WSF TECH 18_波に縦のラインを描くには

WSF TECH 18_Vertical Wave Riding
ラインをつなぐ4つの言葉
Advice=Scott McKercher(KA-181)

Scott McKercher(KA-181)@ Cabo Verde 2009 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com ※ここに掲載する写真は取材時のそれではありません
Scott McKercher(KA-181)@ Cabo Verde 2009 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com
※ここに掲載する写真は取材時のそれではありません

もう10年以上も前のことだが、プロモーションで来日していたスコット・マッカーシャーに会いに行ったことがある。初秋の千葉県白里海岸。2004年のPWAウェイブチャンプであるスコットは、そこで風待ちをしていた。波は小さい。だが風さえ上がれば、ここでもすごいライディングを見せてくれるはずだ。僕はそう思った。

スコットはホームの西オーストラリアでもカボ・ヴェルデでもポッゾでも、波が大きくても小さくても、フェイスがクリーンでもジャンクでも、常に深く鋭く、しかもスムーズなラインを描くウェイブライダーとして知られていた(いまも知られている)。ジャンプでは彼よりうまい選手も多く、容姿や動きが派手で、彼以上に華のある選手も多かったが、スコットにはいぶし銀的な渋さがあり、ウェイブ職人的な特殊技能が感じられた。

僕は風のない海で、事前に用意しておいた──ここに掲載したのとは別の──数枚の写真を彼に見せながら訊いた。これです、このライン、あなたのボードはボトムを深く抉り、フェイスを縦に昇っている。このラインを描くには、どうしたらいいのでしょう?

「OK」と言ってスコットは語り始めた。

Scott McKercher(KA-181)@ Tenerife 2011 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com
Scott McKercher(KA-181)@ Tenerife 2011 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com

「まずウェイブライディングは簡単ではない。だから僕は海に出たときにはいつもウインドサーフィンに没頭している。すぐにはできないことばかりだから、他のことはすべて忘れている。それでも失敗する。特に新しい動きをするときには、何度も失敗を繰り返す。脳内にそのための神経回路が出来上がっていないから、それは当たり前のことなんだけど、それでも『なんでオレはこんなことができないのか、何に怯えているのか』と、頭にくる。

僕の上達のプロセスを簡単に言えば、没頭→失敗→怒り→トライ→欲求の確認→失敗の分析と理解→没頭、の繰り返しだ。そのプロセスの中にあるとき気づきが生まれ、筋肉が何かを記憶し、そして僕は少し前進する。諦めずにそのプロセスを踏んでいけば、やがてオートマチックに身体が反応するようになっていく。僕はそうして上達してきた。38歳(当時)だけれど、まだまだ伸びしろがあると感じている。

で、縦のラインを描くにはどうしたらいいかってことだったね。それはコンディションによって、とくに風向きによって変わってくるわけだけど、たとえば風がサイドからサイドオフ、波が頭くらいだとすると、次の4つのポイントを挙げることができる。

1)ウェイト・フォワード ▶︎ ボトムターンは前足加重で行う。そうすることでスピードが得られる。レイルを波のフェイスにきっちり咬ませることも容易になり、ボードのロッカーなりにフェイスを縦に昇ることが可能になる。

2)クリュー・オープン ▶︎ ボトムターンに入る段階からクリューはオープンにして──セイルを開き気味にして──おく。クリューを閉じるとボトムターンが止まってしまうから。フェイスをバーチカルに昇るには、このことが極めて重要なポイントになる。

3)ツイスト・ボディ ▶︎ 波のトップに到達する直前に身体を捻り、波のパワーでボードを返して弾け飛ぶ。波のパワーを感じてリアクトする。

4)リグ・アップ ▶︎ 全体を通してリグ(セイル部)は上方にキープしておく。マストをボードの上に垂直に立て続け、マストからボードに伝わるセイルパワーの伝達経路をキープする。セイルの風圧中心をしっかりボードにコネクトさせておく感じだ。これができないとスピードが落ち、バランスも崩れる。

この4つのポイントを脳に記憶させ、あとは没頭して身体に覚え込ませる。やがて無意識にできるようになる。ウインドサーフィンというメンタルゲームにきみの心が負けない限りね」

Scott McKercher(KA-181)@ Gean Canaria 2007 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com
Scott McKercher(KA-181)@ Gean Canaria 2007 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com
▲スコット・マッカーシャー_Scott McKercher(KA-181)1992年22歳でPWAツアーにデビュー。当時から玄人受けするパワフルでスムーズなライディングが持ち味で、瞬く間に世界のトップライダーに。2004年PWAウェイブ・ワールドチャンプ。2008年PWAツアー引退。ホームの西オーストラリアで今もぐりぐり乗ってる1970年生まれの50歳。 Scott McKercher(KA-181)@ Sylt 2007 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com
スコット・マッカーシャー_Scott McKercher(KA-181)1992年22歳でPWAツアーにデビュー。当時から玄人受けするパワフルでスムーズなライディングが持ち味で、瞬く間に世界のトップライダーに。2004年PWAウェイブ・ワールドチャンプ。2008年PWAツアー引退。ホームの西オーストラリアで今もぐりぐり乗ってる1970年生まれの50歳。
Scott McKercher(KA-181)@ Sylt 2007 / ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com

────────────── Windsurfing Magazine ─────────────── ウインドサーフィン マガジン ──────────────

▶︎〈WSF TECH 17_サーフィン的ウェイブにトライ〉
─────────〈波のパワーに合わせた道具で〉
─────────〈スラローム的ウェイブの経験を活かす〉
▶︎〈WSF TECH 16_スラローム的ウェイブから〉
─────────〈走り重視のウェイブギアで〉
─────────〈波のパワーを感じるセンサーを設置する〉
▶︎〈WSF TECH 15_ジャイブ10種〉
▶︎〈WSF TECH 14_波のフロントサイドへ〉
─────────〈スラローム的に、サーフィン的に、乗り分ける〉
─────────〈風と波のウェルバランスを感じ取る〉
▶︎〈WSF TECH 13_冬にウェイブを始めると上手くなる〉
─────────〈タフコン土産をゲットせよ〉
─────────〈レイルジャイブができなくても〉
▶︎〈WSF TECH 12_誰も見てない・・・マインド・リセット〉
▶︎〈WSF TECH 11_プレーニングに入るとボードが暴れる〉
▶︎〈WSF TECH 10_ブローが抜けるとラフしてしまう〉
▶︎〈WSF TECH 09_プレーニングすると下ってしまう〉
▶︎〈WSF TECH 08_ブローで前に飛ばされる?〉
▶︎〈WSF TECH 07_ハイジャンプのコツ〉
▶︎〈WSF TECH 06_波に乗ったらフェイスの上を横っ走り〉
▶︎〈WSF TECH 05_小波でなんちゃってテイクオフ〉
▶︎〈WSF TECH 04_ジャイブ、ボトムターン、前のヒザ〉
▶︎〈WSF TECH 03_ジャイブはマインドで変化する〉
▶︎〈WSF TECH 02_脱力乗りを身につけるために〉
▶︎〈WSF TECH 01_ジャイブ_中井忠則 / JPN-121〉