『ANA 横須賀・三浦ワールドカップ』Day 4(5月13日|月)

ハイパー・ライトウインド・フォイルレース
微風でもデルフィンは速く、怪我を負ってもピエールは踏ん張った
All Photo by John Carter_pwaworldtour.com

Pierre Mortefon(F-14)at The Start
Pierre Mortefon(F-14)at The Start

ある選手から聞いた話だ。午前中、10時ごろまでは津久井浜にいい風が吹いていた。多くの選手がフォイルやスラロームの練習をしていた。そのときに───2018年スラローム・ランキング3位の───ピエール・モーテフォンが負傷した。足(足の裏か足首あたりか)を深くカットして、病院で治療を受けたようだった。スラロームのレースが始まりそうな気配があった。だがそのあと、風はピタリとやんでしまった。もしスラロームが始まっていたら、ピエールは出場できなかったかもしれない。そういう意味では、彼はラッキー(不幸中の幸い)だったかもしれない。

Kiran Badloe(NED-9)
Kiran Badloe(NED-9)

午後1時過ぎ。大会2日目に行われたフォイルレースで暫定トップに立ったバドロー・キランが待機するテントに行ってみる。いい男だった。顔も人当りも。ハロー。僕が挨拶をすると、彼は立ち上がって握手をしてくれた。その握り方は柔らかく、そしてその身長はやっぱりすんごく高かった。立ち話をすると僕は上を向き続けなければならないので、彼にはパイプ椅子に座ってもらい、少し話をした。

「身長は195cm、体重は75kg、RS:X(オリンピック公式艇)にはベストなウェイトだよ。僕がフォイルをやるのは、もう長くRS:Xに乗ってきたから。いい刺激になるんだ。フォイルはカンファタブルでエキサイティングで、静かで速い。RS:Xでは20分以上もフルパンピングを続けることがあるけれど、フォイルではそれほどセイルを漕ぐ必要もないからね。なに、RS:Xとフォイルでパンピングのやり方に違いはあるかって? 少しある。セイルのパンピングとフットパンピング(連続的なボードの蹴り出し=ウーチング)を連動させるのは同じだけれど、RS:Xでは前足でボードを前に送り出すように、フォイルではフォイル(水中翼)に対して上から下に圧をかけるようにする」

僕は大型ヴィジョンで見た彼のパンピングを思い起こす。キランは長い手足を生かして、大きなストロークでソフトにセイルをパンプする。そして彼の全身は、まるで油圧ダンパーのように機能して、すべての減衰要素を消散させる。

ありがとう、東京オリンピックでまた会えるといいですね。僕がそう言うと彼は言った。「僕もそう願っている」

Delphine Cousin(FRA-775)Celebrates
Delphine Cousin(FRA-775)Celebrates

15:30、ほんの少し風が吹き始める。15:40、フォイルレースがスタートする。そしてほんの1時間でメンズの第3レースと、ウィメンズの第5・第6レースが成立する。レース後、ある選手は「ハイパー・ライトウインドだ」といい、またある選手はカタカナで(英語でも)4文字の悪態をついた。

ウイメンズクラスで勝ったのは、スラロームクイーンのデルフィン・カズン。2レースともトップフィニッシュ。女子の中では大型のデルフィンが、小さなロンドン五輪金メダリストのマリーナ・アラバウに走り勝って、暫定トップの座をより確かなものにした(リザルト参照)。

微風なのに? 少し不思議に思ったので、会場の大型ヴィジョンの前からビーチに降りていって二人の使用セイルを確認してみる。デルフィン=『S2マウイ・V-FR 9.0㎡』/マリーナ=『セバーン・ハイパーグライド2 8.0㎡』つまり体格差をセイルサイズで相殺して、デルフィンが勝利をもぎ取った。納得。いやそれにしたって、あの風であれほど走れるものだろうか。デルフィンの潜在能力は計り知れない。この風で勝てるなら、どの風でも負けないだろうという気がする。

Pierre Mortefon(F-14)in Control
Pierre Mortefon(F-14)in Control

メンズ第3レースのトップはトーマス・ゴヤード。2位はキラン。これで暫定トップに立っていたキランがまた優勝に近づいた、かと思ったら、キランはスタートでリコール(フライング)していた。これによりファイナルの順位は最下位の32位。暫定総合順位でも12位まで沈んでしまった。なんてこった。そう思った僕は、キランのファンになっていたのかもしれない。

で、総合トップに立ったのは誰だ? ピエールだ! 午前中に怪我をして、たぶん病院へ行き、もしかしたら痛み止めの注射を打っていたかもしれない。とにかく風が遅れて吹いてきたおかげで彼はレースに間に合った。そして5位でフィニッシュし、暫定トップに浮上した。フォイルは浮き上がってしまえば、足に伝わってくる衝撃が少ない。それがよかったのかもしれない。スラロームだったら、このように事は運ばなかったかもしれない。まあとにかく良かった。ピエールは大型選手の一人だ。それなのにこれまでの3つのレースを3位/3位/5位でまとめた。たいしたものだ。

Sebastian Kordel(GRE-220)Gybes
Sebastian Kordel(GRE-220)Gybes

セバスチャン・コーデルもポイントではトップに並んだ(5位/4位/2位の11ポイント)。4月のフランス大会におけるスラロームでも3位になった彼は、今年注目すべきレーサーの一人になろうとしている。それから日本の穴見は、あと一人というところで予選ヒートをクリアできずに、総合38位と6つ順位を下げてしまった。残念だが、そう悲観するほどのことではないような気もする。今後第4レースが行われれば、ディスコードルールが適用され、今日のレースをなかったことにできるのだ。そうなれば、またベスト32に戻れる可能性は高い。キランや他の選手にだって、またそれぞれのチャンスが巡ってくる。

Thomas Goyard(FRA-3)Gybes
Thomas Goyard(FRA-3)Gybes

もう一人、触れておかねばならない男がいる。トーマス・ゴヤード、危険な男だ。大会2日目の第1レースでは32位。未確認情報だが、これはおそらくスタートラインへの強引なカットインが違反と見なされたが故の結果だ。しかしそれで完全にスイッチが入ったのかもしれない。トーマスはその後に行われた第2レースでトップを獲り、そして今日のレースでもトップフィニッシュを決めた。

トーマスは27歳。PWAツアーのレギュラーメンバーであるニコラス・ゴヤードの兄である。8歳でウインドサーフィンを始め、18歳までニューカレドニアに育った。普段は主にRS:Xに乗っており、2016年には『RS:X ヨーロッパ選手権』で優勝している。今の一番の目標は(キランと同じく)「東京オリンピックに出場すること」だ。

トーマスとキラン、二人のRS:XレーサーがPWAのフォイルレースで暴れている。それがここまでで最も強く印象に残る事柄になっている。PWAレーサーたちは黙っているわけにはいかない。

おっともうこんな時間だ(14日、朝6時30分)。そろそろまた津久井浜に向かわねばならない。大会5日目(14日)のスキッパーズ・ミーティングは朝8時。いつもより2時間も早く設定されている。それはつまり、風が吹く可能性が高いということだ。運営サイドはスラロームを成立させたいと思っているはずだ。吹けばおそらくPWAレーサーの逆襲が始まる。さてどうなるか、楽しみだ。

(※4日目に収録した須長由季選手のインタビュー動画を追って公開いたします。お楽しみに)

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▼5月13日現在の暫定順位
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10_women