MENTAL WINDSURFING_1
目に見えるものに、たいして大事なものはない
9年前、こんな記事を書いた。少し長文だけれど、時間が空いたときにでも読んでいただければと思う。
▶︎体を作り、技術を磨く。そういうハウトゥは世の中に溢れている。けれど心を‥‥となると、それをコントロールする方法は、あまり語られることはない。
いやそれでも最近は多くなった。野球、サッカー、ゴルフなど、メジャーなスポーツ界では、メンタルコーチ、メンタルトレーナーと呼ばれる存在も珍しくなくなり、たとえば「勝者のメンタリティ」などという言葉もよく聞かれるようになってきた。
でも残念ながら、ウインド界にそういう動きなり変化は感じられない。なぜか? もちろんウインドサーフィンと心のつながりに重要な意味がないからではない。その大きな理由のひとつは、おそらくウインドがマイナースポーツだからだ。だから動き始めた潮流がこちら側まで寄せてこない。それを引き寄せてくる資金もない。
その結果、ウインドの心 ─── ウインドサーファーが自分の胸の内にしっかりと収めて整えておくべき心 ─── は、今も遠い昔からあった場所にそのまま置き去りにされている。
心には形がない。見えない。そういう意味では非具体的なものかもしれない。でも誰もが自分のなかに「ある」と知覚している。それが行動に影響していることもわかっている。
ずっと抱えていたジレンマがある。たとえばここにロビー・ナッシュやジェイソン・ポラコウやブラウジーニョのシークエンス写真を並べてみたとする。読者の中にはそれを真似てみてくれる人もいるかもしれない。左手を曲げ、右手をもっと曲げて、膝を深くたたんで、視線はこっちの方向に‥‥というように。
もちろんそれが ─── うまい具合に色々なことが噛み合って ─── うまくいく場合もある。けれど残念なことに、すべてが最初から崩れることも珍しくない。なぜなら見本とその人とは、まるで規格の違う人間だからだ。仮に見本と寸分違わず左手を曲げたとすると、別の部分には見本とは違う力が入ったり入らなかったりしてしまう。
ひとつ修正すると、ひとつ欠点が生まれる。そのうちにすべてのバランスを崩してしまう危険性もある。
外見だけを真似るハウトゥは諸刃の剣だ。僕はずっとそう感じていた。なんとかそのリスクを減少させたい。そのために必要なものはきっと内側にあるはずだ。僕はいつしかそう考えるようになっていた。
昔、こんな文章に出会ったことがある。誰が言ったのかは忘れてしまった。たぶん偉い芸術家だったと思う。
「目に見えるものに、たいして大事なものはない」と彼は言った。目に見えないものを見たいと。
その言葉は僕の記憶の中にずっとある。頭の中のどこかにフックのような形になってずっと固定されている。僕はそこに何かを引っ掛けたいと思う。引っ掛けてこそのフックなのだ。
そう思うことが常態化してからこれまで、そのフックにいろいろなものを引っ掛けてきた。なかにはどうでもいいこともあるけれど、残しておくべきと感じるものも多く、僕はそれらを記憶の引き出しのなかにしまいこんでいる。
そのなかに『インナーテニス』という書籍のタイトルがある。僕はあるとき、あれをウインドに応用できないものかと思った。自宅の本棚を探ると、それは普段はあまり出し入れをしない、二番目の本棚の奥に眠っていた。カバーについた指の脂がカラー写真の表紙を劣化させ、本文の上質紙はなぜか濃淡まばらに黄ばんでいた。
W.T.ガルウェイ(著)/ 後藤新弥(訳)日刊スポーツ新聞社刊。初版は昭和53年(1978年)とあるから、随分昔に出た本だ(新装版も出ています。是非買って読んでみてください)。けれどその中身はまるで新鮮さを失っていない。少なくともこれまでのウインド界にはなかったタイプのハウトゥが、今も生気をもってそこに記されている。
『心と体の連動性、そのメカニズムを理解すれば、まったく新しい世界が開ける』
僕はテニスをするわけではないし、過去にテニスをしていたわけでもない。なのにこの本が今もここにあるのは、それを手にした当時の僕がその内容に心を動かされ、心に「残しておけ」と命じられたからに他ならない。そして、その本の表紙にある『心で打つ!!』というサブタイトルは、当時よりも強く僕の心を揺さぶる。
これを『心で乗る!!』に応用できないものか。
伝えたいことはたくさんある。けれどそのすべてをここに記すわけにもいかない。だからここでは(これから)心のトリム術のベースとなる部分だけを紹介する(このサイトで不定期に紹介していきます)。抽象的な話に聞こえるかもしれないけれど、それは確かに具体的な変化を導くものと僕は思う。
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▶︎〈ウインドサーフィン・エッセイ_01 / 目標などない方がまし、かもしれない〉
▶︎〈ウインドサーフィン・エッセイ_02 / ふたつのリズム〉