2024 ウィンドサーファークラス全日本選手権

(9月7日-8日/神奈川県江ノ島東浜)

大会はこの時期特有の南寄りの風により、全体的に微風から中風域でのレースとなった。この風域ではボードスピードに加え、コース取りやタクティクスの練度の高さが順位を左右する。今回も作野選手と豊岡選手の速さが際立ち、1位と2位を交互に奪い合う展開となった。この2名の日々の精進が結果に表れたと言える。ウィンドサーファークラスのレースはいつもそうだが、用具がシンプルなだけに、純粋にコースレースの醍醐味を味わうことができる。他の参加者も、成績以上にレースを楽しめたのではないかと思う。

今回の大会レポートは、全日本クラス男子2位に入った内藤智之氏(東海大学WSF部OB)にお願いした。

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▶︎9月7日~8日の週末、神奈川県江ノ島東浜沖において『2024ウィンドサーファークラス全日本選手権』が、真夏を思わせる厳しい残暑の中で開催された。

「ウィンドサーファークラス? スクール艇みたいなセットで、40代以上のシニアが趣味でやっているやつでしょ?」この問いに対する回答は、YESでもあり、NOでもある。

ウィンドサーフィンの歴史が「サーファークラス」から始まったことは誰しもが知る事実だが(注:知らない方はJWAのホームページをご参照)そんな「最古のワンデザイン」が2017年には「Windsurfer LT(LT:Light)」として現代風に刷新され、国内でもシニアを中心に急速に回帰現象が2018年から発生し、しばらく開催されていなかった全日本選手権が日本セーリング連盟(JSAF)公式大会として2020年から復活。今回は復活後5回目の大会であった。

出艇数は14。遠くは中国地方(島根県、広島県)、兵庫県、愛知県、静岡県などからサーファー艇を車に積載して東名高速道路を(慎重に)かっ飛ばして江ノ島までやってくる「熱いシニア」が続々と集まるのは、それだけサーファークラスのレースが楽しいからであり、長年の仲間に会えることを楽しみに来る理由もあり、そういう意味で上記の問いに対してはYESとなる。ちなみに、参加最年少は45歳、最年長は73歳だ。

しかし、ひとたびレースが始まると、単なる趣味だけの世界ではなくなる。

初日の第1レース、南風2~3m/sの中でスタートホーンが鳴る。「熱いシニア」はスタートラインに並ぶと形相が変わる。リコールも発生する。ギリギリ攻めている証拠である。しかし、シニアはP旗の意味をよく理解していないので、御丁寧に本部船又はアウターマークを回ってリコール解消する(※筆者もそうした)。閉会式で海上本部長に「シニアもP旗の意味をお勉強しましょう」と諭される(笑)。

初日に4レース、2日目に2レースと、2日間で順調に全6レースが消化された。全レースを通じて南寄りの風、2~6m/sの微中風コンディションで、江ノ島の難しい潮の流れを感じながらも右海面が有利な展開が多かったように感じた。運営スタッフ皆様がプロフェッショナルで効率的に進めてくれるので「熱いシニア」達も身体各所の痛みを忘れてレースに没頭し続けた。スタートラインは常に静かだが、ピリピリと攻撃的なラインが続いた。なお、微風の中でゼネリコが滅多に発生しないのも、老練な技がなせるところかもしれない。

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6レース全てを通じて、島根県代表として国体連続28回出場中の作野達雄選手と、元五輪強化選手で世界選手権優勝経験もある豊岡美枝選手(写真上)が、全レースで1位と2位を順番に取り合う異次元の2強対決を見せ、同ポイントで結末を迎えた。この2名に限って個人的にコメントすれば、2人は現役コースレーサーに交じっても何ら遜色ない走りを全風域で繰り広げられる「最も激アツなシニア代表」なのである

「熱いシニア」はまだまだいる。2日目の第5レース、最年長参加者である金光秀吉選手(※元プロウィンドサーファー)が、なんと「最も激アツなシニア代表2名」を抑えて第一上マークをトップで回航したのだ!激アツどころか、超絶アツ過ぎる(年齢は上記を再確認してほしい)。背中で物事を教えてくださる、という典型的な事例を目撃した気持ちになった。これが出来るのは「超絶アツ過ぎるシニア」だけである。

ここまで書けば、冒頭の問いに対する回答がNOでもあるという理由が、自然とお分かりいただけると思う。

最古のワンデザインであるウィンドサーファー艇が進化した「LT」は、ヨーロッパで開催されるレースにジュニアからシニアまで数百人が集まる人気艇種である。オーストラリアやアメリカでも人気は根強い。上りのパンピングが禁止なので、シニアの体にも優しい。2027年に日本で開催される30歳以上の国際スポーツ祭典『World Masters Game』にも、競技艇種として採用される可能性が高いと仄聞する。微風から強風まで、コンディションを選ばすにいつでも乗れるのも、社会人には都合が良い。

サーファークラス全日本選手権は来年も同時期に開催される見込みであり、年間を通じて数回のサーファークラスのレースも開催されている。年齢を問わず、少しばかり肩の力を抜きながらワンデザインのレースを楽しく、しかし「熱く」、レジェンド達に交じって楽しんでみたいと思われる方は、ぜひレンタルからでもサーファー艇を試してみてほしい。

━━「神戸情報大学院大学 副学長・特任教授(東海大学WSF部OB)内藤智之」

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(左から)全日本クラス女子▶︎1位=豊岡美枝、2位=上田ちひろ/全日本クラス男子▶︎1位=作野達雄、2位=内藤智之、3位=金光秀吉
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オープンクラス▶︎(左から)2位=郡山雅夫、1位=根岸聡、3位=斎藤千秋

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