『ANA 横須賀・三浦ワールドカップ』Day 1(11月11日|金)

Fly! ANA Windsurfing World Cup YOKOSUKA MIURA Japan
Men & Women Slalom / November 11-15 / Tsukuihama Beach, Yokosuka, Japan / Photo by John Carter_pwaworldtour.com

|| 津久井浜で世界の大祭始まる

『ANAウインドサーフィンワールドカップ横須賀・三浦大会』が開幕した。3年ぶりの第4回大会ということになる。よくこの地に帰ってきてくれた。世界的なコロナの波がまだ収束していないこの状況下で、開催時期を春から秋に移してまで、この大会を開催にまで漕ぎ着けてくれた関係者の方々には、ただ感謝の意を表するしかない。

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Fly! ANA Windsurfing World Cup YOKOSUKA MIURA Japan 2022, Kicks Off

初日は快晴。気温は季節外れの21度。太陽の光が眩しく、ジリジリと肌に痛いほどだ。僕は帽子を忘れたことを後悔しながら、顔面と耳の裏に何度も日焼け止めを塗りたくった。外国人選手の多くは半袖のT-シャツにトランクスといういでたちだった。みな筋肉が隆々としていて、いい体格をしている(とにかくデカい)。一流のマラソンランナーの多くが細くしなやかな身体であるように、PWAのトップレーサーの多くは大きく厚い身体をしている。これが競技向きの体というものか。そうだとすれば・・・と少し思案を巡らせる。

午後1時から開会式が始まり、そして終わる。平日だというのに多くのギャラリーが訪れている。地元の方と思われる高齢の方も多い。みんなここでの祭りを待っていたのだ(きっと)。

風はほとんど吹いていない(と感じた)。けれどそれは古い感覚だったのかもしれない。ウォーミングアップのために、選手が続々と海に出艇していく。「これでは無理だろ」と思われる風の中で、彼らが駆るウインドフォイルは軽々と浮き上がり、するすると沖へと向かっていく。こんなにも走るものなのか。いや、こんなにも飛べるものなのか、と改めて思う。これなら大会期間中に数多くのレースが成立するに違いない。今季のPWAの最終戦となる今大会は、それに相応しいフロック抜きの力勝負になるはずだ(※プレビューの記事参照)。

||「スピードキング」アントワン・アルボー、ツアー引退を表明

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Speed King, Antoine Albeau(F-192)

ひとつ大きなニュースがある。もうご存知の方もいるかと思うが、アントワン・アルボー(F-192)が「今大会を最後にPWAツアーを引退する」と表明したのだ。1992年から2022年まで、30年間世界最高峰の舞台で戦った。その間に25のワールドタイトルを獲得した。スラロームでは11度世界チャンピオンになり、2015年には53.27ノット(98.65 km/h)のウインドサーフィン世界スピード記録を樹立した。そしてその記録は今も破られていない。

アントワンは50歳の節目に「スピードキング」のままツアーから退くことを決めたのだ。しかし、だからといって彼はウインドサーフィンを引退するわけではない。これからも「スピード記録への挑戦などは続けていく」───ひとつの時代が終わったのかもしれない。だがアントワンは、別の場所で次の時代をつくる創造者になるかもしれない。偉大なるキングはこれからどんな物語を紡いでいくのか。彼にとっての「最後のレース」となる今大会は終わりではなく、そのプロローグになるのかもしれない。

|| ほんのそよ風で40キロオーバーの衝撃

15:10「まさか!」のコンディションで突然レースが始まる。会場の通路沿いに何本も立てられている大会のノボリは、ただゆらゆら揺れているだけだった。しかし沖ではウインドフォイルが飛んでいた。会場の大型ビジョンの前にギャラリーが集まる。「すごいスピード感なんだね」という女性の呟きが聞こえて少し誇らしい気分になる。風は6-10ノット(3-5m/s)。なのにビジョンに映し出されるスピード表示は時速40キロを超えている。どこまで高効率なんだ、ウインドフォイル! 僕は脳内で叫ぶ。

結局この日は、男子第1レースの6つのヒートと、同じく女子の1つのヒートが成立した。風がガスティでトリッキーであったためか、4つのゼネラルリコール(スタートのやり直し)があり、PWAツアーのレギュラーメンバーの2人、タティ・フランスとアーノン・ダガンがーーそれぞれのヒートで上位4人に残れずーー敗退するという波乱があった。

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Tomonori Anami(JPN-60)Leading The Way

日本選手は健闘した。全員がPWAの新しいレギュレーションである『フォイル&フィンのミックス・スラローム』を初めて経験するにも関わらず、男子の7名ーー国枝信哉、賀来耕一郎、穴見知典、生駒大輔、穴見賢太、金上颯大、浅野則夫ーーがクォーターファイナル(ベスト32の戦い)に、女子では須長由季と山辺美希がセミファイナル(ベスト16の戦い)に進出した。

だが本当の戦いはここからだ。次からは周りをすべて世界のトップレーサーに囲まれることになる。そこから抜け出て上位4人の枠内に入り込むのは至難の業だ。しかしそれでも、レースはやってみなければわからない。いくら厳しい状況にあるとしても可能性はゼロではない。たとえフロックでも、それを重ねればフロックではなくなる。そういうサプライズが起こることを願う。

明日は(今日は)土曜日。時間のとれる方は是非津久井浜へ。ウインドサーフィンの大祭がいかなるものか、その中でどれだけ日本選手が暴れられるか。実際にその目で確かめてみてください。きっといくつかの未知の驚きに出会うことができるはずですから。


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