そこは完全な「別世界」ではない

もうご覧になった方も多いだろう。12月3日から4日にかけてSNSに数多く投稿された大波写真を。そう、マウイ島のビッグウェイブポイント『ジョーズ(Jaws=Piahi)』において、今シーズン初めてのウインドサーフィンによるビッグセッションが(現地時間2日の水曜日)敢行されたのだ。

ジェイソン・ポラコウ、ブラウジーニョ、リカルド・カンペロ、ロビー・スイフト、カミール・ジュバンなどがその波に乗り、フィッシュ・ボウル・ダイアリーズやエリック・アイダーらがカメラでその光景を記録している。波は明らかにダブルマストを超えていた。ビッグセットはトリプルに及ばんとしていた。その日ライダーたちが使ったセイルのマストはおそらく4mほどだろうから、一番デカい波のサイズは12m近くはあったことになる。

「すげー」「別世界だ」と驚く人もいれば「関係ない」と思う人もいるだろう。でもいずれにしても、それだけで思考を停止させてしまうのはもったいない。マウイ・ノースショア、ジョーズやホキーパでのウェイブライディングは、スポーツにおける極致のひとつだ。幸いウインドサーファーにはそういうピークが与えられている。その頂を仰ぎ見て物思えば、誰にも得られるものがきっとある。

ね、あるよね? かつてそう訊くと、あるウインド賢者は「僕はジョーズはもちろん、ホキーパのダブルマストにも乗ったことはないけれど」と前置きして、次のように話してくれた。

Ross Williams at Jaws 2018 / ⒸJohn Carter_GA Sails (2020-2021 ファーストセッションの模様は「彼ら」のSNSでご覧ください)
Ross Williams(GBR-83)at Jaws 2018 / ⒸJohn Carter_GA Sails
(2020-2021 ファーストセッションの模様は「彼ら」のSNSでご覧ください)

|| 偉大な彼らと脳内セッション

───ウェイブライディングの本質は、ボトムターンのカタチとか、レイルの入れ具合とか、トップターンでの蹴り込みとか、そういう刹那的なものではなく「動く海とともに動く」ことだと思う。ジョーズの波の量的規模は、僕らが知る波の千倍はあるだろうけれど、少なくとも本質的に違うことをやっているわけではない。

僕らは本当の大波は知らない。でも実体験を膨らませることはできる。猛スピードで押し寄せてくる大波、広大な斜面、そのパワー、音、そこに自分がいたならば、その波とともにどう動くか、イメージすることはできる。

ジョーズの大波がビーチ方向に進んでいくスピードは時速60キロ以上だと聞いたことがある。それは単なる水の巨塊ではない。ボトムの水を猛烈な勢いでピークに吸い上げつつ、エネルギーを満たしながら前進し、それを一気に解放するバケモノだ。

時速60キロ超で前進するその巨大な急斜面をフル加速で降り、猛烈に吸い上げられていく水に乗ってピークに登る。そのときのフェイスの表面張力は、足裏に届く感触はどんなものだろう。

途中のギャップで弾かれたら、ラインの取り方を間違えたら・・・10㎥で1,000トン。おそらくその大波の水量はそれを越え、万トン単位ではないか。そんなバケモノが60kmで押し寄せ、リップへと水を吸い上げ、パワーをぱんぱんに充満させて、弾け、崩れる。その瞬間にリッピング! ホームポイントの腰波でもその瞬間に結構なパワーを感じるものだが、ジョーズのパワーはその何万倍あるのか。その瞬間とは、どんな瞬間なのか。

背後から5階建てのビルが倒壊しつつ迫り、それから逃れようとするような状況に陥ったとき、乗り手は時間の流れをいつもより遅く感じるかもしれない。波と自分は高速で移動しているが、両者の速度差が小さいために、並走する電車のようにゆっくりと遅く、引き延ばされる恐怖を感じるのかもしれない。

その大波のパワーが僕らのホームポイントの腰波の千倍だとしても、例えばロビーやジェイソンや、ブラウジーニョやリカルドは、千倍の力でレイルをキープしているわけではない。ならばどうやって? それはどんな状況、境地なのだろう?

本当のところは当事者にしか分からない。それでもイメージすることは、自分のキャパシティを広げるなどの点において効果的であるはずだ。「陸の上でイメージできないことは、海の上でもできない」が「陸の上で修正を重ねたイメージは、海の上での助け(応用力)になる」のがウインドサーフィンだからだ。

上手いウェイブライダーは、たとえ風波の中でも、スラロームでもフリースタイルでもなく、風と波に乗って、動く波とともに動く。つまりウェイブライディングをしてみせる。ジョーズやホキーパにおける大波ライドに脳内で向き合って、自分なりのイメージを持ち、上書きを重ねることは、小さくない意味を持つことになるはずだ───

脳内で大波ライドするのに遠慮はいらない。今シーズンも「偉大な彼ら」といいセッションをしようじゃないか。

Marcilio Browne(BRA-253)at Jaws

▶︎https://www.youtube.com/watch?v=ro3TDygOEqE

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