「目が覚めるような現実の前では、人は不安になるものだ」
南極の嵐が宝の波に変わる島、モーリシャス。毎日25ノット超のトレードウインドが吹いていた。氷に光を通したような青い海は規則正しく盛り上がり、世界最速とも思われるようなスピードでブレイクしていた。2005年(8月26日~)ニック・ベイカーは覚醒していたが、不可解でもあった。それは理解に苦しむほどの現実だった。

インド洋のど真ん中、吹きっさらしの「夢の島」モーリシャス。ウインド界選定の世界遺産ともいうべき世界有数のうねりの巣だ。なんの障害物にも当たらず、長い時間をかけ、長い距離を渡ってこの島に辿り着くトレードウインドは、同時に波長の長いしっかりしたうねりを連れて来る。島はリーフに囲まれている。そこで初めて明らかな段差を感じたうねりは、一気に盛り上がり、一気に溜め込んでいたパワーを発散する。島の時間は、その繰り返し中で刻まれてゆく。
ビギナーからビッグウェイバーまでが楽しめるいろいろなポイントがある。その中のひとつ、ワンアイ(One Eye)というポイントにはポートのクロスオフの風が吹き付ける。巨大な波の口を塞ぐように吹くその風は、広大な波のフェイスを整え、しかも波の底で、ボトムターンで、ボードにスピードを与えてくれる。それは恐怖の向こうにある快感と、チャレンジの成功を手繰り寄せる希望の風だ。
多くのビッグネームたちが島で最もハードコアなそのポイントに挑戦した。ジェイソン・ポラコウは二ヶ月滞在する予定でこの島を訪れたが、二週間も経たぬうちにそこで全ての道具をオシャカにして帰国したことがある。リッキー・バンダートゥーンは、波のパワーにあまりに高く飛ばされて、着水時の衝撃にスネの骨を砕かれた。2004年PWAウェイブキングのスコット・マッカーシャーは、当時「自分史上最もヘビーで速い波だ」と言い、かの百年王者ビヨン・ダンカベックは「ここで自分を磨くことは可能だが、それが最後のウインドサーフィンになる可能性もまた高い」とすべてのウインドサーファーに警鐘を鳴らしている。
1999年、イギリス人として初めて『アロハクラシック』を制したニック・ベイカーは、33歳のときにそのポイントのその波を目の前にしたときのことを次のように記している。
「未知のもの、挑戦・・・高揚感の裏にへばり付く恐怖。歓喜と絶望。
モーリシャスで初めて知った。目が覚めるような現実の前では、人は不安になるものだ」

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