【速報】杉匠真、ワールドカップ ファイナル進出

PWA IWT Wave Tour #3
FIJI SURF PRO 2023
Men & Women Wave / June 01-11 / Cloudbreak, Fiji / Photo by FishBowlDiaries_pwaworldtour.com

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杉匠真、ボトムターン。トップには空を透かしたリップがあり、風下には長く波のフェイスが続いている。刹那のダウン・ザ・ラインは永遠を感じさせるものだったのではないか

||『クラウドブレイク』ダウン・ザ・ライン王決定戦

杉匠真がPWA IWT ウェイブツアー今季第3戦『フィジー・サーフ・プロ 2023』でファイナル進出を果たした。大会会場はフィジーのアウターリーフ『クラウドブレイク』かつてロビー・ナッシュやジェイソン・ポラコウが伝説的なウェイブライディングをメイクした場所だ。一番近い陸地から1マイル(1.6km)離れたそのポイントには、ポートのサイドショアが吹き、サイズが上がってもクローズしにくい波がブレイクする。あるものは「マジックウェイブ」と呼び、あるものは「世界最高のマシンブレイク」と呼ぶ波が。

とにかくそこには世界のトップライダーが乗れば、ロングライドは当たり前のパワフルで美しい波が立つのだ。ゆえに今大会ではジャンプは採点されない。ウェイブライディングのみが採点される(ベスト2ウェイブピックアップ)。その波でどんなマニューバーを刻むかで勝負が決まる。小細工はきかなない。小細工してもジャッジはそれを評価しない。それは言い換えれば、ウェイブライダーとしての根元的な力を競う勝負なのだ。

大会のグレードはワールドツアーの中でも最高の5スター。当然大きなポイントを獲得するために世界の強者たちが顔を揃えた。そして彼らは当然のように次々にロングライドをメイクした。だがときに勝つためのアクションが裏目にでることもある。

現ワールド・チャンピオンのブラウジーニョは、大会初日(6月1日)の1回戦で大きな波の分厚いリップに巻かれて負けた。大会の公式レポートによれば「最後はサソリのような形になって、大きな波にダブルウォッシュされて」万事休すだったという。

3タイムズ・ワールド・チャンプのヴィクター・フェルナンデスも同じく1回戦で姿を消した。彼のライディングはまるで彼らしくなく、ベストポイントでさえ5点に及ばなかった。彼はクラウドブレイクのコンディションに自らをアジャストすることができていなかったのかもしれない。そのポイントのインサイドに風はない。風下へとダウン・ザ・ラインしていくほどに水深が浅くなり、リーフの牙が露わになりもする。それが彼の気持ちに何らかのブレーキをかけていたのかもしれない。

大会4日目にはクォーターファイナル(ベスト16の戦い)が行われた。波はクラウドブレイクにしては小さく、風も弱かった。「ここで、この波でやるのか!」というような声もあったみたいだが、それでもヒートは進んだ。バーンド・ロディガー、リアム・ダンカベック、モーガン・ノイロー、石井孝良らの有力選手がここで敗れた。しかし1回戦でビヨン・ダンカベックを大差で破りこのラウンドに進んだ杉は、コンデションの変化にも即応して、見事にセミファイナルに進出、世界のトップ8のリストに名を連ねた。この時点でたいへんなことが起きたわけだが、杉の進撃は止まらない。

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トップでボトムで、くびれたラインを刻んでいく。それを波のスープが消していく。大きなマシンブレイクとの追いかけっこ。「楽しかった」と杉は言った

|| 杉匠真進撃、真っ向勝負で世界4位の座を獲得

大会5日目、杉は波がマストオーバーに上がったセミファイナルでアントワン・マーチンとマーク・パレを下して、ファイナル進出を果たした。そしてその頂点の舞台で、ファイナリストに相応しい演技を披露した。

改めてヒート表のファイナルの枠を確認してみる。1位=バプティスト・クロアレック/2位=リカルド・カンペロ/3位=ロビー・スウィフト/4位=杉匠真。間違いない。杉はわずか0.64ポイント差で表彰台に立つ権利は逃したが、見事に世界のトップ4の一人になったのだ。もちろん日本の男子選手としては初めての快挙である。

「世界一を目指す」杉はずっと公言してきた。ビッグマウスと思われた方もいるかもしれない。だが彼は着実にそこへと向かっている。

少し前に僕は彼についてこう書いた。スタボーもポートも、ビッグウェイブも小さな波も、ジャンプもウェイブライディングもトリックも、ウインドサーフィンにおいいて苦手なことは何もない。それが杉だと。だが彼は言った「クラシカルなウェイブライディング、大きなラインをいかに描くかが課題です」と。

でもどうだろう。今大会において、杉は「ロングライドは当たり前」のクラウドブレイクで正確に波を見極め、ポジション争いに勝ち、スムーズなレイルワークでカットバック、スラッシュバックを決め、エアリアルまでメイクした。ボトムからトップへ、そして空中へと骨太なラインを描いてみせた。ときには波のハイラインをキープして(曲線の中に直線も取り入れて)次のセクションへとラインをつなげた。世界のトップライダーたちによるウェイブライディングのみの大会では、マニューバーに独自性をだし、得点を稼ぐのはきわめて難しいことなのだが、杉には杉だけのラインがあり、ジャッジはそれを認め、それを他の選手との差異とした。

杉がどう感じているのかはわからない。でも今や彼にウィーク・ポイントなどないのではないか、と僕は思う。あとはすべてのストロング・ポイントをさらに強化していくのみ。この大会で彼の中の靄が晴れ、世界がよりクリアに見えるようになったとしたら‥‥そう考えると胸が高鳴る。

「世界一を目指す」という彼の言葉は、文字通り夢ではなく、彼が到達できると信じた目標なのだ。今大会における彼のライディングと結果は、外野にいる僕にも改めてそう信じさせる力があった。近い将来、最後の勝負どころでギアを上げ、爆発する彼の姿が目に浮かぶ。そのイメージは、おそらく多くの人の中でも鮮やかさを増していることと思う。

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Takuma Sugi(J-7)

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杉匠真、ファイナルまでの採点シート
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石井孝良はクォーターファイナル(ベスト16の戦い)で敗れた。どうやらいい波を掴めず、高得点を得られなかったみたいだ。しかしこのライディング。ライトポジション、ライトアクションを実践している。世界レベルの地力があることは間違いない。次戦に期待だ。ちなみに石井颯太はパスポートのトラブルによりこの大会を欠場。残念
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優勝したのはバプティスト・クロアレック(F-258)ワールドツアーではほとんど無名の22歳。RRDのインターナショナルライダーである彼は、他のファイナリスト3人がトータル13点台の接戦を展開した中で、1人17点台を叩き出し、圧倒的に勝利した。なかでもエアー2発の後に駄目押しのビッグエアーで締めたウイニングライドは圧巻、驚異の8.9ポイントを獲得した。新たな刺客登場、である。