PWA W杯 ウェイブ最終戦

Mercedes-Benz Windsurf World Cup Sylt 2022
Wave Men & Women / Slalom Men / Freestyle Men / September 24 – October 03 / Westerlund, Sylt, Germany / Photo by John Carter_pwaworldtour.com

(9月24日~10月3日、ドイツ・シルト島・ウェスターランド)

PWAワールドツアーで一番のビッグイベント『シルト大会』が開催されている。コロナの影響で3年ぶり、37回目となるこの大会に、日本からは杉匠真(J-7 / 20歳)と石井孝良(J-20 / 21歳)が参戦している。二人がともにエントリーしているのはウェイブ種目で、同種目は今大会が今季3戦目にして最終戦ということになる。

当サイトで既報の通り、二人は今季からPWAのメイントーナメントに参戦し始めた新人だが、そうとは思えない活躍ぶりで、現在年間ランキングでいい位置につけている。

▶︎杉 匠真=第1戦・カーボ・ベルデ大会8位/第2戦・ポッゾ大会17位/現年間ランキング11位
▶︎石井孝良=第1戦・カーボ・ベルデ大会6位/第2戦・ポッゾ大会25位/現年間ランキング12位

トップ10は目前、世界のクォーターファイナルに残れる力があることを示す『トップ8』にも食い込める可能性がある。大いにある。二人もおそらくそれを狙っている。この大会の結果次第で、自信も周囲の見方も他の選手への影響力も、いろんなことが変わってくる。

|| 杉匠真 / 石井孝良『闘争中』

9月26日、大会3日目。二人の戦いが始まる。風はポートのクロスオン、25-30ノット(12.5-15m/s)。波は3-4フィートという発表だが、実際には、というかライブ中継の画面を見た印象ではもっと大きいように思える。セットの波はおそらくロゴハイを超えている。しかしそのサイズは問題ではない。問題はアウトサイドでは波乗りができるようなまともな波はブレイクせず、波乗りができるのはインサイドで割れる波だけで、それがシルト特有のダイナマイト・ショアブレイクであるということだ。

その波はインサイドで急激に盛り上がり、ものすごい水量になって一気に崩れる。まさにダイナマイトのように爆発する。当然ダンパーが多く、乗れる波を見つけにくい。乗れたとしても崩れ方を読みにくく、描くべきマニューバーラインをイメージしにくい。何かを間違えてその波に巻かれれば、身体も心も、ある場合には道具まで、大きなダメージを負うことになる。

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Takara Ishii(J-20)

石井はラウンド1でスペインの若手、マリーノ・ギル(E-959 / 20歳)に敗れた。ジャッジの採点は(ベスト2ジャンプ+ベスト2ウェイブの合計ポイントで)21.49:14.12。石井の動きは本来のそれではなかった。特に得意のウェイブライディングで得点を稼げなかった。彼にとっては今回が初めてのシルトであり、短いヒート時間の中でコンディションに合わせることが難しかったのかもしれない。

だが、それで終わったわけではない。石井はそのあと(敗者復活戦+グランドファイナルまでが行われる)ダブル・イリミネーションのラウンド1でドイツのベテラン、フロリアン・ユングを下し、同ラウンド2へ駒を進めている。ウェイブでのポイントもトータルポイントも伸びている。調子は上向き。シルトのコンディションに慣れさえすれば、まだまだ上を目指せるはずだ。

ウインドサーフィン・マガジン
Takuma Sugi(J-7)

杉はシングル・イリミネーション(ダブルの前の最初のトーナメント)のラウンド1で、ドイツのジュリアン・サーモンに勝利した。ヒートの途中でマストトップが抜け、セイルチェンジを余儀無くされたが、それでも高得点のダブルフォワードをメイクするなどし、力があることを証明した。そしてラウンド2でブラウジーニョ(マルシリオ・ブラウン)と対戦した。

2013年のPWAウェイブ・ワールド・チャンピオンであるブラウジーニョは、杉が(そして石井も)憧れている選手の一人だ。彼は現在33歳だが今だに進化を続けている。それどころか、現在最強のオールラウンド・ウェイバーとの呼び声も高い。いつでもどこでも強い。杉はそんなブラウジーニョと初めて戦うことになったのだ。特別な思いでそのヒートに臨んだに違いない。

一方のブラウジーニョも杉を意識していたのかもしれない。この若手を勢いに乗らせてはいけないと。ヒートが始まるやいなや、ブラウジーニョはフルスロットル、まずはダブルフォワードを成功させ、次に沖へとゲティングアウトしていく際にはテーブルトップ・ダブルフォワードをメイクした。その得点、なんと9.62。現在最高難度と言われる技を、ほぼ完璧にやり遂げて見せたのだ。

杉も最初はダブルフォワードで応戦した。でもその技は決まらず、その後のヒート時間はあっという間に過ぎてしまった‥‥ジャッジの採点は30.37:9.38。完敗だった。だが杉の合計ポイントが9.38というのは理解できないことだった。普通なら悪くても20ポイントくらいは稼げる地力があるはずなのだ。なぜだ、何かあったのか? 

ヒート終了後にジャッジの採点表を確認してみると、杉はジャンプを3本飛んだだけで、波にも2本しか乗っていなかった。心配なのはジャンプのポイントが異常に低かったことだ。最初のダブルフォワードが3.12、次のフォワードが1.00、3本目は普通はジャンプ技としては使わないシャカで1.00。もしかしたら最初のダブルで身体のどこか(足首とか?)を傷めてしまったのかもしれない。3本目に高さのいらないシャカを飛んだのは、そのせいだったのかもしれない。真相はわからない。ヒート後、杉は自らのフェイスブックで「ダブル(イリミネーション)も頑張ります」と言っている。何でもなかったことを祈る。

杉と石井の名前はダブルイリミネーションのラダー表、ラウンド2の枠内に残っている。現在までの暫定順位は(1度シングル・イリミネーションで勝った)杉が9位タイ、石井が17位タイ。戦いはこれからだ。シルトの風予報をみてみると、残りのヒートは10月1日の土曜日に行われる可能性が高いと思われる。ご期待ください。


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