、それが絶対王者の強さを象徴するひとつの印になっているようにも思われる。
同時に浅野は「また負けた地獄」の構築者でもある。浅野以外の選手はずっとその闇の世界に隔離されている。常態化したその世界では、闇が闇であることを知覚することさえ難しくなっているのかもしれない。
浅野だけが光のある世界にいる。そこで特別な何かを見、次につながるイメージを描き続けている。
2006年、彼にこんな質問をしたことがある。
どんなイメージで乗っているのですか?
「セイルに重みや(風の)流れなどを感じずに、止まっているように乗る。ジャイブではボードのレイルにナイフがついているかのように、無抵抗に切り裂く。ウインドは本来抵抗だらけの乗り物だと思っていたんだけれど、そうではない。上手くなるほど、どんどん無抵抗になっていく。波に乗り、風に乗るというより、今は風になって波を切り裂くって感じです。いかに抵抗なく速く走るか、そして風になれるか、そして風になり波を切り裂く、これが僕のウインド観です」
ひとむかし前の話だ。浅野も道具も進化している。浅野は47歳だが、おそらく「体力」「(チューニング力も含めた)技術」「経験」と、その経験があればこそ描ける───闇の世界とは真逆の方向にある───有用な「イメージ喚起力」の総和は、今が一番高いと思われる。
浅野には浅野にしか想像できない世界がある。自分が信じられる、くっきりとしたイメージをクリエイトし、セットして、そこに向かって疾走する。そして到達、リセットを繰り返す。だから負けない。そういう確かなイメージのないところにあるものは、おそらく成り行きだけだからだ。
日本の絶対王者、浅野則夫の脳内のイメージが、いまどのように更新されているのか、機会があればまた訊いてみたいと思っている。
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