『御前崎ジャパンワールドカップ 2024』Day 7(2月25日|日)

PWA IWT WAVE TOUR_5-Star Event
2024 SPICARE OMAEZAKI JAPAN WORLD CUP
Men & Women Wave / February 19-25 / Long-Beach, Omaezaki, Japan / Photo by Akihiko Harimoto

大会最終日、御前崎オフショア決戦

大会7日目、最終日。雪も混じってきそうな冷たい雨。しかし3日目から待ちに待っていた風が吹いている。ジャッジ席が設けられているプレハブの脇に掲げられたIWT旗が千切れんばかり煽られ、その建物も揺れている。ときに室内の蛍光灯が点滅し、電圧の安定供給が妨げられていることを知らされる。

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2024 SPICARE OMAEZAKI JAPAN WORLD CUP_Day 7_Offshore Showdown

海を見ればタンカーと思われる船が停泊した遥か沖は一面白波に覆われている。でもインサイドは意外なほど静かだ。北側の山に遮られ、そこには風が入ってこないのだ。試合前のウォームアップにゲティングアウトしようとしている選手が、なかなかそれができずに苦労している。

風は北東、なんとポート(海に向かって左から)のクロスオフ。普段の冬の御前崎とは真逆の風だ。年に何度かしか吹かないはずのその風が、どうして試合のときに吹き上がるのか。選手は恨めしく思ったことだろう。今日はポートで乗らなくちゃいけない。しかも道具のチョイスが難しい。インサイドの風に合わせれば、アウトでオーバーチョイスになるし、かといってアウトの風に合わせれば(道具が小さくなりすぎて)インサイドを抜けていけない。どうすりゃいいの・・・やるしかない。覚悟を決めた選手たちの試合が始まる。

|| リアム、颯太、颯、僚真、ハイレベルな『プロジュニア』ファイナル

『プロジュニアクラス』では、かつて「百年王者」と呼ばれ、ワールドツアーを支配したビヨン・ダンカベックの息子で、2023年の世界ジュニアチャンプであるリアム(20歳)がさすがの動きを見せた。リアムのホームポイントであるグラン・カナリア島ポッゾのレギュラーウインドはポートだから、その風向で乗ることには慣れている。ライディングのできるエリアの風が弱かったのは想定外だっただろうが、それでも彼が描くラインは他の選手のそれとは一味違った。

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Liam Dunkerbeck(E-11)

この日のクロスオフの風は時々真オフくらいまで振れていた。そのため波を掴んで、波を降りていくには上りからクローズホールドの角度で板を滑らせなければならない。風の力はほとんど使えない。だからいい波を選んで、波のパワーを利用することが重要になってくる。

リアムはファイナルヒートの中盤でその波を掴んだ。サイズはオーバーヘッド。テイクオフから波のボトムに降りる際には、クローズホールドからデッドゾーンをも貫いて、ぐりんとS字ラインを描き、そこから的確にリップをヒットした。それを合計3発。このコンディションで獲得ポイント7.67。勝負あったか?

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Ryu Noguchi(J-39)

いやそれでは終わらなかった。採点は2ウェイブピックアップ(いい波乗り2本の合計点)でなされるのだが、その時点でリアムが乗ったのは1本だけで、バックアップポイントに欠けていた。

残り30秒。まずは2日目のプロクラスでも7位の堂々たる成績を残した野口颯(16歳)が反撃にでる。沖で中程度のサイズの波を掴んで横走り、スピードをつけてボトムに降りてレイトアタック、リップの破壊に成功し、さらにそこからラインをつないで、エアリアール・・・しかし残念、オフショアに押されたか、波の前に降りられず失敗。オーノー、もしこれが成功していれば・・・。

残り数秒。次は今大会のプロクラスでベスト16、世界にもその名を知られる18歳、石井颯太だ。颯の後ろでヒート最大級の波を取り、颯太もS字ターンからエアリアル・・・成功! さらにヒート終了のホーンを聞きながら(くらいのタイミングで)次のアクションを仕掛けるが、これは際立った動きにつながらない。

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Hayata Ishii(J-27)

勝者は・・・リアム。彼ははその前の段階で小さな波に乗り、ポイントを上乗せしたことで見事に優勝を勝ち取った。颯太は2位。あとで聞いたところによると、3位の颯とは0.2ポイント差だったとのこと。4位は世界の杉匠真の弟で、昨年ポッゾで行われたW杯U-15クラスで優勝した杉僚真(14歳)。彼はヒートの途中まで2位をキープしていたが、後半インサイドで小さな波に乗るという戦略がハマらなかった。それだけのことだ。最年少で他の3人とよく戦った。若いということはそれだけでアドバンテージがあるということだ。次も頑張って。

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Ryoma Sugi

驚いたのは、というか、再確認したのは、日本の3人はポートでも上手いということだ。かつては(スタボーゲレンデの多い)日本の選手はポートでは勝てないと言われていた。実際に勝てなかった。でも今は違う。石井兄弟や杉匠真を筆頭に、初めから世界を視野において活動する日本の若手たちは、欧州に多いポートのゲレンデでも勝てるようにと、ポッゾなどへの遠征を重ねてオールラウンド性を磨いている。

その結果が確実に表面化している。彼らに風向による得手不得手の意識はおそらくない。少なくともそんな意識は排除すべきだと思っている。そんなものがあれば「勝てない」ことを知っているから、今は多少不得手でも「まあどっちでも大丈夫です」と言ったりする。頼もしい限りだ。「ワールドチャンピオンになる」というのは彼らの夢ではなく目標で、彼らはそれに向かって一歩一歩、ある場合には二歩三歩と着実に歩みを進めている。さて「最初に世界一になるのは誰か?」こんなことを書いてもきっと許されるだろう今があることを嬉しく思う。

|| ワールドカッパー・マリア(対)逗子の中学2年生・堺希海

『ガールズクラス』にはゲティングアウトできない選手もいた。そりゃそうだ。男子選手の中にも出られない選手がいたくらいなのだ。ガールズには難しくハードな状況だった。

そんな中でもウェイブポイントを獲得し、3位になったのは逗子で練習を積む山田美依。まだ小さく華奢な小学6年生。今年でウインドサーフィンを始めて6年目。冬も練習を休まず、この1月に行われた『御前崎全日本ウェイブ選手権』では、ビギナークラスで2位になった。年齢に対する経験値の高さと普段の行いと結果がセットになって自信をつけたのだろう。W杯の中で行われる試合で表彰台に立つなんて、まあ本当にたいしたものだと言うしかない。自分を褒めてあげてください。今回の結果がもっと大きな自信につながり、ウインドサーフィンがもっと楽しくなることを願っています。目標のフォワードループ、早くできるようになるといいですね。

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Maria Morales Navarro(E-737)/ Nozomi Sakai

優勝争いはこちらも逗子の堺希海(中2)とスペインのマリア・モラレス・ナバーロとの戦いになった。マリアはカナリア諸島・テネリフェ島をホームにする17歳で、ポートの風を得意にしている。2022年、15歳のときにPWA・U-17クラスのチャンピオンになっていて、同年ドイツ・シルトのW杯では、シニアクラスで5位入賞も果たしている。堺にとっては突然現れた強敵だ。でもそんなことは関係ない。去年のこの大会で2位だった堺は、今年こそはと優勝するためにここへ来た。

堺はヒート前半に2本の波に乗って得点を稼いだ。特に2本目はいい波だったのだが、2アクション目で波に置いていかれてしまった(オフショアの罠)。それでもマリアからリードを奪い、ヒート後半までそれを守り続けた。マリアはさすがに波には乗るものの、いい波に乗れない。いい動きができない。イライラしているようにも見えた。しかし後半の後半にオフショアに整えられたきれいな波を捕まえる。そしてその美しいリップを2度ヒットする。これで逆転。3つ年上のワールドカッパーの意地を見せた。

堺は二年連続の2位。悔しかっただろう。この冬は御前崎でも練習していたと聞く。いつもの御前崎の風ならば、と思ったかもしれない。でも立派だ。あの難しいコンディションの中、ワールドカッパーと互角に戦ったのだ。いい経験をした。きっと課題も見えただろう。引き出しも増えたかもしれない。それらをみんなひっくるめて自信にしてくれたらいいなと思う。

|| マスターズキング・池田義隆、四連覇達成

今大会の最後のヒート『マスターズクラス』のファイナルが始まる頃には、風はほとんど真オフに振れていた(と思う)。波の飛沫が真っ直ぐ沖へ飛んでいくので、海上にいるコンペティターが見えにくい。こりゃあ乗りにくそうだなと思っていると、スタート早々に池田義隆がいいサイズの波に乗る。そして1発リップをヒット、2発目では波に戻れずワイプアウトしたもののポイントを獲得、対戦相手にプレッシャーをかけることに成功する。さすがだ。

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Yoshitaka Ikeda

池田は元プロライダーで、多くの試合を経験している。陸では軽口を叩きながら、海では誰より真剣に勝ちにいくタイプだ。聞いたところではこの日の試合のために、事前に近くのポイント(多分須々木の浜)でポートの波乗りを練習していたとのこと。そういう行いがこの1本を可能にした、と言っても過言ではないと思う。ヒート中盤になっても、他の選手はほとんど波に乗れていなかった。その後、ファイナリスト4人がトライを重ねたが、目を引いたのは最初に強い印象を残した池田だった。

優勝はもちろん池田。文句なし。この大会が『御前崎ジャパンカップ』として行われていた頃から続く四連覇を達成! この人を止めるのはなかなか難しそうだなという気がする。だってまだまだウインドが大好きで、年々ナチュラルにスムーズになっているように見えるんだから。

第2回『御前崎ジャパンワールドカップ』は、無事全クラスを消化して終了した。そのときみんなが嬉しそうな顔をしていた。多くの人たちが「また来年」と言い、多くの人たちが「来年こそは本来の御前崎で」と言っていた。

いつもの御前崎の強風・爆風は吹かなかった。世界のトップライダーたちの本物のハイジャンプや高速で波を削りまくるウェイブライディングは見られなかった。それでも大会は、この状況でその動き! という驚きに満ちていた。スポンサーも選手も運営サイドも、ギャラリーもボランティアも、レスキューのスタッフや地元の人たちも、みんながみんなこの大会を盛り上げよう、成立させようとしていた。

この大会にはW杯の緊張感があり、そして変な言い方にはなるけれど、きわめてレベルの高い草大会のような温かさと一体感がある。W杯の試合がウインドサーフィンの楽しみの一部であることを、改めて発信する力がある。また来年。今度は爆風の中で世界がどう変わるのかを見てみたい。厳冬の御前崎の冷たい風の中に、W杯の熱とこの場所ならではの温もりを感じながら。(文中敬称略)

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Pro Junior Boys ▶︎ 2nd=Hayata Ishii/1st=Liam Dunkerbeck/3rd=Ryu Noguchi/4th=Ryoma Sugi
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Junior Boys ▶︎ 2nd=Ryoma Sugi/1st=Ryu Noguchi/3rd=Haruto Konishi
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Junior Girls ▶︎2nd=Nozomi Sakai/1st=Maria Morales Navarro/3rd=Mii Yamada
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Masters ▶︎ 2nd=Takashi Endo/1st=Yoshitaka Ikeda/3rd=Dai Akimoto/4th=Masaru Niimi

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