「変化すること、自分を脅迫しないこと」
「御前崎三羽ガラス」と言われてはいなかったけれど、かつてその地に日本のウェイブを牽引する三人のトップライダーがいた。(既にこの連載で紹介した)石原智央、石井久孝、そして松井重樹だ。
多くの方がご存知の通り、三人は今も後進の育成に尽力するなど、別の面からその世界を牽引しているわけだが、現役プロであった当時の松井は、ジャンプではなく、とくにウェイブライディングで際立つ存在だった。マニューバーが深くバーチカルで、しかも流れがスムーズで、そのラインを見終えたときに「スタイリッシュ」と感じられる一番のプロだったかもしれない。そんな彼が、当時何を考えて自分を高めようとしていたか ───
「まずはスピードを意識すること。波を使っていかにスピードをつけてターンに入れるかとか。それから僕は、常にターンにドライブ感を求めています。それが得られるように、タイミングを変えたり、波を降りる角度を変えたり、踏み込みを変えてみたり。要は、いかにその日その時のコンディションでさらに強いG(加速=重力加速度)を感じられるか、それを探っているようなものです。ウェイブで一番大切なのは適応力だと思います。なんか変だと思ったら変化させてみる。その繰り返しです」
─── ウェイブにつきものの恐怖に対する向き合い方は?
「コンデションがハードな時こそ『ジャンプしなきゃ』とか『デカい波に乗らなきゃ』とか、自分を脅迫しないようにしています。しなきゃいけないという気持ちになりがちですが『セイフティに乗ろっと』ぐらいの感じで、気持ちは締めて力は抜いて、集中する。そのうち慣れてきたら徐々に上げていくようにしています。もちろん気合いも必要ですけど」
ウェイブでは「感じること」が上達に極めて重要な要素になる。そのセンサーを常に正常に保つこと、その上でその精度を上げていくことが上達につながる。興奮しすぎたり、落ち込みすぎたり、自分のブレが激しすぎると、いつも別のセンサーを使うことになり、なかなか精度が上がっていかない。松井は今でもそうだが、いつも静かで穏やかで落ち着いている。その整った心が、彼のライディングを進化させたのかもしれない。おそらく当人は、整っちゃいなかったし、いまだに整っちゃいませんよ、と否定するだろうと思うけど。
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▶︎〈トップライダーの言葉_14 / 石井久孝〉
▶︎〈トップライダーの言葉_13 / 石原智央〉
▶︎〈トップライダーの言葉_12 / 浅野則夫(JPN-25)〉
▶︎〈トップライダーの言葉_11 / ニック・ベイカー〉
▶︎〈トップライダーの言葉_10 / ジェリー・ロペス〉
▶︎〈トップライダーの言葉_09 / ロビー・ナッシュ(US-1111)〉
▶︎〈トップライダーの言葉_08 / 中里尚雄〉
▶︎〈トップライダーの言葉_07 / リーバイ・サイバー(USA-0)〉
▶︎〈トップライダーの言葉_06 / ジョッシュ・アングロ(CV-1)〉
▶︎〈トップライダーの言葉_05 / ロビー・ナッシュ(US-1111)〉
▶︎〈トップライダーの言葉_04 / カウリ・シアディ(BRA-253)〉
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