WSF TECH 19_ビヨン・ダンカベックが教えてくれた

WSF TECH 19_To be Faster
速くなるためにすべきこと
Advice=Björn Dunkerbeck(SUI-11)

Björn Dunkerbeck(SUI-11)Aruba 2011 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com
Björn Dunkerbeck(SUI-11)Aruba 2011 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com

「そうだ!」前回のビヨンの記事を書いていて思い出した。もう10年以上も前のことになるけれど、ビヨンが来日したときに彼の特集記事を作ったことがある。彼は語ってくれたはずだ。日本のウインドサーファーに向けて、速くなるための方法を。そして僕は驚いたはずだ。彼の語る言葉の多くが、あまりにも当たり前のことであったことに。

当時の原稿を見つけた。特別なことなんてない。でも当たり前のことをパーフェクトにできている人間は一人もいない。多くの人は当たり前のことを理解していないし、そのことを知らない人だって少なくない。だからみんな速くなれる。ビヨンはそう言っていた。

彼がとくに強調していたことは三つ。基本と経験とポジティブな姿勢だ。つまりそれらが百年王者、ビヨンを構成する三大要素なのだろうと思う。それらのレベルをどこまで高められるか?「みんなまだまだいけるよね。伸びしろしかないよね」ビヨンはそうは言わなかったが、そんなニュアンスでアドバイスをくれた。その一部を加筆修正してここに載せる。

「プレーニングがしっくりこない」「最近スピードが頭打ち」という方、ご一読ください。

かつて速かった選手はたくさんいるが、今も速い選手はあまりいない。52歳になった今年、ビヨンは瞬間世界最高速103.67キロを達成した。百年王者はいつまで、どこまで速くなるのか Björn Dunkerbeck(SUI-11)Sotavento, Fuerteventura 2009 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com
かつて速かった選手はたくさんいるが、今も速い選手はあまりいない。52歳になった今年、ビヨンは瞬間世界最高速103.67キロを達成した。百年王者はいつまで、どこまで速くなるのか Björn Dunkerbeck(SUI-11)Sotavento, Fuerteventura 2009 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com

1)速く走るために大事なことは ▶︎ 一番大事なことは若いうちにウインドサーフィンを始めること。一日でも早くウインドを当たり前の玩具にしてしまうことだ。若ければ若いほど、水や風を感じる感覚や、道具をコントロールする感じを自分の中に取り込みやすい。少年と青年では、吸収力がまるで違うから。将来プロになりたいとか、世界を目指したいというのなら、ジュニアの大会など、多くのコンペティションを経験しておくことも大事だ。精神的にも強くなれるし、ライバルと競争することで成長も早まるから。

既に少年期を過ぎてしまっているのなら(あるいは青年期を過ぎている場合でも)コンディションを選ばないこと。ライトウインド 、オーバーコンディション、オフショア、サイドショアなど、いろんなコンディションを経験して、ウインドサーファーとしての懐を深くしていくことだ。

もっと具体的に? いや、たとえばセイルを引き込む、なんて言っても、経験が少ないと、どんなタイミングでどれくらい、どのように引き込むかを理解しにくい。それどころか、へんなところで引き込む癖がついてしまったりもする。それが減速の原因になっていることにも気付けずに、引き込んでいるのに速く走れないなんて悩みを抱えてしまったり。

ウインドサーフィンは自然とシンクロするスポーツだから、いろんなコンディションに対する適応力を広げていかないとうまくなれない。速くもなれない。だから時間があるときには海に出るようにすることだ。そうすれば身体も心も鍛えられる。どんな状況でも少しは前へ進める。何もしないでいると衰えていくよ。身体も心も。

2)セイルトリムを最小限に抑えて、セイルを安定させるには ▶︎ まずはセイルの軸を把握すること。それを中心にハーネスラインをセットして、セイルのパワーと正対する位置に身体をおくこと。この位置関係がずれてしまうと、セイルも身体も安定しない。そんな状態では、絶対に速く走ることはできない。

編集部注:セイルの軸はどこにあるか? セイルの第1バテン(エンド部)とマストベースを結んだ線を軸と捉えてほぼ間違いない。さらに覚えておきたいのは、セイルのパワーポイントは、セイルの軸とブームの上のバテンとの接点付近にあるということ。身体の正面ではなく、それよりも高い位置にあるということだ。セイルの多くは(というか、ほぼすべてのセイルは)そのようにデザインされている。これを知らないと、いろんな場面で(プレーニングでもジャイブでもその他の動きでも)ずれが生じて、バランスを取りづらくなる。

「セイルの軸とその中核であるパワーポイント」を「体幹とその中核である丹田(※)」で支える。これができると自然に下半身が安定し、上体から力が抜ける。楽で速いフォームが作りやすい ※丹田=ヘソより10cmほど下の下腹部。気とエネルギーの中心となる場所とされる Björn Dunkerbeck(SUI-11)Alacati, Turkey 2011 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com
「セイルの軸とその中核であるパワーポイント」を「体幹とその中核である丹田(※)」で支える。これができると自然に下半身が安定し、上体から力が抜ける。楽で速いフォームが作りやすい ※丹田=ヘソより10cmほど下の下腹部。気とエネルギーの中心となる場所とされる Björn Dunkerbeck(SUI-11)Alacati, Turkey 2011 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com

3)ボードコントロールに大事なことは ▶︎ 少しヒザを(前足よりも後ろ足を少しだけ深めに)曲げて、海面のギャップを柔らかく吸収すること。そうすることでセイルが安定する。もちろん平水面ではヒザを伸ばし気味にしてセイルパワーの伝達効率を高めるけれど、海面が荒れていたり、うねりがあるような状況では、ヒザを高性能なショックアブソーバーにしなければ満足には走れない。

編集部注:「ヒザを曲げる」といっても、ビヨンは決してヒザ周辺の力を緩めきっているわけではない。「柔らかく」といっても、ぐにゅっと大きく屈伸させる訳でもない。ビヨンの下半身は常に安定しており(腰の据わった状態にあり)ヒザを含めた脚は、超硬いけれど的確に反応する高性能なバネ(まるでエアサス)として機能する。だからこそセイルパワーを効率的にボードに伝えることができる。

4)オーバーセイルに強くなる方法は ▶︎ 答はシンプル。普段使うものよりも、大きめのセイル、大きめのボード、大きめのフィンで、たとえ30分でも我慢して練習すること。経験値を高めること。何もしなければ永遠に強くはなれない。

5)グリップ ▶︎ 僕はセイル手(後ろ手)は順手、マスト手(前の手)は逆手でブームを握る。その方が力加減をアジャストしやすいから。でもジャイブをするときにはマストベースへのプレッシャーを強めるために(インレイルへのプレッシャーを安定させるために)マスト手も順手に持ち替える。それからレースが続いたりして握力やパワーが落ちてきたと感じたときには、ブームを少し高めにセットして、両手とも順手でブームを握るようにする。重心を高い位置にもっていくことで、楽になれるような気がするから。

基本を知り、いろいろ試してアジャストして、自分のやり方を見つける。基本を知らずにアジャストすると、多くの場合混乱する Björn Dunkerbeck(SUI-11)Alacati, Turkey 2011 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com
基本を知り、いろいろ試してアジャストして、自分のやり方を見つける。基本を知らずにアジャストすると、多くの場合混乱する Björn Dunkerbeck(SUI-11)Alacati, Turkey 2011 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com

6)セイルポジション ▶︎ セイルのフットとボートとの隙間はなるべくなくすようにしている。でもだからといってその隙間をゼロにすればいいというものでもない。フットは水面にも、ボードから発せられるスプレーにも触れない、ぎりぎりのところまで下げるようにする。セイルに水が当たれば当然スピードは鈍るし、セイルがぐらぐら揺れて(セイルの)フォイルを流れる風も乱れるから。セイルを適切な位置にセットして、ボードはフラットにキープする、その精度が高まれば、巡航速度は確実に上がる。

7)でもね ▶︎ 僕の乗り方をただ真似してみたところで速くなれるとは限らない。最も大事なこと、覚えておくべきことは、ウインドサーフィンにはこれまでに述べてきたような基本的なことがいくつかあるということ。そしてそれらをパーフェクトにフォローできている人間はほとんどいないということだ。それはつまり、改めて自分と道具との関係を見直してみることで、誰でも今より速くなれるということでもある。伸びしろはまだまだある。キープ・セイリング!

▲ビヨン・ダンカベック_Björn Dunkerbeck(SUI-11)世界の強風ポイント、スペイン・グランカナリー島のポッゾキッズとして成長し、1984年、15歳でPWA(旧PBA)ワールドツアーにデビュー。'90年にはウェイブ、スラローム、コースレーシングの全種目を制し、ロビー・ナッシュに次ぐ二人目の完全王者となる。これまでに勝ち取ったワールドタイトルは42。世界瞬間最速103.67キロのレコード・ホルダー。「百年王者」の異名を持つ。1969年生まれ、52歳。 Björn Dunkerbeck(SUI-11)Costa Brava, Catalunya, Spain 2010 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com
▲ビヨン・ダンカベック_Björn Dunkerbeck(SUI-11)世界の強風ポイント、スペイン・グランカナリー島のポッゾキッズとして成長し、1984年、15歳でPWA(旧PBA)ワールドツアーにデビュー。’90年にはウェイブ、スラローム、コースレーシングの全種目を制し、ロビー・ナッシュに次ぐ二人目の完全王者となる。これまでに勝ち取ったワールドタイトルは42。世界瞬間最速103.67キロのレコード・ホルダー。「百年王者」の異名を持つ。1969年生まれ、52歳。 Björn Dunkerbeck(SUI-11)Costa Brava, Catalunya, Spain 2010 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com

────────────── Windsurfing Magazine ─────────────── ウインドサーフィン マガジン ──────────────

▶︎〈WSF TECH 18_波に縦のラインを描くには〉
▶︎〈WSF TECH 17_サーフィン的ウェイブにトライ〉
─────────〈波のパワーに合わせた道具で〉
─────────〈スラローム的ウェイブの経験を活かす〉
▶︎〈WSF TECH 16_スラローム的ウェイブから〉
─────────〈走り重視のウェイブギアで〉
─────────〈波のパワーを感じるセンサーを設置する〉
▶︎〈WSF TECH 15_ジャイブ10種〉
▶︎〈WSF TECH 14_波のフロントサイドへ〉
─────────〈スラローム的に、サーフィン的に、乗り分ける〉
─────────〈風と波のウェルバランスを感じ取る〉
▶︎〈WSF TECH 13_冬にウェイブを始めると上手くなる〉
─────────〈タフコン土産をゲットせよ〉
─────────〈レイルジャイブができなくても〉
▶︎〈WSF TECH 12_誰も見てない・・・マインド・リセット〉
▶︎〈WSF TECH 11_プレーニングに入るとボードが暴れる〉
▶︎〈WSF TECH 10_ブローが抜けるとラフしてしまう〉
▶︎〈WSF TECH 09_プレーニングすると下ってしまう〉