横浜海の公園 2019_春夏

奇跡の南東風が2ヶ月も
特派員報告=神奈川県海の公園支部
西村栄治(スピードウォール)

まるで溶けた鉛のようにヌルッとした海面に、垂直にしたたり落ちてくる無数の雨粒。無人のジェットコースター。カラフルなスクールセイルさえモノトーンに見える。「夏になる前に一人前のウインドサーファーになりたいんです!」と鼻息の荒い生徒さんたちのモチベーションを根っこから腐らせてしまう梅雨の時期の悪夢のようなワンシーンだ。ああ…

だが、今年は違った。たしかにしっかり雨は降ったが、気分的には「晴れの梅雨間」くらいにしか感じなかった。雨の日をうらめしく思うよりずっと、良い風に乗れた日の記憶で心が満たされていたのだ。

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「この風は強まりますか?」春の試乗会(4月中旬)のために海の公園に来てくれていた浅野プロがボクに訊いてきた。海の上ではたくさんの常連さんたちが試乗ボードで調子よさそうにプレーニングしていた。「この風(南東風)が吹き上がることは滅多にありません。プレーニングできるなんて年に数回あるかないかです。周りが山や建物に囲まれたこのビーチはいつもガスティですが、唯一遮るものがなくダイレクトに吹き抜けるこの向きでプレーニングするのは本当に最高なんですけどね。奇跡ですよ。今日は」と僕は答えたのだが、それ以降2ヶ月も奇跡は続いたのである。

いつもの年ならそろそろ梅雨入り間近の5月20日も南東が吹いた。八景島シーパラダイスの海に突き出したジェットコースターの右、さらに右手に見える日産のテストコースのずっと向こう、東京湾に突き出した住友重機の造船所の白とオレンジ色のシマシマの巨大なドックの方から風はやってくる。風の行き先に目をやるとビーチの向こうには称名寺のある山とシーサイドファームのある山のちょうど谷になっている。ここを風が抜けて行くのだろう。地図の上に定規をあてて直線を引くと、遮るものなくビシッと線が引けるのはその1本しかないのがわかる。まさに奇跡の風の通り道なのだ。

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他の風より軽くて優しい風。コンスタントなのでブローのタイミングを計らなくてもよい。いつもブローを確認するために風上に90度も捻ってなきゃいけない首も随分と楽だった。パンピングも最小限で済んだので心拍数が上がりすぎて胸が苦しくなることもなかった。僕も中年になったので、体に優しいは地味に嬉しい。

完全にプライベートな日だったが、いつものように海にいた常連さんたちにアドバイスをしながら、遊んだ。一緒に走りながら「今!引き込んで」とプレーニングのタイミングを教えたり「あとをピッタリついてきて」とジャイブに入ったりするのだが、いつもならブローのタイミングを逃してしまって走り出せなかったりする人も落ち着いて走り出せていたようだった。スピードの差があって、なかなか同じタイミングでジャイブに入れなかった人も、逆に僕がスローダウンしてあげる余裕があったので、同じように弧を描くことができとても喜んでいた。

生徒さんたちのモチベーションを上げることができて僕も気分が良かった。いつもなら1〜2時間で切り上げるところだが、珍しく3時間も乗り続けた。1km四方の箱庭みたいなゲレンデも対角線をアビームでプレーニングできると、一気に1.4倍に広くなる。いつも狭いと嘆いている人もお腹いっぱいだったに違いない。

▶︎スピードウォール

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