|| 3年振り 津久井浜でW杯開催決定
(10月13日、東京・全日本空輸株式会社本社にて記者会見)
ANAウインドサーフィンワールドカップ横須賀・三浦大会実行委員会(事務局:横須賀市、会長:上地克明氏) が、来る11月11日(金)〜11月15日(火)までの5日間、神奈川県横須賀市の津久井浜海岸において、2022年PWAワールドツアーの最終戦となる『ANAウインドサーフィンワールドカップ横須賀・三浦大会』 を開催すると発表した。
同大会は2017年から19年まで、3年連続で開催されていた。しかし19年の大会を終えたあと、世界がコロナウィルスによるパンデミックに見舞われたことにより、20年と21年の大会は、その開催を断念せざるを得なかった。今年に入ってからもその状況が完全に収束したとは言いがたく、今大会を開催するにもあたっても、クリアすべき課題が山積していた。なかでも一番大きな問題はスポンサーの経営環境の回復状況であり、それについて大会実行委員会会長で横須賀市長の上地氏は、かなりの不安を抱えていた。だが、あるとき力強い声が聞こえた。「こういうときだからこそ盛り上げていきましょう」と、冠スポンサーであるANAの井上慎一社長(実行委員会副会長)が言ったのだ。この一言により実行委員会は活気づき、大会の計画は一気に前進した。そしてこのほど3年ぶり4回目の大会を開催することが決定した。
||「世界最高峰・最先端のスラロームを目撃せよ!」
3年前の大会では、観客動員数が10万人近くまで膨れ上がった。これはPWAツアーの中でも際立つ数字であり『ANA横須賀・三浦W杯』は、ウインドサーフィン界のビッグイベントのひとつとして認められる大会になった。今回はさらにそれを上回る大会となることが期待されるが、果たしてそれは可能なのか? 答えはイエスだ。いくつかのポジティブな変化がある。
1)大会日程が以前の5月から11月に変更されたことで、グッドコンデションが長く続くことが予想される ▶︎ 11月は大会会場である津久井浜に北寄りの風が安定して吹く時期だ。平均風速は3.9m/s(約8ノット)。今回行われる『スラローム競技(風上から風下へ、いくつかのブイを回りつつ、ジグザグに走って順位を競うスピードレース)』のミニマム・ウインド(最低風速)は5ノットだから、いつもの風さえ吹けば、それで十分にレースは成立することになる。もちろんそれ以上の風が吹くことも多いので、大会期間中には数多くのレースが成立する可能性が高い。
2)PWAのスラロームは『フォイル&フィン』のミックス・スラロームに ▶︎ かつては「スラローム」と言えば強風レースのイメージが強かった。レースコース全体に十分な風が行き渡るコンデションに恵まれず、レースが成立しないこともしばしばだった。だが、今は違う。ボードにセットする「フォイル」が開発され、それが急速に進化したことにより、スラロームのミニマム風速はわずか5ノットに引き下げられ、レースは格段に成立しやすくなっている。
さてここにでてきた「フォイル(Foil)」とは、水中翼(HydroFoil)あるいは水中翼船のことである。ウインドサーフィンでは、水中で機能するようにボードのボトムにセットするウイング・システムのことを言う。形状は飛行機に似ており、マスト(支柱)フューサレージ(胴体)フロントウイング(主翼)リアウイング(尾翼)で構成される。その揚力発生効率はきわめて高く、微風でも乗り手ごと道具をリフトさせる(浮かせる)パワーを発揮する。
整理する。ここまでいろいろ述べてきたが、つまりはこのフォイルの登場が、PWAのルールを変え、スラロームを変えたのだ。いま簡単に振り返れば、2021年には、それまでフィンボード(従来のフィンをセットした接水型ボード)のみで行われていたスラロームにフォイルの使用が認められるようになり、選手はコンディションに合わせてフォイルかフィンを選べるようになった。そのことによりスラロームの風域は格段に広がり、アベレージスピードも向上した。レースはよりスリリングなものとなり、広くギャラリーを満足させる力を得た。そして同時に(というか一方で)選手には日々更新されていく勝者のスキルが求められるようになっている。
3)混沌のトップ争い ▶︎ ルール改訂後、今日までにPWAツアーでは2021年のイスラエルとコスタリカ、2022年のシルト大会と3つのスラロームレースが成立している。その初戦のイスラエルでは、フランスのニコラス・ゴヤードが圧勝した。2019年のフォイル世界チャンピオンである彼は、5つの有効レースの全てにフォイルを使用し、その全てでトップフィニッシュを果たしたのだ。衝撃だった。大会前には「ライトウインドならフォイル、強風ならフィン」との見方が大半を占めていたのだが、ニコラスは25ノットのブローが吹き付ける中でのフィン勢との争いでも、別格のスピードと強さを示し、優勝をかっさらってしまった。
ニコラスはこのときのパーフェクト・ウィンによりフォイルの限界の高さを証明し、当時ワールドカップ・レーサーの中に構築されていた秩序をぶち壊した。それまでトップ3と言われていたピエール・モーテフォンやアントワン・アルボー、マテオ・イアキーノらにも「簡単には勝てない」事実を突きつけ、フォイルを得意とする若いレーサーたちに希望を与えた。
だがそのニコラスでさえ、今は混沌の中にいる。今年9月に行われたシルト大会でニコラスは9位。優勝したのは、2021年のPWAフリースタイル・チャンピオン、アマド・ヴリィズウィックだった。もう誰が勝つのか、まったくわからない状況である。
4)2022年PWAワールド・ツアー最終戦、今のトップ・スラローマーは誰なのか? 多くのレースがフロックを排除する ▶︎ 今大会は2022年PWAワールドツアーの最終戦として行われる。今季のすべてがここで決まり、ここで終わる。世界のトップレーサーが津久井浜に集結するのは確実で、本気中の本気のバトルが展開されること必至である。しかも先にも述べたように、数多くのレースが成立する可能性が高い。そうなれば「まぐれ」で勝つのは困難になり、上位に残れるのは本当に強くて速いレーサーだけになる。
それはつまり今大会を見れば、現段階のスラローム競技における選手の序列が分かり、世界一のスラローマーが誰かが分かり、そのスピードがどれほどのものかを確認できるということだ。世界がこの大会に注目している。日本のファンにしてみれば、我が国のスラローム絶対王である浅野則夫やスピード女王の穴山未生が、さらには2020年東京五輪女子ウインドサーフィンRS:X級代表で、現在は次期パリ五輪で採用されるiQFOiLクラスのレースにも出場している須長由季らが「どこまで世界に迫れるか」なども含めて、興味は尽きないことだろう。
11月11日から始まる『ANAウインドサーフィンワールドカップ横須賀・三浦大会』は、文字通り世界最高峰・最先端のスラローム・バトル・フィールドになる。この機会を逃す手はない。読者の皆様にも、ぜひともギャラリー・サポーターの一人としてこの大会にご参加いただき、ウインドサーフィン・イベントとしての成長を後押ししていただければと思う。
Windsurfing Magazine
ウインドサーフィン マガジン
NTTのウインドサーフィン・シミュレーターで選手の走りを体感できる ▶︎ 今大会の会場には、ボードとセイルからなるシミュレーターに乗り、VRゴーグルを装着することで、誰でも簡単に選手の走りを体感できるニューシステムが導入される。選手がつけたセンサーから高速送信されてくるデータにより、なんと「リアルタイム体感」も可能だというから驚きだ。この他にも「遠くのレースも間近に見られる」LED大型ビジョンによる解説付きのパブリックビューイングや、海上観覧船の運航、各種エキジビション、マリンスポーツ体験会など、ウインドサーファーはもちろん、そうでない人でも大会を楽しめる様々な仕掛けやイベントが用意されている。
▼Fly! ANA Windsurfing World Cup YOKOSUKA MIURA Japan 2022_PV