『アロハ・クラシック』日本選手3人がトップ16に

THE IWT WAVE TOUR
ALOHA CLASSIC 2022
October 24-28 / Hookipa, Maui, Hawaii

(ハワイ・マウイ島・ホキーパビーチ・10月24日~28日/※大会の写真はIWT Wave Tour のフェイスブックでご覧ください)

「ウェイブ・パフォーマンスの聖地」と言われるマウイ島ホキーパビーチで、今年最後のウェイブ・ビッグ・イベント『アロハ・クラシック』が開催された。そのプロクラスは大会2日目と3日目(現地25日と26日)に行われ、日本からは杉匠真(20歳)石井颯太(17歳)石井孝良(21歳)の3選手が参加した。

『アロハ』といえばビッグセットがつくる波の谷間で、乗り手はもちろんセイルもほとんど見えなくなる、というようなコンディションを思い浮かべるところだが、今回は違った。波はセットでアタマ半ほど、風も大方ライトウインドのままだった。大会期間が短く、その後の風・波予報も芳しくなかったからだろう。「えっ、これで?」と思われる状況化でコンテストは決行された。

|| 杉匠真、世界チャンプと接近戦

杉匠真はホキーパにしては不十分なコンディションの中でも躍動した。ラウンド1で地元マウイのリーバイ ・サイバーとフランスのチトアン・フレチェットを退け、早々にクォーター・ファイナル(ベスト16)進出を決めた。

リーバイは2013年のアロハ・クラシック王者で、ホキーパの波乗りスタイルキングの一人とされる大物だが、その彼がこの日のホキーパでは苦戦した。波に乗り、技を仕掛ければ、その一発一発に重厚感はあるのだが、肝心のいい波をなかなか見つけることができなかった。

一方杉は多くの波に乗った。張りのない波の上でもよく動き、リップで多量のスプレーを飛ばした。その中の1本のライディングではきわめてクリーンなゴイターをメイク、見せ場の少ないヒート全体に刺激を与え、ジャッジに強烈な印象を与えた。

ライブ中継を見ていた僕は「これが杉だ、いや、これも杉だ」と思った。もう何度も言っていることだが、W杯のフリースタイル競技にも参戦している杉は、平水面からビッグウェイブまで、適応コンディションが幅広い。地元の逗子でも風さえあれば海に出て、波が少しでもあれば当たり前のようにその波の上でアクションを仕掛ける彼は、その日の海にどう合わせるべきか、それを見つける術に長けている。

杉はクォーター・ファイナルでもその強みを発揮した。風上に上っていきながら海面をチェック、良さそうな波を見つけてテイクオフ、ボトムターン、トップターン、すぐにボードをバックサイドに振って、フリスタトリックのひとつであるシャカをメイク、さらにそこから再びボトムターン、カットバック、2発リップをヒットした。

だがそれだけでは終われない。このヒートには今季PWAウェイブ・チャンプのマルシリオ・ブラウン(ブラウジーニョ)と、これまでに『アロハ』を3度制しているホキーパ・マスター、モーガン・ノイローがいたからだ。二人のうち、少なくとも一人を倒さなければセミ・ファイナルには進めない。

杉は最後の波で勝負に出た。ライブ中継のMCを担当していたカイ・カチャドリアンが雄叫びをあげる。「スカイ・マッシブ・ゴイター、ヒュージ!」杉はそれまでのヒートの中でおそらく一番大きく高いゴイターをメイクした。これでいける。勝てた、と僕は思った。しかし結果は逆にでた。

それがなぜかは分からない。ただブラウジーニョとモーガンは、深いターン、バーチカルなアプローチ、波のきわを全壊させるフルリップ、スラッシュバックなど、クラシカルなライディング・スタイルで自分のヒートに質の高い基礎を築いていた。その上にスナップの利いたアクションや、ワンハンドゴイターなどの大技をプラスすることで、得点を上乗せすることに成功したのかもしれない。

|| 石井颯太、驚異のオーバーハング・リッピング

プロクラスが行われる前日に僕は石井颯太(ハヤタ)の動画と写真をチェックした。動画の中のハヤタはキビキビと動き、まるでルーティンの一部のようにゴイターやスラッシュバックを決めていた。そこが激しい波がブレイクするホキーパとは思えないほど楽しそうに。写真もたくさんあった。フォトグラファーは頻繁にハヤタにフォーカスしていた。それはハヤタがすでに聖地における魅力的な被写体として認められていることの証明にも思えた。

大会が始まる。ラウンド1。相手はリカルド・カンペロとイタリアのダニエル・ディ・ローサ。
リカルドは2018年ワールド・ランキング2位の実力者で、常に優勝候補に挙げられるトップ・ウェイバーの一人だ。フリースタイルでも3度世界チャンプの座に就いた彼は、波の上でもラディカルに動き、相対的に派手な演技で相手を圧倒する力を持っている。

でもそんなことは関係ない。ハヤタはノリノリだった。リカルドがホキーパにしては不十分なコンディションに、いつもの動きを制限されているように見えるのに対して、ハヤタはここへきてまたも急成長を遂げている彼のままに、伸び伸びとした演技を披露した。

印象的な1本があった。おそらくそれが勝利を決めるライディングになった。ハヤタは波にテイクオフしたところから、ややラフ気味(風上側)にRをつけてボトムに降りた。そこから一気にベアしてボトムターンに入っていった。それは「いきなり」というのが相応しい瞬時のベアで、ぐいんとカーヴィングが始まっていく。そのときのメリハリ、フォームが息を呑むほどカッコよかった。さらにハヤタは風上側へ上るようにフェイスを上り、ギリギリのところでオーバーハングしたリップを蹴り飛ばし、次のリップへとラインをつないでみせたのだった。

「マジか」と中継を映すPCの前で僕は叫んだ。今の彼にはまだ重厚感はないけれど、いい意味での軽い感じが常にあるように思う。彼の中には万能感が溢れているのではないか? いつもイケイケで、怖いもの知らずのようにアクトする彼には、失うもののない選手だけが持つ強さがあるのではないか? そんな気がする。ハヤタは今、とてもハングリーである。プロクラスの試合となれば、いつも上位の選手を食いたいと舌なめずりをしている(ように見える)。恐ろしく、頼もしい17歳である。

で、そのあとハヤタはクォーター・ファイナルで敗れた。だがこの大会を目にした誰もが(というのは言葉の綾で、多くの人が)ハヤタのポテンシャルの高さに舌を巻いたことと思う。IWTのレポートにはこうある。「(今大会で)傑出した選手の一人は日本のユースライダー・石井ハヤタだ。その流れるようなスラッシュ・ハック(リッピング)とクリーンなエアリアルは、ジャッジを驚かせるものだった」

|| 石井孝良、敗者復活戦からベスト8へ

石井孝良(タカラ)は、ラウンド1で負けた。波乗りもゴイターなどのアクションも、いつもの彼のそれではなかった。なかなかエンジンが温まらない感じのままに、ヒートが終わってしまった。コンディションが想定外だったことに戸惑ったのかもしれない。攻め方をイメージできないままに、試合に臨むことになってしまったのかもしれない。狙い球を絞りきれずにバッター・ボックスに立つ打者みたいに。

だがこの負けでタカラは覚醒した。リデンプション・ヒート(ラウンド1とクォーター・ファイナルの間に設けられた敗者復活ヒート)では本来のキレを取り戻し、ゴイターやタカなどの大技もメイクして、ボジュマ・ギロールやリーバイ・サイバーらの大物を退けた。

僕が「タカラといえば、これだよな」と思ったのは、スタイリッシュなウェイブライディングだ。スピードのあるボトムターンからフルリップ、そこにあるすべての水を抉り取るようにして撒き散らすビッグ・スプレーには独自性があり、その巨大な扇型の水のスクリーンに一瞬の芸術を見る思いがした。それは無難な動きを強いられがちなコンデションの中で、一際目立つパフォーマンスのひとつだったと言っていい。

杉やハヤタは一足先にクォーター・ファイナル進出を決めていた。だからタカラは負けるわけにはいかなかった。おそらくその思いがこの試合での彼の出力を高めるブースターになった。
タカラはヒートを重ねるほどにどんどんアグレッシブになっていき、見事“二人と同じ”クォーター・ファイナルに辿り着いた。それどころか、その勢いのままにセミ・ファイナル(ベスト8)進出まで果たしてしまった! 日本選手同士の切磋琢磨がタカラの限界を引き上げたということになるのかもしれない。世界のベスト16に日本の3人が食い込んで、互いに負けじと次を目指す。その「次」には世界の頂が見えている。まったくとんでもないことが現実化しているのだと思う。

タカラは最終的にセミ・ファイナルで敗れた。だがそこで力尽きたというわけではない。わずか「2点差で」ブラウジーニョと(世界的ウォーターマンとして名高い、あの)カイ・レニーに及ばなかっただけだ。

あと少しで、もうひとつでファイナルというところに、どんな壁があるのか? やっぱり僕には分からない。でもライブを見ながら直感的に───ここぞというときにもう一段ギアを上げれば、波状攻撃を仕掛ければ、対戦相手にもジャッジにも「勝ちに来た」思わせるような動きを連続的にメイクできれば───勝てる、と思った。それは難しいことだけど、タカラやハヤタやタクマならできる、と思った。彼らは昔の僕が不可能だと思っていたいくつものことを実現してきた3人なのだ。もう手持ちの物差しでは何も測ることはできない。僕はただ(みなさんとともに)次の「まさか!」を期待するばかりである。


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