トップライダーの言葉_20 / 鈴木文子(JPN-61)

「ワールドカップは宝の山だ。ここでの挑戦は成長に直結する」

2007年5月、PWA韓国(ウルサン)大会。’93年の『御前崎サムタイム・ワールドカップ』以来初めてアジアで開催されたW杯。鈴木文子は「一度は本物の世界を見たい、そこで戦いたい」と初めてワールドツアーに参戦した。

当時彼女が書き記したレポートからいくつかの言葉を抽出する。

Sarah Hebert(ARM-1)| Karin Jaggi(Z-14)| Ayako Suzuki(J-61) 2007 Ulsan(Korea)PWA World Cup / ⒸAlex Williams_pwaworldtour.com
Sarah Hebert(ARM-1)| Karin Jaggi(Z-14)| Ayako Suzuki(J-61)
2007 Ulsan(Korea)PWA World Cup / ⒸAlex Williams_pwaworldtour.com

「レディスクラスのエントリーは10名。遠征費が高くつくために、ヨーロッパの選手は集まりにくいのだという。でも3× PWA スラロームクイーンのカリン・ヤギー(Z-14)と、元フランスチャンプのサラ・ハバート(ARM-1)は参戦している。そこには小さいながらもハードな世界が生まれるはずだ。その世界に飛び込んだとき、私はいったいどうなるのか? 不安で、楽しみで仕方ない」

「風速はミニマムぎりぎりの10ノット(5m/s)前後を行ったり来たり。こんな微風でスラロームができるのか? 私は122ℓのボードに7.6㎡をセットして出艇する(当時は『スラローム42』4枚のセイルと2本のボードで競技が行われていた)。もちろん手持ち最大セットだ。ついこの前までは流石に『この風では無理でしょ』と思っていたのだが、いざ海に出てみるとこれが本当に走る! 道具は想像を超えて進化し、選手から言い訳を奪っていく」

「第1レース。ジャストスタート! 私の前には誰もいない。急に心臓がドキドキし始める。ファーストマークをトップで回る。セカンドマークへのレグでカリンとサラにパスされる。緊張と心臓のバクバクで、体が自由に動かない。結局このレースは3位で終えた。ワールドカップ初レースとしては上出来だ。前の二人との差も思ったよりは開かない。不安の暗闇が少し明るくなったような気がする」

「第7レース。『自分に負けるな。繊細さも忘れずに』と自分に言い聞かせてスタートから飛び出す。トップでファーストマークを回航する。後ろからカリンとサラが追いかけて来るのがわかる。第3マーク。ジャイブでストラップから足を抜くのに手間取り二人に差を詰められる。最後の第4マーク。これまでとは違う興奮と緊張で、体が思うように動かない。視線の先にフィニッシュラインが見えた。と、そのとき、風上側から突然現れたセイルが私の視界を遮断した。赤いノースセイル。カリンのセイルだ。私は逃げる。カリンのマストの風切り音が聞こえる。フィニッシュラインの手前で、私の視界の端にカリンのボードのノーズが映る・・・トップフィニッシュの夢は叶わなかった。私に何が足りなかったのか? それは勝ってみなければわからない」

「サラには勝てる気がした。カリンには、もしかしたら、と思った。全10レースを戦って結果は3位。結局どちらにも勝てなかったけれど、得るものは多かった。ワールドカップは宝の山だ。その裾野から頂点にまで、至る所にお宝が眠っている。そこに辿り着きさえすれば何らかのお宝を手にすることができ、続けていけばそれらを蓄積していくことができる。ワールドカップは、やはり私にとって最高の舞台だ。経済的にもそれ以外にも、障害はたくさんあるけれど、私はこれからもチャレンジを続けていくつもりだ。次の夢を、いや目標を達成するために」

以来13年、鈴木文子は挑戦を続けている。今ではレディスクラスの選手も増え、そのレベルも格段に向上して、上位に食い込むのは難しい状況になっている。でも諦めない。可能性はゼロではない。それになりより、そこが「宝の山」であることは今も昔と変わらない。「ここでの挑戦は成長につながる」彼女はそう確信している。

2_IMG_0273
鈴木文子_Ayako Suzuki(JPN-61)YMCAマリンスポーツ専門学校マリンスポーツ科に入学、授業のひとつだったウインドサーフィンに出会い、熱中する。卒業後、逗子でインストラクターをしながらプロを目指し、2001年にプロ登録。2007年PWAワールドカップ初参戦(韓国大会)でスラローム3位。以後ワールドツアー参戦を継続。2013年から2019年までのPWAスラローム・世界ランキングは5位、6位、7位、9位、8位、10位、8位。2011、’12年、JWAジャパンツアー・スラロームクイーン。千葉県・検見川『85 CLUB』ウインドサーフィン・インストラクター。通称ブンコ、1973年7月19日生まれ。166cm/ⒸPWA_Alex Williams, 2007 Ulsan(Korea)PWA World Cup

3

────────────── Windsurfing Magazine ─────────────── ウインドサーフィン マガジン ──────────────

▶︎〈トップライダーの言葉_19 / ヴィクター・フェルナンデス〉
▶︎〈トップライダーの言葉_18 / 佐藤素子〉
▶︎〈トップライダーの言葉_17 / 池田良隆〉
▶︎〈トップライダーの言葉_16 / ヴィクター・フェルナンデス〉
▶︎〈トップライダーの言葉_15 / 松井重樹〉
▶︎〈トップライダーの言葉_14 / 石井久孝〉
▶︎〈トップライダーの言葉_13 / 石原智央〉
▶︎〈トップライダーの言葉_12 / 浅野則夫(JPN-25)〉
▶︎〈トップライダーの言葉_11 / ニック・ベイカー〉
▶︎〈トップライダーの言葉_10 / ジェリー・ロペス〉
▶︎〈トップライダーの言葉_09 / ロビー・ナッシュ(US-1111)〉
▶︎〈トップライダーの言葉_08 / 中里尚雄〉
▶︎〈トップライダーの言葉_07 / リーバイ・サイバー(USA-0)〉
▶︎〈トップライダーの言葉_06 / ジョッシュ・アングロ(CV-1)〉
▶︎〈トップライダーの言葉_05 / ロビー・ナッシュ(US-1111)〉
▶︎〈トップライダーの言葉_04 / カウリ・シアディ(BRA-253)〉
▶︎〈トップライダーの言葉_03 / グラハム・イジー(USA-1)〉
▶︎〈トップライダーの言葉_02 / スコット・マッカーシャー(KA-181)〉
▶︎〈トップライダーの言葉_01 / アレックス・ムッソリーニ(E-30)〉