WSF Interview_10_鈴木文子 / J-61
「11年目の再生へ」
鈴木文子_2016年PWAスラローム・シリーズ_リザルト
第一戦・韓国=12位(12)
第二戦・デンマーク=10位(10 / 13)
▶︎年間ランキング=9位
※カッコ内の数字は各レースの順位。
───もう10年、ワールドツアーに参戦している。経験はある。表彰台に立ったこともある。でも、まだ何かが足りない。トップでフィニッシュしたことがない。年間ランキングで表彰台に立ったことがない。何かを失っているのかもしれない。だがそれと引き換えに得てきたものも多いはずだ。鈴木文子は諦めない。11年目のシーズンが始まる。
───あなたのスラローマーとしてのストロングポイントはどこにあると思いますか。
それとは逆に自分で認識している弱点はありますか。
鈴木 ストロングポイントは経験、それからどんなコンディションでも戦えること。ライトウインドは得意ではないと思っていたけれど、体重が重い=ライトウインドでは不利、という考え方をやめて、身体が大きいぶん、それを生かせる乗り方に変えたことで、その風域でも勝てるようになりました。それに去年はなかったけれど、ニューカレドニアなどの強風コンディションも大好きです。
昔はレース経験が足りないから勝てない、とも思っていました。それで日本よりもレベルの高いところで経験を積みたい思い(2007年に)PWAに挑戦することにしたんです。
世界のトップ選手に混じって激しいマークでの混戦などを体験していくうちに、最近では色々なことが身に付いてきていると感じています。それが自信につながってきてもいます。弱点はスタートにブレがあることです。
───あなたにとって一番のライバルは誰ですか。
鈴木 私がプロになったときに一番の目標にしていたのは「日本一になる!」ことでした。それはつまり10年以上日本のトップに立ち続けていた石野田(恵江 / J-91)選手に勝つということで、ずっと彼女の背中を追い続けていました。「いつか勝ちたい、どうしても勝ちたい、どうにかして勝ちたい!」と。でもプロになって何年も、近づくことはできても勝てなかった。何年も負け続けたあの悔しい気持ちは今でも忘れずにいます。
同じように練習しているだけでは勝てない、と思うようになったのはその頃です。それで私は日本一になるために、PWAへの挑戦を始めました。で、その五年後(2012年)にやっとその目標(ジャパンツアーのスラローム・クイーンになること)を達成することができたんです。石野田さんは、私にとってライバルというのではなく、一番大きな影響を与えてくれた選手だと思います。
今のライバルは・・・世界でも日本でもトップ選手の入れ替わりが激しく、諦めていない選手には、誰にでもトップを狙えるチャンスがある。それだけ全体のレベルも上がっています。だから私にとってはみんながライバルということになります。
───去年のランキング(9位)は不本意なものだったろうと推測するのですが、足りなかったもの、学んだことなど、去年のレースをどう自己分析しておられますか。
鈴木 9位という結果よりもレース内容が悪かった。去年は二戦しかなく、成立したレースも全部で3つで、1つのレースが大きな意味をもつことになりました。どのレースも最大セットを使用するライトウインドで、もっといい結果を残すチャンスはあったはずです。
なのに韓国大会ではスタートで思い出したくもないほどの大失敗を犯し、デンマークではまさかのオンショアで、自分の得意なコンディションになったはずなのに、上手く歯車が噛み合わなかった。私のヒートで風が落ち、スタートを3、4回もやり直すことになったんです。魔のヒートでした。キャンセルになったレースでは、すべて勝ち上がれる順位を走っていたのに、二時間ほどのウェイティングを挟んだ後の再スタートでリコール(フライング)して万事休す。その二時間のあいだ、集中を切らさないようにしていたのに結果は最悪で、次のレースでもそのミスを引きずってしまった。
ただ、それでも年間9位に留まれたことは悪くない結果だと思っています。2013年からのシングルランキングをキープできたことをポジティブに捉えたいと。
でも去年は練習時間をうまく作ることができなかった。今年はそのベースの部分を再構築したいと思ってます。
───今季トップ3の壁を破るイメージはありますか。何が必要かなどを含め、できるだけ具体的にレースプランを聞かせてください。
鈴木 この数年はなかなかトップ3に絡めなかった。良くて4位、5位というところなので、トップ3に入れる何かを見つけなくちゃいけない。そのためには、まず今の自分に勝つこと。ミスをしないこと。レースはスタートからファーストマークまでで決まることが多いので、特にジャイブ。ここという場所を的確に攻めていけるようなジャイブを身につけたい。それにはとにかく乗り込むことだと思っています。
今期は韓国、日本、デンマーク、それからニューカレドニアが復活して、女子のスラロームも全四戦に拡大します。フラットな韓国、チョッピーな津久井浜、吹けばかなりジャンクになるデンマーク、超強風のニューカレドニア。どの海面も経験済みです。すべての大会に参戦できるかどうかはまだわからないけれど、できれば早めに現地に入りして、そこでの練習時間を長めにとって調整したいと思っています。そして自己最高位の2位を飛び越して、まだ一度も経験したことのないトップフィニッシュを目指したい。年間ランキングの目標はトップ3。とにかくもう一度表彰台に立ちたいです。
───鈴木さんが、アスリートとしての総合力を高めるために大事にしていること、あるいは日々を過ごすなかでの優先順位、ルーティンなどがありましたら教えてください。
鈴木 大事にしていることは、海を好きであり続けること。選手でありインストラクターでもある私にとって、海は大事な仕事場です。その海を好きでいられるように、いろんなバランスを大切にしています。どちらの仕事も100%の状態でこなせるように、いつもワクワクしていられるように。それが可能な環境に身を置いておきたい。
バランス・・・海は楽しい場所だけど、時には人の命を奪いもする。その怖さを忘れてはいけない。選手として活動していれば、結果がでないこともあり、常にポジティブでいられるわけではない。時々何が正しいのかわからなくなることもある。そういうときに、インストラクターとして生徒さんの悩みを聞いて、同じ目線で考え、アドバイスをしていると、自分の悩みを解決するヒントがそこにあったりもする。
スラロームに乗るときは選手として考えて練習するけれど、ウェイブではただのウインドサーファーとして思い切り楽しむ。風がなければSUPもするしダイビングもする。波があればヘタクソだけどサーフィンもする。
私はそんな感じでバランスをキープしているのだと思います。そうですね、私が一番大事にしていることは、海が好きな私がとにかく楽しいと思える環境を作ること。それが選手としての自分にも役立っていると思います。
───5月の『横須賀W杯』に向けて、日本のファンに何かコメントを頂けますか。
鈴木 ウインドサーフィンの魅力は、やっぱり海上を滑走するプレーニングですよね。スラロームは、その速さを競うシンプルなレースです。誰が見ても楽しめます。この春、私のホームゲレンデである(横須賀)津久井浜に世界最高レベルのスピード・スラローマーたちが集結します。その迫力と、マーク付近での激しいバトルを、是非見にきてください。
2007年に初めてPWAツアーに参戦して以来、W杯の日本開催は私の夢のひとつでした。
それが実現します。情けないレースはできないと、今から緊張しています。でも今まで私を支えてくださった皆様のご期待に添えるような、いいレースがしたいと強く思っています。だから津久井浜に来てください。応援よろしくお願いします。
───「世界」における10年の経験は有益だが、それが「これだけやっても」という思考の壁になることもある。彼女はその壁を破ろうとしているように僕には思える。彼女のライバルは彼女であり、彼女は自分と戦っている。その勝負に勝てれば、鈴木文子は世界のトップを支える柱のひとつになれる。簡単なことではない。だが可能性は、たぶん小さくはないはずだ。
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