『ANA 横須賀・三浦ワールドカップ』Day 3(11月13日|日)

Fly! ANA Windsurfing World Cup YOKOSUKA MIURA Japan
Men & Women Slalom / November 11-15 / Tsukuihama Beach, Yokosuka, Japan / Photo by John Carter_pwaworldtour.com

ウインドサーフィン・マガジン
The First Mark

|| 強風下でもウインドフォイルは速かった

昨日の嵐の予感は外れたが、それでも大会3日目の津久井浜には文字通りの強風が吹き付けた。PWAの発表によれば8ノットから25ノット(4〜12.5m/s)。超ガスティでトリッキーな風だ。それが具体的にどれくらいの風だったかといえば、女子の5×スラローム王者であるサラキタ・オフリンガが5.8㎡、男子の「キング」アントワン・アルボーが6.6㎡のセイルを使うレースもあったくらいの風だ。PWAの大きな選手たちがそれくらいのセイルを使うと、それはもうとても小さく見える。こんなセイルで彼らが走るのかと、実際以上に風の強さを実感する。

今日は男子の第1レースの残り2ヒート(ファイナルとルーザース ファイナル)と、男子と女子の第2・第3レースが行われた。全部で46ヒート。1ヒートにかかる時間が4分だとして全184分。途中にインターバルなども入るから、それはもうとても長い長い戦いだった。こうなると見ている方も楽ではない。集中力が途切れることもある。「このヒートはまあいっか」なんて、飲み物を買いに行ったりもする。空は厚い雲に覆われていた。前線通過時のような黒い帯状の雲もやってきて雨も降らした。傘は持っていなかった。パーカーのフードを被って凌いだけれど、水分がロンTにまで浸みてきて、なんだかなあと舌打ちもした。

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Full Power Foil

だが、ここにいてよかった、と思った。強風下でもウインドフォイルは速かった。大型ビジョンに表示される選手(たしかアントワンだったと思うんだけど)のスピードが時速60キロを超える瞬間もあった。それは静かに疾走する。海面に航跡は残らない。ただ細く鋭い1本のラインが引かれるだけだ。先頭を走る選手には、後続艇の音は聞こえないのかもしれない。そして優秀なスナイパーは、突然標的をひと刺しにする。なんだか怖い。そんな緊張感がそこにはある。

フィンを選ぶ選手もいた。だがフォイルの相手ではなかった。フィンがフォイルに勝つためには、これ以上の風が必要になるということだ。スラロームはフォイルに席巻されてしまった。あの爆発的でワイルドで、騒々しいフィンの感じも好きなんだけど。でもまあ仕方ない。今さら『フィンスラローム』というカテゴリーを作るわけにもいかないだろうから。

||「調和」への途上で

残念ながら日本選手に目立った活躍はなかった。第3レース終了時の日本選手の最高位は男子が穴見知典の22位、女子が新嶋莉奈の10位。みんなの動きがどこかぎこちなく見えた(あくまで見えただけだけど)。自分の走りができないみたいだった。というよりも、実際にはそれ以前の段階にいるのかもしれない。歯車が合いませんか? と訊いたら、ある選手が答えてくれた。「相手と戦っている感じがないんです。自分(と道具)の調整に目一杯で」

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Provisional 10th Place, Rina Niijima(JPN-4)

それはそうだろうという気がする。コロナのせいで、この2年以上のあいだ、日本のレース界には本場欧州からの情報がほとんど入ってこなかった。もちろんメールのテキストや電話の声の情報はあった。けれど実際に見て触って、一緒に走って語り合ってこそ得られる、生きた情報が枯渇していた。それがこの大会を機に一気に入ってきて、日本選手の脳や身体が不調和に陥ったとしても、それはまったく不思議なことではない。

今大会、選手には事前に登録したセイル6枚とボード4本、それにフォイル1コンポーネントの使用が許されている。この1コンポーネントというのがクセモノで、そこには「マスト1、フロントウイング3、リアウイング2、フューサレージ2」が含まれる。これらの道具をコンディションに合わせて選択してレースを戦うわけだが、本当の意味でそれらをコンディションに合わせようと考えると、どれだけの組み合わせに、どれだけの試行錯誤を重ねればいいものかと、ふーっと気が遠くなるほどだ。F1レーサーのようにマシンを調整するプロのメカニックが何人もついているのならまた話は別だが、ウインドサーファーの場合には、その仕事もほとんど一人で行わなければならないのだ。そんな大仕事が今の日本選手にできているわけがない(と思われる)。

日本の選手の動きがぎこちなく見えたのは、そのせいかもしれない。ぶっつけ本番で、何かを試すように乗っているような感じだった。本来はスタートのうまい選手が、不利なポジションから大きく遅れてスタートすることも多かった。どんなふうに走れば、あそこに何秒で到達できるのか、それを測ることができないというような状態だった。思い切り加速もできない。ジャイブでも攻められない。たとえわずかでもオーバースピードに陥れば、フォイルが海面から飛び出して撃沈を免れないと、恐怖を感じているようでもあった。

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Provisional 22nd Place, Tomonori Anami(JPN-60)

|| スタート、ジャイブでの削り合い「これが世界か!」

世界のトップレーサーたちの走りは、日本選手のそれとは明らかに違っていた。彼らの走り(フライト)は大胆でアグレッシブでダイナミックだった。スタートの時点から削り合いがあり、ジャイブマークでも激しい攻防があった。

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Battle of Jive Mark

アプローチで一気に下らせてマークのイン側を狙う選手がいた。風下寄りのコースから、ジャイブマークの手前でぎゅいんと風上に切れ上がり、ぐりんとインサイドを突いてジャイブ、相手を戦闘区域から追い出す選手もいた。抵抗の小さいフォイルは、ラフ・ベア(上り・下り)による進路変更の際の減速がほとんどなく、そのため角度をつけやすい上に、その幅も広く取れる。彼らはそのメリットを磨き上げ、きわめて強力な武器にしていた。

会場の大型ヴィジョンの前では、彼らがバトルするたびに「ぬおーっ!」と歓声が上がった。風が強いレースほどその声は大きくなり「これが世界か!」という雰囲気になった。大会3日目はそんなレースが続いた。長い一日だったけれど「そう、これが世界なのだ」と思い知ることができた一日だった。

PWAのレポートには「これで序盤が終わった」と書いてある。まだまだやる気だ。大会は火曜日まで続く。このあと何が起こるのか。最後に世界チャンプの座につくのは誰なのか。日本選手の誰かに調和が訪れる瞬間はやってくるのか。みなさま『世界のフォイルスラローム劇場@津久井浜』後半戦もお楽しみに。


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