PWA IWT WAVE TOUR_5-Star Event
2024 SPICARE OMAEZAKI JAPAN WORLD CUP
Men & Women Wave / February 19-25 / Long-Beach, Omaezaki, Japan / Photo by Akihiko Harimoto
|| バーンド・ロディガー優勝、大物対決を制す
午前8時過ぎから午後5時までの約9時間、メンズ18ヒート+ウィメンズ5ヒートをオートマチックスタートにより次から次へ、合計23ヒートを完遂、男女のプロクラスが成立した。昨日も述べたように世界トップレベルの選手らは超人だった。
風はスタボー(海に向かって右から)のクロスオン、しかもライトウインド。特にインサイドはひよひよで、プレーニングが叶わない。波はセットの裏の乗り手のセイルの第1バテンまでが隠れるくらい。間隔が短くジャンクな波で、海面の大部分を多層化したスープの泡が埋めていた。御前崎のローカルが「普段はこのコンディションでは出艇しない」という状況だった。
もちろんジャンプはできない。この海でどこまでできるかの波乗り勝負だ。いや、そういう限界を設定したような言い方はーー特にメンズのクォーターファイナル(ベスト16)に残った選手らに対してはーー適切ではない。彼らは試合のフェイズをがらりと変えた。そのアグレッシブな動きで舞台を華やかに装飾し、激しいバトルで見るものの時間感覚を狂わせた。クライマックスへ向けてのスリルとサスペンスに溢れる雰囲気を醸成した。
勝ったのはマウイのバーンド・ロディガー。型を崩しても形なしにならず、非常識な動きをスタイリッシュな常識に変えるイメージセッター。2位=マルシリオ・ブラウン(世界ランキング1位、現ワールドチャンプ)。3位=ヴィクター・フェルナンデス(3×ワールドチャンプ)。4位=モーガン・ノイロー(3度『アロハクラシック』を制したホキーパ・マスター)。
4人の特徴などについてはまたの機会に書きたいと思う。ただここでひとつだけ述べるとすれば、彼らに共通しているのは、それぞれに明確な強みがあり、明確な弱みがないということだ。だから相手は攻めようがない。彼らに勝つには自分以上の自分を出すしかないのだが、そんな自分にはなかなか「出会える」ものではない。だから多くの場合、彼らは負けない。「自分の波乗りができるもの」対「自分の波乗りをさせてもらえないもの」との戦いになるからだ。
|| 佐藤素子、まとめる力で連覇達成
日本選手の話をしよう。今年もビッグニュースが生まれた。2004年に『アロハクラシック』を制し「世界のモトコ」としても知られる日本のウェイブクイーン・佐藤素子が、去年に続きこの大会で連覇を果たしたのだ。
最初はうまくいかなかった。ホームの御前崎とは思えないオンショアの軽風とジャンクな海面に翻弄される場面もあった。だが素子はヒート重ねるごとに「成長」した。自信のあったバックサイドのライディングの得点が伸びないことがわかると、フロントサイドメインの波乗りに切り替え、いやこの状況なら両方をバランスよく組み込むことで確かな流れが生まれるはずと、さらに全体の構成をアジャストした。
わずか0.47ポイント差で下したマウイのサラ・ハウザーは強敵だった。ジョーズの大波も経験した彼女の波乗りは、ジャンクなコンディションの中でもきわめて安定していた。複数の有名ウインドサーファーのトレーニング・コーチも務めるサラの体幹は強く見え、波乗りの際のボードにブレがなく、思い通りにパワーの交換・伝達ができているように思えた。
サラはベターな波を掴み、いいところで何発かのリップをメイクして、早めに波からプルアウトした。インサイドまで乗り継いで、ゲティングアウトで手間取るリスクを避けたのだ。それはまっとうな戦略だった思う。
でも素子はそうはしなかった。今日アジャストし続けたラインの精度を高めようとした。ファイナルヒートの終盤には、フロントリップから長めにバックサイドへ引っ張ってフリップ、さらにそこから2度のフロントリップを成功させてロングライドをメイクした。つなげる、流れをつくる、まとめる、締めくくる。その中にアクセントやシンコペーションを加えて、1本の波を最後まで乗り切る。素子はそういう波乗りでジャッジやギャラリーの目を引き付けた。「インサイドのリスクのことは考えないで」見事に優勝を勝ち取った。
|| 中学2年生、若狭夏希、幻のビッグサクセス
午前9時にスタートした女子の第2ヒートで前代未聞の出来事があった。この時間の海はこの日最も荒れていた。風が弱く、波は大きく、分厚いスープが海面の大部分を覆っていた。女子にはハードすぎる、沖に出られればめっけもん。そんな思いで海を見ていた人が多かったと思う。
その通りになった。スタートホーンが鳴っても、なかなか演技は始まらない。ゲティングアウトのためだけに、どんどん時間が過ぎていく。静かな会場に最初に歓声が上がったのは、一人の選手がビッグセットを目の前にしたときだった。間に合うか、その波を越えられるか、無理かもしれない。彼女のボードはフェイスを上って直立し、波はオーバーハングして今にも崩れんとしていた。ダメか、巻かれるか、その波に・・・「うおーっ!」いや、越えたぞ「すごいっ!」会場のMCが雄叫びを上げた。
彼女はひとりゲティングアウトを果たし、その後おそらくこれまでの人生で一番の大波に乗った。そのヒートで唯一のポイントを獲得した。「どきどきしたけど、気持ちよかった」そして逗子の中学2年生、若狭夏希、真冬の大冒険成功! と、喝采を浴びるはずだった。
だがそれなのに、そのヒートはなぜかキャンセルとなり、再戦の運びとなってしまった。理由は、一人にしか点数がつかなかったから。? 結局彼女は再戦で負けたが、勝ったようなものだ。どんなルールがあるのかは知らないが、多くの人がそう思っているはずである。だから言う。やったね、すごかった、おめでとう。
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