《 まず道具を支配下におくこと 》
8年前、9月、島根県波子。アレックスは石井久孝(元JWAウェイブ・チャンプ)とともに、そこでプロモーションライドをした。波は胸~肩。風はアウトサイドで8~9m/sのクロスオン。
・石井(177cm、80kg)=90ℓ+5.9㎡。
・アレックス(180cm、68kg)=66ℓ+5.0㎡。
アレックスは24ℓも小さいボードを選び、ほぼ1㎡も小さいセイルを選択した。そして石井やその日集まったウインド乗りたちを驚愕させた。アレックスは周囲の風を根こそぎ吸引するかのようなスピードで走りまくり、角度のあるアプローチでざっくり波を刻んでみせたのだ。
どういうことだ? その秘密の一端はセイルにあった。アレックスはダウンもアウトもほとんど引いていなかった。セッティングデータなど無視するかのように、アンダーチューニングを超えるアンダー仕様のソフトなセイルに仕上げていたのだ。そして言った。
「PWAの大柄な選手と対等に渡り合うには、自分の長所を最大限に生かさなくちゃいけない。軽い選手の長所は何だ? たいていはフレキシブル(柔軟)で俊敏であるということだ。それを生かすには、まず道具のパワーに引きずられないようにすること。道具を
“Dominate(支配)”することだ。だから僕は小さめの道具を選ぶ。そしてそれを支配する技術を磨く」
石井は言う。「僕はまず走らなければ始まらないと思っていた。でもアレックスはまず道具を支配することだと言う。この最初の一歩が違うと、その後に大きな違いが生まれる」
もちろんアレックスのやり方がみんなにマッチするわけではない。アレックスが言いたかったのは「セイルは(道具は)あなたの支配下にありますか(道具に引きずられていませんか)」ということだ。
日本人が倣うべきトップライダーとして人気が高いアレックスは、2016年、PWAの年間ウェイブランキングで2位(!)になった。
教訓───ウインドに大切なのはパワーではない。風、海、道具、人を一体化させるシンクロ力(同調力)である。そう思わせてくれるアレックスに乾杯。