2024五輪公式艇 iQ FOiL の細部を探る

新艇種 iQFOiL とは?(後編)
「5~35ノットまでをカバーする
究極のウインドサーフィン・パッケージ」

Photo by Starboard / Starboard WebSite

1

|| 『iQFOiL』ディテイル・チェック

 

A_Senior

── iQ FOiL Senior(Olympic Model)──

BOARD:STARBOARD iQFOiL 95

2

▶︎5ノット(2.5m/s)のミニマムウインドからフライトレースが可能。35ノット(17.5m/s)までの風域をカバー。
▶︎アップウインド・ダウンウインドでともにレースができるハイパフォーマンス・フォイル・レーシングボード。コンディションがタフになった場合には、フォイルをフィンに変えればさらに適応風域が広がる。
▶︎ライトウインドではパワフルに、ハイ・ウインドではコントローラブルに、フォイルのパワーをアジャストできる。
▶︎軽量、耐久性に優れるカーボン・リフレックス・テクノロジーを採用したオリンピック・ボード。

❶ CARBON REFLEX SANDWICH|❷ CUT AWAYS|❸ SHARP RAILS AND BEVELED NOSE
❶ CARBON REFLEX SANDWICH|❷ CUT AWAYS|❸ SHARP RAILS AND BEVELED NOSE

CARBON REFLEX SANDWICH(カーボン・リフレックス・サンドイッチ構造)▶︎ 軽量、高速、高反応。世界で最も軽いグレードの東レ T700 45°バイアクシャル(二軸性)カーボンと、最も軽くて硬いサンドイッチ材を採用。スターボードがトップモデルにのみ用いるコンストラクション。

CUT AWAYS(カッタウェイ)▶︎ そのエリアはフォーミュラボードの2倍以上。ボトム・テイル部の大胆なカッタウェイ(切り落とし部)は、走り出しから効率的に接水面を減少させる役目を果たし、早くスムーズなテイクオフを可能にする。

SHARP RAILS AND BEVELED NOSE(シャープなレイルとベベルノーズ)▶︎ テイルの鋭いレイルは加速を促し、素早いテイクオフ実現する。またノーズロッカーは、ボードが接水したときに跳ね上がるようにデザインされている。
「BEVELED」とは「傾斜した」という意味だが、ノーズのその形状は空力特性に優れており、スピード性・コントロール性の向上に貢献している。

❹ RECESSED MAST TRACK|❺ FIN INCLUDED|❻ FOOT STRAPS
❹ RECESSED MAST TRACK|❺ FIN INCLUDED|❻ FOOT STRAPS

RECESSED MAST TRACK(埋め込み式マストトラック)▶︎ デッキコンケーブと凹型のマストトラックは、セイル(フット部)とボード(デッキ)の間の隙間を埋め、より垂直に近い(バーチカルな)セイリング・ポジションを可能にする。

※ 推奨マスト・ポジション
フォイルの場合:トラッカー中央
フィンの場合:風が弱い場合は中央より前2cm前、強風の場合は中央

FIN INCLUDED(付属フィン)▶︎ 男子選手用には『ドレイク iQFOiL 68cm』女子選手用には『ドレイク iQFOiL 66cm』のフィンが付属。チャレンジングな強風海面でのセイリングの幅を広げる。

FOOT STRAPS(フット・ストラップ)▶︎ ノーマルウインドサーフィンと比べて、フットプレッシャーの軽いフォイル用に開発された最新モデル『ドレイク・ウルトラライト・ストラップ』が付属。バックストラップのネジ穴の間隔を広げて余裕を作ることができ、ダウンウインドでは前方に、アップウインドでは後方にと、ストラップ内でフットポジションをアジャストできる。

※ 推奨ストラップ・ポジション
フォイルの場合:前足用=後ろから4番目/後ろ足用=後ろから3番目
フィンの場合:前足用=後ろから2番目/後ろ足用=後ろから1番目

FOIL BOX(フォイル・ボックス)▶︎ 厚さ20mmの高密度PVCと8mmのカーボンで構築された荷重分散型・高強度ボックスを採用。底は平らで、テーパータトルベースにも長方形ベースにもマッチする。フォイルベースをボックスの底にきっちり到達させることにより、フォイルの揚力をボックスの前壁と底壁に効率的に伝達できる。


FOIL
:STARBOARD FOILS iQFOiL CARBON

6
▶︎2018年、ゴンザロ・コスタ・ホーベルのドライブによりPWAフォイルクラスを制したワールド・チャンピオン・フォイル(レースフォイル)をベースに開発。微風域から強風域までをカバーする高性能が認められたことにより、オリンピックにフォイルレースが採用された。
▶︎原型であるレースフォイルよりも剛性の高いUHMカーボンマストとフロントウイング900を採用、アップグレードに成功し、特に軽風性能が向上している。
▶︎アップウインドレースに適した『115cmプラス』と、ハイウインドレース用の『95cmプラス』2本のフューサレージが付属、様々なレースフォーマットで対応できる。
▶︎テイルウイングの角度が調節でき、乗り手はチューニングにより強風時にコントロール性を高めたり、軽風時にパワーを強めたりすることができる。

iQFOiL CARBON MAST 95(iQFOiL カーボン・マスト 95)▶︎ 44層の超高弾性プリプレグ・カーボン・ファイバー製。スタンダードな95cmカーボン・マストの超高剛性バージョン。ハイパフォーマンス、イージーコントロール、ワイドレンジを実現する。

TAIL WING ADJUSTMENT(テイルウイング・アジャストメント)▶︎ 元々「-2°」に設定された255mmのテイルウイングは、付属する6枚のアングルスペーサー(-2°/ -1.5°/ -1°/ -0.5°/ 0°/ +1°)により、その角度を調節することができる。115 Plus(フューサレージ)の推奨テイルウイング角度は-2°なので、まずは0°スペーサーから。一方95 Plus(フューサレージ)の推奨テイルウイング角度は-1°なので、+1°のスペーサーから始めるといい。テイルウィングの角度を小さくすれば(-に振れば)速度とコントロール性が向上し、増加させれば(+に振れば)パワーを増強することができる。

❶ iQFOiL CARBON MAST 95|❷ TAIL WING ADJUSTMENT
❶ iQFOiL CARBON MAST 95|❷ TAIL WING ADJUSTMENT
❸ TWO FUSELAGES|❹ ALSO INCLUDED
❸ TWO FUSELAGES|❹ ALSO INCLUDED

TWO FUSELAGES(2体のフューサレージ)▶︎『115(cm)Plus』と『95(cm)Plus』2体のフューサレージが付属。115 Plusはハイパワーで、風上/風下コースのレーシング向き。95 Plusは、リーチングコースやロングディスタンス、GPSスピードトライアルなどマッチする。

ALSO INCLUDED(その他の付属アイテム)▶︎ 900mmフロントウイング、255mm(-2°)テイルウイング、チームバッグ(サイズL)


SAIL
:SEVERNE Hyper Glide Olympic
(9.0㎡_Men/8.0㎡_Women)

11
12

▶︎2024年パリ大会よりオリンピック公式種目となる『iQFOiLクラス』のために開発されたスペシャルセイル。
▶︎2018年PWAフォイル・ワールドチャンピオンのゴンザロ・コスタ・ホーベルと、セバーンのヘッドデザイナーであるベン・セバーンが開発を主導「究極のフォイルレーシングセイルの開発に成功した」
▶︎ラフカーブを緩くし、トータルフォルムをリファインしたこのセイルの特徴は、平均スピードはもとよりトップスピードも高く、しかもイージートリム性能(扱いやすさ)にも優れること。ソフトなラフカーブ、短めのブーム長、コンパクトなフットエリアなどがもたらすコントロール性能は秀逸で「フォイルレーシングの初心者でも、すぐにコンペティションレベルのスピードに到達できる」
▶︎実現した開発指針/1)フィンでの使用も可能にするためにフットサイズを縮小し、最良のアウトラインに 2)セイルを強化し、最強のバテンを合わせることで耐久性を高める 3)ラフカーブは緩く直線的にし、マストへのストレスを軽減する 4)XLカムでマストへの負担を軽減し、セイルのローテイションをスムーズに 5)適応風域を広くし、軽い使用感を実現するデザインを追求する。

❷ THERMOFORMED TACK FAIRING|❸ SEAM PROTECTION PANELS|❹ CAM AREA REINFORCEMENT
❷ THERMOFORMED TACK FAIRING|❸ SEAM PROTECTION PANELS|❹ CAM AREA REINFORCEMENT

3&4 ROLLER TACK PULLEY(3&4 ローラー・タック・プーリー)▶︎ 機能的でシンプルなプーリー(滑車)を採用。セイルのダウンホールにマッチし、シートの摩擦を抑制する。

THERMOFORMED TACK FAIRING(熱成形タックカバー)▶︎ ボードと乗り手の足を衝撃から守るタックパッド。ダウンホールシートの余剰分を収納できるロープ・スタッシュ・ポケット付き。

SEAM PROTECTION PANELS(シーム保護パネル)▶︎ ケブラーストリップで補強されたパネルは、セイルが水中にあるとき、あるいはランチングするときに、ボードとの摩耗からフットエリアを守る役目を果たす。

CAM AREA REINFORCEMENT(カム・エリアの補強)▶︎ すべてのカムの周囲にマストスリーブを保護する補強を追加。

BOOM HEIGHT REFERENCE(ブームの高さの目安)▶︎ セッティングの目安となるブーム高ゲージ付き。

REFINED LEADING EDGE(洗練されたリーディングエッジ)▶︎ 風の入り口であるリーディングエッジ(セイルの前縁部)を微妙にアジャスト。ドラッグ(抵抗)の軽減に成功している。

SEAMLESS HEAD PANEL(シームレス・ヘッド・パネル)▶︎ 摩耗率の高いトップ部は1パネルで構成。露出した縫い目(シーム)を無くすことで耐久性が向上。シーム関連のトラブルをシャットアウト。

❽ DIRECT DRIVE TENTIONERS|❾ LEECH REINFORCEMENT|❿ EASY FIX REMOVABLE OUTHAUL HOOK
❽ DIRECT DRIVE TENTIONERS|❾ LEECH REINFORCEMENT|❿ EASY FIX REMOVABLE OUTHAUL HOOK

DIRECT DRIVE TENTIONERS(ダイレクト・ドライブ・テンショナー)▶︎ テンションの軽い上部バテンのテンショナーは、チューブバテン直結式。これによりバテンテンショナーのために必要だったチューブバテンの重いパーツがなくなり「小さく軽く」を実現、空力特性も向上した。

LEECH REINFORCEMENT(リーチの補強)▶︎ リーチのバテンエリアの補強を強化。

EASY FIX REMOVABLE OUTHAUL HOOK(付け替え式アウトホール・フック)▶︎ アウトホール・フックの着脱はイージー。下部バテン用のHEX-4バテンテンショナーを使用して、上下のクリューに簡単に付け替えができる。

⓫ OPTIONAL CLEW POSITIONS ⓬ MOLDED SOFT EDGE
⓫ OPTIONAL CLEW POSITIONS
⓬ MOLDED SOFT EDGE

OPTIONAL CLEW POSITIONS(上下のクリュー・ポジション)▶︎ アウトホールは2つ。上=軽風用。パワーを得やすく、上り角度を高めやすい。下=中・強風用。セイルの開閉がスムーズに行われるようになり、スピードとコントロール性が向上する。

MOLDED SOFT EDGE(成形ソフト・エッジ)▶︎ フット部には、脆弱なステッチをカバーする凹溝加工を施した成形ソフトエッジを採用。ボードのノンスリップ加工に接することによる磨耗からフット部のダメージを軽減する。

SEAMLESS FOOT CONSTRUCTION(シームレス・フット構造)▶︎ フットエリアは荷重パッチを内蔵した縫い目のない1枚パネル。高荷重エリアであるフットから縫い目のほつれや磨耗をなくし、高耐久性と軽量化を両立。

OPTIMIZED AERODYNAMICS(最適化された空力特性)▶︎ バテンを気流の流れに沿わせる向きに揃えたことで抗力が減少。さらに継ぎ目を最小限に抑えたパネル構成により、空力特性が向上している。

HIGH PERFORMANCE MONOFILM(ハイ・パフォーマンス・モノフィルム)▶︎ パフォーマンスを最大化し、重量を最小化するカスタム・ハイ・エンド・モノフィルム構造。トップレーサーによってテストされたプロトタイプを正確に再現している。

ACTION WINDOW PANEL(アクション・ウインドウ・パネル)▶︎ 大人数でのスタートや、スラロームなど、接近戦で相手と自分の位置を測るに不可欠なマスト・スリーブ・ウインドウ。


B_Youth C_Junior
── iQ FOiL Youth & Junior──

BOARD:STARBOARD iQFOiL 85

16

▶︎ユース(U-19)とジュニア(U-17 & U-15)クラスに共通のワンデザインボード。シニア向けボード(iQFOiL 95)より最大幅で10cm、ボリュームで43ℓコンパクトに設計されており、成長途上のセイラーでも扱いやすい。
▶︎スターボード独自の『スターライト・カーボン・テクノロジー』を採用。『iQFOiL 95』と同様のハイパフォーマンスと低価格を実現している。
▶︎豊富な選択肢の中から自分(体格)に合ったストラップ・ポジション(スタンス幅)を選択できる。
▶︎テイル・ボトム部のカッタウェイ(切り落としデザイン)により加速が早く、フィンで走る際の性能も向上している。
▶︎付属のフィンはテイル幅にマッチする56cm(※ iQFOiL 95のフィンは男子68cm、女子66cm)。
▶︎iQFOiL 95と同じレーシングデザインを共有しているので、高性能でコントローラブル。違和感なくシニアクラスへ移行できる。

❶ STARLITE CARBON
❶ STARLITE CARBON

STARLITE CARBON(スターライト・カーボン構造)▶︎ 0.6mmのオーストラリア・パイン・ウッド材をミリタリーグレードのガラス繊維とカーボンで巻いたサンドイッチ構造。ボトムはフルカーボンで反発力が高く、適切な箇所に施したファイバー補強との組み合わせにより、全体に高硬度で高い耐衝撃性を備えている。極めてコストパフォーマンスに優れるコンストラクション。

※その他の特徴については『iQFOiL 95』の同項参照。

 


FOIL
:STARBOARD FOILS
iQFOiL ALUMINUM
18-19

▶︎iQFOiL カーボンと同じレーシングデザインを共有する高性能アルミフォイル。コストパフォーマンスに優れるのはもちろん、このフォイルでトレーニングを重ねていれば、将来違和感なくシニアクラスへ移行できる。

iQFOiL ALUMINUM MAST 95(iQFOiL アルミ・マスト 95)▶︎ 95cmの超剛性アルミマストに特許出願中のトリプルアイビーム断面(Triple I-beam cross-section)を採用。従来のマストよりも多くの余剰材を排除することに成功し、前例のない剛性とパフォーマンスを実現している。

※ その他の特徴については『iQFOiL CARBON』の同項参照。
 
 
SAIL:SEVERNE Hyper Glide Olympic(8.0㎡_Youth)&
Foil Glide Olympic(7.0㎡・6.0㎡・5.0㎡_Junior)

20

21_Youth
22_junior
▶︎ユース(U-19)用のHGO_8.0㎡はシニア用女子のそれと同じオリンピック・クラス用トップモデル。
▶︎ジュニア(U-17 & U-15)用FGO_7.0㎡・6.0㎡・5.0㎡は、各部に補強を施した軽量セイル。HGOのデザインと性能をそのまま継承したハイグレード・モデルで、体格の異なる全てのジュニアセイラーに対応し、広い風域をカバーする。
▶︎マストは軽さと耐久性を両立し、最適な復元力をもつRDMブルーマスト(カーボン90%)。
▶︎ブームはジュニアの小さな手にもマッチするVグリップ・アルミニウム・モノコックタイプ。従来の丸型アルミブームより40%剛性が高く、比類のない耐久性を備えている。
▶︎U-15クラスにおける使用可能セイルは5.0㎡と6.0㎡(一方または両方)。U-17では5.0㎡、6.0㎡、7.0㎡の中から最大2サイズを選択できる。

※ その他の特徴については『Hyper Glide Olympic』の同項参照。
 
 
U-15→U-17→U-19、1BOARD 3GENERATION
||ジュニアからユースへ、少ない買い足しでステップアップ

U-15からU-17、U-19クラスまで、iQFOiLのワンデザインレースでは同じボード(iQFOiL 85)が使われる。だから年齢に応じてクラスを上げていく際に、買い足す道具を最小限に抑えることができる。例えばU-15からU-17にステップアップする際には7.0㎡のセイルを。U-17からU-19に移行する際には8.0㎡のセイルとリグセット(マスト、ブーム、エクステンション)それに900mmのフロント・ウイングを揃えるだけでいい。

ジュニアからユース、そしてオリンピックへと、iQFOiLシリーズは系統的にデザインされた初めてのオリンピック用ウインドサーフィン・ギアである。これにより選手の必要コストは抑えられ、競技レベルも飛躍的に向上していくと思われる。iQFOiLのレースは年々エキサイティングなものになり、ギャラリーにとっても魅力的な競技になっていくはずだ。

スターボード社のCEO、スベイン・ラスムッセンは言う。「 iQFOiL は草の根レーサーがオリンピック・チャンピオンになる道を拓く。どこからでも世界につながる最高のセイリング・プラットホームになるはずだ」と。
23
24
 
 
OLYMPICS – THE STORY BEHIND iQFOiL
|| 開発者・協力者の言葉(※STARBOARDウェブサイトより)

Svein Rasmussen
Svein Rasmussen

スベイン・ラスムッセン
(Svein Rasmussen_スターボード創設者、CEO。1984年ロサンゼルス五輪・ウインドグライダー級ノルウェー代表、11位。後年PBA/現PWAワールドツアーにも参戦、特にロングボードによるコースレーシングで活躍した)

「今回のキャンペーンの一番の目的は、ウインドサーフィンをより刺激的で持続可能な未来に導くこと。僕らは素晴らしいチームワークでその第一歩を踏み出すことに成功した。このことをウインドサーフィンの発明者の一人であり『スターボード社』をともに立ち上げたジム・ドレイクに伝えたい。『ジム、みんなで飛ぶ時代が来たんだよ』と」

Remi Vila
Remi Vila

レミ・ヴィラ
(Remi Vila_スターボードR&Dマネージャー)

「このキャンペーンを始めたのは2002年、まだミストラル(イムコ)がオリンピックの公式艇だった頃だ。長い旅だった。話が現実味を帯びてきたのは2017年、PWAワールドツアーでフォイル競技が行われるようになってからで、以来最高のレーシング・パフォーマンスを発揮するフォイルの開発に全力を注いできた。最も困難だったのは手頃な価格のトップエンド・フルカーボン・パッケージを作ることだったけれど、他にも骨の折れる改善点はいくつもあった。例えば、

1)ボードがプレーニングに入るより早い段階でのテイクオフを実現するために(ボトムのテイル側に)深いカッタウェイ(段差形状)を採用した。これにより加速時に段階的・効率的に接水面を減らしていくことができるようになり、海面の吸引力を抑えることができた。結果、ボードは素早く浮き上がるようになり、フライト時にボードに当たる風の抵抗を減らす空力的デザインも進んでいった。

2)オリンピック・クラス(ワンデザイン・レース)ではセイルの変更は許されない。当然強風時にはオーバーパワーになりやすい。そのパワーを低減する方法はないか? この問題はフォイルに『115 Plus』と『95 Plus』2つのフューサレージ(胴体)をセットすることで解決した。強風時には『95 Plus』のフューサレージを用いてフロントウイングの位置を後退させる。これによりフォイルの実際的な出力は低減し、コントロールが利くようになる。

3)フォイルのリアウイングに(6段階に角度を調節できる)アジャスタブル・システムを採用した。この角度を大きくすれば(+に振れば)パワーが増大し、小さくすれば(-に振れば)パワーを抑えることができる。

4)強風ラフコンディション(特に波のある海面)をカバーするために、フィンでも走れるようにした。

これらの改善点をバランス良くパッケージすることで、iQFOiL は6ノットから35ノットまでの広い風域でレースができる高性能なワンザイン・ウインドフォイルになった。未来を担える道具に」

Tiesda You
Tiesda You

ティエスダ・ユー
(Tiesda You_スターボード・ブランドマネージャー。イギリスの大学で航空力学を学んだ理論派デザイナーでもありiQFOiL』の高性能化に深く関与した)

「『iQFOiL』は(W杯などで使用されている)スターボード『レース Plus』のアップグレードバージョンだ。それは静かでスムーズで、たった6ノットの風でもフライトし、レースができる。週末にホームゲレンデで遊ぶこともできるし、4年ごとにゴールドメダルを狙うこともできる。すべての道をつなげる『iQFOiL』は、間違いなくデザイナーとしての僕のキャリアのハイライトだ」

Ben Severne
Ben Severne

ベン・セバーン
(Ben Severne_セバーンセイル・ヘッドデザイナー、HGO=HyperGlideOlympicセイル開発者)

「HGO(ハイパー・グライド・オリンピック)は、2018年にはゴンザロ・コスタ・ホーベルをワールドツアーのチャンピオンに導き、’19年にもマテオ・イアチノのワールドタイトル争いに貢献したHGG(ハイパー・グライド・ゴー)をベースに開発したセイルだ。フォイルセイルとして、最先端に位置するものであることは間違いない。

でもオリンピックにおけるワンデザインレースでは、セイルは1枚しか使えない。その1枚は軽量でレスポンスが良く、何より広い風域でレベルの高い性能を発揮するものでなくてはならない。改善点はいくつもあった。例えば、

1)マストへのストレスを和らげるためにラフカーブを緩め、各部に補強を追加した。これにより数えきれないほどのセッティング、レース、パンピングなどに対する十分な耐久性をセイルに付加することに成功した。

2)ラフカーブとともにリーチラインもストレートに、アウトライン全体をハイアスペクト(縦長)にリファインしたことで、全風域、全セイリングアングルにおけるコントロール性とスピード性が向上した。

3)セイルのテンションを分散させ、スムーズなローテーション(返り)を実現するXLカムを開発したことで、使いやすさのレベルがさらに上がった。

このセイルなら何時間でもセイリングに集中することができる。テストに参加してくれた多くのトップレーサーたちがそう言ってくれている。僕自身もこのプロジェクトに参加できたことと、セイルの出来に満足している」

Gonzalo Costa Hoevel
Gonzalo Costa Hoevel

ゴンザロ・コスタ・ホーベル
(Gonzalo Costa Hoevel_2018年PWA初代フォイル・チャンピオン。iQFOiLの主要なテスターであり、設計者の一人でもある)

「ガルダ湖の海上トライアルでデモを行い、バミューダで行われたワールドセーリングのミーティングでは『iQFOiL』こそが進むべき道にあるものだと説明した。10日間、ホテルを出ずに全力を尽くしたつもりだ。そして僕らのギアがオリンピックに採用された。最高の気分だ。

フォイルはRS:Xやスラロームとどこが違うかとよく訊かれる。僕はベンチプレスで全力を尽くすというより、フォイルはバランスボールの上に立ち続けるのに似ていると答える。一番の違いは、力勝負ではないということ。僕はワールドツアーで15歳から50歳までの選手らとフォイルレースを戦っているけれど、年齢や体力や体重によるスピード差はあまりないと感じている。いろんなレーサーがその腕で、スキルで戦うことができる。それが『iQFOiL』によるレースだ。オリンピックに最適だと思わないかい」

Dorian Van Rijsselberghe
Dorian Van Rijsselberghe

ドリアン・ヴァン・ライセルベルゲ (Dorian Van Rijssellberghe_2012年ロンドン五輪、2016年リオデジャネイロ五輪・RS:X級金メダリスト。オランダのセイリング・ヒーロー。国際的にセイリング競技を統括する『ワールドセイリング(国際セーリング連盟)』に手紙を送り『iQFOiL』への艇種変更を後押しした)

「オリンピックにウインドサーフィンを留まらせておくためには変化が必要だと感じていた。僕らはその変化に適応し、よりセクシーになり、より速くなる必要があると。フォイルにはそれを実現するポテンシャルがある。

僕が手紙を書いたことにより『ワールドセイリング』が新しいオプションに目を向けてくれたこと、ウインドサーフィンの限界が、彼らの知らないところにあると気づいてくれたことを、とても嬉しく思っている。このスポーツをオリンピックに留まらせ、よりエキサイティングな方向に導くことができて本当によかった」

Antonio Cozzolino
Antonio Cozzolino

アントニオ・コッゾリーノ
(Antonio Cozzolino_2020東京五輪・RS:X級ニュージーランド代表iQFOiL』プロジェクトにも早くから参加し、重要な役割を果たしている)

「何よりもまず、フォイルは楽しい。そして僕らはその道具で何ができるかを発見することができた。レースとしてもスポーツとしても、それから多くのセイラーにとっても、フォイルには果てしない可能性がある。セイルごと浮き上がって走るヴジュアルは華やかだから、今後多くのメディアに取り上げられる機会も増えるだろう。

このプロジェクトには簡単ではない仕事も多かった。僕はセレクションに関わる多くの書類を作り、提出しなければならなかった。そんな仕事も遂行できたのは、僕らがやっていることを信じていたからだ。ウインドフォイルには、ウインドサーフィンの歴史をポジティブに変える力がある。かなり特別な力が」

Aaron Mcintosh
Aaron Mcintosh

アーロン・マッキントッシュ
(Aaron Mcintosh_2000年シドニー五輪・ミストラル級ニュージーランド代表、銅メダリスト。現在はオランダ・オリンピックチームのコーチも務める。2018年には『iQFOiL』プロジェクトにも参加)

「“If you want to predict the future, you create it”. 未来を予測したいなら、それを生み出すことだ。未来を再考し、ウインドサーフィンをクールに見せ、主流に引き戻すしかない。フォイルはレーシング・フォーマットを挑戦的でダイナミックなものに変え、メディアや一般の人たちにとっても何かを伝える力を持つことになるだろう。

既に次世代の多くのウインドサーファーが2024年のオリンピックに出場したいと、その夢を語っている。iQFOiLは彼らのためのものだ。彼らが未来の夢を実現するに相応しい乗り物だと僕は思う」

Marina Alabau
Marina Alabau

マリーナ・アラバウ
(Marina Alabau_2012年ロンドン五輪・RS:X級スペイン代表、金メダリスト。同年スペイン年間最優秀スポーツ選手に選出される。2019年PWA女子フォイルランキング2位)

「iQFOiLにとても興奮している。オリンピック・クラスのこの抜本的な変更にとても満足している。それはすべてのセイラーとギャラリーにとって先進的な選択であり、ウインドサーフィンにとって大きな前進だと思う。

実際に乗ってみて感じるのは(RS:Xと比べて)軽風から強風まで、セイリングがはるかに簡単になるということ。RS:Xでは57~60kgだった女子選手の理想体重ももっと広がるはずだから、多くの選手に門戸が開かれると思う。I just love it! 私はフォイルがオリンピック・コミュニティに登場することにすごく興奮しています」

▶︎ iQFOiL Price List DOWNLOAD

───────────── Windsurfing Magazine ────────────── ウインドサーフィン マガジン ─────────────

▶︎五輪新艇種 iQFOiL とは?(前編)