Old School Windsurfing

名艇ドライブ・インプレッション
Formerly Famous Board Drive Impression
Photo=Tetsuya Satomura/Tester=Takayoshi Yamamoto(HALE Surf & Sail_Enoshima)

(左から)ウインドサーファー/ロケット99/ミストラル・マリブ/ジミールイス・スピードボード×2/セイルボードマウイ・ウェイブ/アングロ・フリーウェイブ/JP・フリームーブ/パトリック・QT-ウェイブ
(左から)ウインドサーファー/ロケット99/ミストラル・マリブ/ジミールイス・スピードボード×2/セイルボードマウイ・ウェイブ/アングロ・フリーウェイブ/JP・フリームーブ/パトリック・QT-ウェイブ
ウインドサーフィン・マガジン Vol.8_WINDSURFING BOARD NOW & THEN
ウインドサーフィン・マガジン Vol.8_WINDSURFING BOARD NOW & THEN

ウインドサーフィン・マガジン最新号(2020年4月30日発売_Vol.8)の特集『WINDSURF BOARD NOW & THEN/ボードデザインの歴史の流れがライディングの幅を広げる』からのスピンオフ記事をお届けいたします。

題して『名艇ドライブ・インプレッション』あの頃のボードは何を意図してデザインされていたのか? おお乗ったことがある、見覚えがあるというベテランさんも、なんじゃこりゃという人も、歴史は未来へのイメージを広げるものです。一部雑誌の記事と重複する部分もありますが、どうぞお気軽にお付き合いください。

1_ROCKET 99/スモールボードでズドーン

WINDSURFER|ROCKET 99
WINDSURFER|ROCKET 99

▶︎ウインドサーフボードの原型は1967年に生まれた。その型によって初めて量産されたのがウインドサーファー艇である。その全長は12フィート(365cm)で最大幅は66cm。ワイデストポイント(以下ワイズ)がやや後ろ寄りにあり、レイルはエッジのない丸みを帯びたアップレイル。テイルはスパッとスカッシュでまとめられている。サーフボードでいえばロングボード的な形状だが、ボトムのセンター付近にはフラットな部分が設けられており、セイルを付けても安定するようにデザインが成されている。

ジョイントポジションはやや前寄りにあり、ビッグなダガーも装備されている。これは当時のセイルのブーム長が長く、ドラフトも深かったから。セイルパワーの多くが横向き(風下側)に発生することによるボードの横流れを抑えるためだ。

加えてボードが走り始めると、テイル付近のレイルが水に食い込むため、ボードの直進安定性は極めて高い。ただその分回転性は悪くなるので、フィンを小さめにすることで、そのデメリットを抑えている。

私はこのサーファー艇には何度も乗ったことがある。風の力で「グライド」を楽しめるボードだ。ボードの質量で滑っていく感じ。ボードを抵抗と捉えるのではなく、ボード自体に推進力をもらう感じ。水を切って滑らかに走っていくその感じが何とも特徴的で気持ちいい。水の上にリフトする今のウインドサーフィンとはまるで違う。でも水面を滑るという表現がぴたりとハマるその感触には、どうにも捨てがたいものがある。

ROCKET 99 @ Enoshima
ROCKET 99 @ Enoshima
この時代のボードのおしゃれなこと。(ダガーの代わりに使う)センターフィンもテイルのフィンも、ボードカラーに合わせてコーディネートされている。当時は「安いプラスチックのフィンだろ」という人が多かったみたいだけど。
この時代のボードのおしゃれなこと。(ダガーの代わりに使う)センターフィンもテイルのフィンも、ボードカラーに合わせてコーディネートされている。当時は「安いプラスチックのフィンだろ」という人が多かったみたいだけど。

▶︎『ロケット99』は、ウインドサーファー艇の兄弟ボードとして生まれた。やや後ろ寄りにあるワイズの位置とレイル形状はサーファー艇とよく似ている。だが全長は285cmとドラスティックに(な、なんと80cmも)ダウンサイジングされている。おそらくその名の通り、ズドーンと「飛べる」ボードとしてデザインされたのだろうと思われる。

ボードのセンターにはダガーボードの代わりに(テイルに付けるフィンよりやや大きめの)フィンが取り付けられるようになっている。その当時のセイルでは、上りが難しかったからだろう。でも実際に乗ってみると、センターフィンを付けなくてもまったく問題は感じない。またワイズとボリュームがテイル寄りにあるので、異常なほどにストラップに足を入れやすい。スピードが出ていなくてもストラップを使えるレベルだ。

セイルに風を入れると、スピードは徐々に上がっていく。今のボードのようにプレーニング時とそうでないときとの境目がはっきりとはしていない。だから微風でも強風でも、それなりに加速を楽しむことができる。

レイルジャイブなどのターンでは、アウトラインが独特なのである種のクセは感じるものの、後ろ寄りを使ってやれば、それなりにできる。で、ジャンプはどうだ? 本当にズドーンと飛べるのか? ボードも重たいし、よほどコンディションが合わない限りジャンプなんて無理だろう。僕はそう思っていたのだが、飛ぶだけなら意外なほど普通に飛べた。さすがに高さを出したりするには、いくつかの条件が整わないと難しそうではあるけれど。

当時は前衛的・革新的なボードとして捉えられたに違いない。これならコンパクトだし、跳ぶのもラクだとエキスパートたちが歓喜したのかもしれない。なにせそれまではサーファー艇で何もかも(ジャンプも波乗りも)やっていたわけだから。

2_Jimmy Lewis_Speed Board/細く鋭いボードでズキューン

Jimmy Lewis_MUD SHARK シャープなエッジにボキシーレイル、ボードの名前も凶暴そうでかっこいい。
Jimmy Lewis_MUD SHARK シャープなエッジにボキシーレイル、ボードの名前も凶暴そうでかっこいい。

▶︎ジミー・ルイスは1968年にボードシェイプを始めた。もう半世紀以上もその仕事を続けている。サーフィン、ウインドサーフィン、カイト、SUPのボードを削り、それら全てのシーンできっちり成功を収めているシェイパーは、たぶん彼くらいのものだろう。ジミーは言う。「アウトライン、ロッカーライン、デッキライン、厚み、ボトム、デッキ、レイルの形状、それらを最適な曲線で結んでいくこと」それが自分のスタイルだと。おそらく彼はいくつもの黄金比を獲得しているのだろう。

彼がウインドサーフィンのボードを初めてシェイプしたのは、1978年頃のことだ。マウイでホキーパの(つまりウェイブライディングの)開拓者の一人であるマイク・ウォルツと出会い、乞われて12フィート(365cm)のボードを製作した。それはほぼウインドサーファー艇と同じ形状だったが、カスタムシェイプのそれは、同じカタチとは思えぬほどの性能を発揮した。

81年にはマウイで最初のウインドサーフィンショップである『セイルボードマウイ』の一員となり、いつしかメッカと言われるようになったその地で、ウインドサーフィンというスポーツの世界的爆発に貢献した。93頃まではウインドサーフボードしか削らず、ライダーとしてもこのスポーツに没頭した。

ジミーのキャリアのハイライトのひとつは、83年、自分が削ったボードでフレッド・ヘイウッドがスピード世界記録を樹立したことだ。場所はイングランドのウェイマス、記録50.98km/h。その後も彼は挑戦を続け、88年にはエリック・ビールのドライブにより、再度世界記録を更新した。場所はフランスの人造湖、記録74.96km/h。

ちなみに現在のウインドサーフィンによる世界瞬間スピード記録は、2015年にアントワン・アルボーがナミビアの人口水路で叩き出した100.32km/h(54.17ノット)だが、当時のジミーとエリックの記録(500mの平均速度)はその年の全ての帆走艇の中で最速で、今もワールド・セイリング・スピード・レコード・カウンシル(WSSRC)の1988ファイルのトップに正式記録として残されている。

Jimmy Lewis_Speed Board @ Enoshima
Jimmy Lewis_Speed Board @ Enoshima

▶︎今回乗ったのは、そんなジミーがその当時に製作したと思われるバリバリのスピードボードだ(編集部注:ぬおっ、こ、これは、かつて日本スピード記録を保持していたケーちゃん、鈴木啓三郎氏が乗り、その後鎌倉のウインドサーフィンショップ『アフロディア』に飾られていたボードはないか、もしかして?)。

アウトラインは、まさにガン。ワイズがやや前寄りにあり、テイルがキュッと絞られている。かっこいいですね! レイルもエッジもかなりシャープで、真ん中からノーズにかけては見るからにボキシーに仕上げられている。こいつは激しく乗りにくそうである。

と、思って乗ってみたら、というか、セイルに風を入れて走らせてみたら、意外にも乗りやすかったです。細いボードは浮き切らず、シュッと水を切って走っていく。エッジなどからのプレッシャーにより、水が変形する前にボードは先へ先へと疾走していく。そのプレーニング感がたまらない。

おそらく切られる方の水は、その瞬間、切られたことにも気づいていないはずだ。そんな感じが爽快でした。

みなさんも機会があれば是非一度、スピードボードに乗ってみてください。あんまり機会はないと思うけど(パトリックやJPのラインナップには、今もスピードボードが組み込まれています)。

3_Angulo_FreeWave/水に馴染むボードでシュパーン

一時期アングロのボードに採用されていたディンプルボトム(左)。その効果については諸説あるようだけれど、今回は感じ取ることができなかった。すみません。
一時期アングロのボードに採用されていたディンプルボトム(左)。その効果については諸説あるようだけれど、今回は感じ取ることができなかった。すみません。

▶︎エド・アングロは1968年にサーフボードのシェイプを始めた。ジミーと同じだ。なんだか『シェイパーに歴史あり』みたいになってきたけれど気にせず進める。その後、エドは米国カリフォルニア州南部のハンティントンビーチに渡り、ローカルサーフショップのシェイパーとして腕を磨いた。彼の削り出すボードには職人としてのスキルが感じられると評判になった。そこに当時のスタイリッシュなエアブラシによるデザインが相まって、すぐに人気が高まった。

やがてエドはオアフに渡った。彼の子供たち───そう天才ウェイブライダーのマーク・アングロと脱力系スタイルキングのジョシュ・アングロ───は、パイプライン、ロッキーポイント、サンセットなど、有名なサーフポイントで波に乗り、フレッド・ヴァン・ダイクやジェリー・ロペスらの伝説を聞いて大きくなった。

ウインドサーフボードを初めて手がけたのは、1973年のことだろうと思う。この年「エド・アングロは、ウインドサーファー艇をコピーシェイプし、ケブラーで巻いた」という記録がある。80年代中頃には、マウイのショップ『ハイテック』の創始者で「(フィンもボードも浮かせた)空飛ぶボトムターン」で有名なクレイグ・メイソンビルと、イジーセイルのデイブ・イジーが考案したとされる非対称テイル(シャークアタック)をボードに取り入れ、多くのマウイライダーたちに供給した。そのボードもまた、ボトムターン→リッピングのあとの板の返しがシャープになると評判になった。

その後家族はマウイに渡り、マークとジョシュはウェイブセイリング界のビッグネームとなり『アングロ』のボードは、さらに信頼性を高め「今の動きに不可欠なギア」と言われるようになった。エドはあまり多くを語らない。だから彼のボードに対するコメントをどこかで見たり聞いたりした記憶がほとんどない。ただアングロのホームページには、短くこうある。「アングロのボードの特徴は、まろやかな水当たりと、斬新で耐久性に優れたハイクオリティなコンストラクションにある」

Angulo_FreeWave @ Enoshima
Angulo_FreeWave @ Enoshima

▶︎そんなエドさんの、おそらく彼の子供たちの意見もフィードバックされているのだろう古めのボードに乗ってみた。レイルも含めて全体がナチュラルなラインでつながれたフリーウェイブ。素材はPUクラークフォームですかね。フィンはマーク・アングロモデル。ボトムには一時期アングロのボードについていたディンプルが掘られている。

このディンプル、ゴルフボールと同様に「飛びが違うのか?」とも思ったのだが、どうやらそうじゃないみたいだ。ならば何だ、と言われても困る。乗ってみてもその効果を感じ取ることはできなかった。何やらボディボードには今もこのディンプルをボトムに施したボードが結構あるようで、凹みが水を押しやって抵抗が小さくなるとか、スピンをしやすくするだとか、いろいろ言われているみたいだが、そんな感じもしなかった。

でも今乗ってみても古さはあまり感じない。どこかに違和感を覚えることもなく、ただ普通に乗りやすい。現在主流のスタイロフォームでできたボードと比べるとやや重量があるのだが、逆にそれが走りを落ち着かせ、海面や波にボードが馴染んでいる感じがする。またジャンプをする際にも、軽さと反発で飛ぶのではなく、スピードと走行ラインの延長線上に慣性で飛んでいくという感じがある。

エドの言う「まろやかな水当り」とはこういうものかと思った。反発するのもいいけれど、馴染むのもいい、実にいい。両者の感触を知っていると、ウインドサーフィンに対する感性が鋭く豊かになるような気がする。

今回オールドボードに乗ってみようと思った理由のひとつはそこにある。新しい刺激をインプットすることで、古い感性も活性化し、違いのわかるウインドサーファーになれるのではないか、と思って。

長くなりました。ここまで読んでくださった『オールド・スクール・ウインドサーフィン』ファンのみなさま、ありがとうございます。次回があればまたお会いしましょう。「こんなのやって」みたいなリクエストもあればお寄せください。

─── Board Impression=Takayoshi “Yanmer” Yamamoto(HALE Surf & Sail_Enoshima)

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