『ANA 横須賀・三浦ワールドカップ』Day 2(11月12日|土)

Fly! ANA Windsurfing World Cup YOKOSUKA MIURA Japan
Men & Women Slalom / November 11-15 / Tsukuihama Beach, Yokosuka, Japan / Photo by John Carter_pwaworldtour.com

|| ギリギリ「限界微風」の罠と勝算

大会2日目は昨日の続き。午前中の風で男子は第1レースのセミファイナルまで。女子は第1レースの全てを消化した。その「午前中の風」はきわめて軽く、数年前のフォイルならおそらくレースはできない風だった。PWAは「限界微風」と呼んだ。実際には5〜10ノット(2.5〜5m/s)ほどの風であり、大型レーサーの中には、これではあまりにも、というように不満を表明するものもいた。

だがそれでもウインドフォイルは浮き上がる。一度浮き上がったそれは慣性の法則を証明するかのようにフライトを続け、時に時速50キロオーバーのスピードに到達する。水中のフォイルが生み出す揚力をスピードに変換する効率がとんでもなく高い。それが最新のウインドフォイルであり、その性能を最大限に引き出すのが一流のレーサーなのだ。しかし彼らにも防ぎきれないことはある。

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WindFoil Jive Battle

一番の問題はジャイブだ。セイルを開いた時に風が抜ける。すると一瞬ジョイントからの加重を
失ったボードはふわっとさらに浮き上がろうとする。そのときに別のマイナス要素(例えば混戦での接触や風の大きな乱れなど)により、セイルパワーの「抜け」た状態が長くなると、ボードはとたんに下降してしまうことになる。フライト中の着水は当然ショックが大きく、抵抗を一気に増大させる。そのときボードは失速するというよりも「止まる」に近い状態になり、乗り手はゼロからリスタートを切らなければならなくなる。多くの場合、それで終わり。万事休すだ。

もちろんトップレーサーたちは、ほとんどそんなヘマは犯さない。どんなに混戦でもそれぞれが美しくジャイブマークを回っていく。まるでチームで「時間差シンクロナイズド・ジャイビング」の演技でもするように。けれどこの日のような「限界微風」になると、許される「抜け」の時間は極端に短縮される。それで終わってしまった選手もいれば、それに乗じた選手もいる。

|| 穴見賢太、セミファイナルへの安定飛行

昨日のレポートでは次のようなことを書いた。日本の男子7名がクォーターファイナル(ベスト32の戦い)に進出した。だが問題はここだ。世界のトップレーサーの中に入って、上位4人に食い込むのは至難の業だと。

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Kenta Anami(JPN-6)

結果はどうだったか。その困難な状況を突破した選手が一人だけいる。穴見賢太だ。彼はクォーターファイナルを「安定飛行」で走りきった。同じヒートのフランスの選手二人は、ジャイブマークで失速した。同じくアントワン・アルボーは、別のジャイブマークで沈んでしまった。その間隙を縫って、穴見は4位でフィニッシュ、見事セミファイナルに進出した。

18歳の穴見は『(次期五輪公式艇)iQFOiLクラス』のユース日本代表選手だ(※動画参照)。世界大会で何度かシングルフィニッシュも果たし、将来を有望視されている。フォイルのレースには慣れている。大舞台も経験している。まだ身体は細く体重も73キロとフォイルレーサーの中では軽量だが、そのぶんライトウインドのレースでは「止まらない強さ」を発揮する。

穴見はその後セミファイナルで敗れ、このあと行われるルーザース ・ファイナル(9〜16位決定戦)にまわることになったわけだが、第1レースで日本選手最高位となることは確定した。多くの先輩(その中には兄知典も含まれる)を抑えてその地位を勝ち取ったこと、世界のトップレーサーに対抗できる力があり、まずは現時点でライトウインドに強い自分がいると確認できたこと。それらは今後の自信につながり、未来の良きイメージを膨らませていくための有用な材料になるだろう。

|| 新嶋莉奈、伊勢田愛、二人のiQレーサーがファイナルへ

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Rina Niijima(JPN-4)

女子では二人の日本選手がファイナル進出を果たした。新嶋莉奈と伊勢田愛。二人も『iQFOiLクラス』をメインに活動している選手だ。新嶋はオリンピック特別強化選手で、伊勢田は日本代表として2016年のリオデジャネイロ五輪に出場している。で、この日の第1レースでは新嶋が5位、伊勢田が7位。立派なものだ。いい勝負をしていた。

特に新嶋は艇速では世界のトップに接近しており、たとえ相手に先を行かれても、その後に引き離されるという場面は見られなかった。だからこそスタートさえ決まっていれば、ファーストマークにいいポジションで入れたなら、という感じが残りもした。そこさえ何とかできたなら‥‥。まだまだレースは始まったばかりだ。何とかできる可能性は十分に残っている。楽しみだ。

本日、大会3日目は嵐の予感。予報はマックス31ノットの風が吹くと言っている。強風でフォイルはどんな走りを見せるのか。フィンは登場してくるのか。どっちが速くて誰が勝つのか? 決戦の日曜日にご期待ください。会場にいらしてください。待ってます。

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Megumi Iseda(JPN-35)

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