荒れたPWA韓国大会

PWA WORLD TOUR 2019
EVENT_04 / Slalom Men & Women #3, Foil Women #2
May 18-23 / Jinha Beach, Ulsan, Korea
All Photo by John Carter_pwaworldtour.com
それでも王者は速かった

Men's Slalom Battle
Men’s Slalom Battle

5月23日、PWAワールドツアー・アジアラウンド第二戦、韓国大会が閉幕した。風の強弱が激しく、あるいは海面がチョッピーだったことなどにより、多くの番狂わせがあった(5月23日、韓国大会_Day 5 の記事参照)。若手のレベルも上がっている。この舞台でトーナメントを勝ち上がるのは、間違いなくこれまでより「タフな仕事」になっている。しかしそれでもなお、いま僕のなかに一番強く残っているのは、やっぱり王者は速かった、ということだ。ツアーはもうすぐ折り返し点を迎える。後半戦を楽しむためにも、レース後に───PWAのレポートや選手のブログなどにより───確認できたことなどを含めて、この大会を振り返っておきたいと思う。

▼女子フォイル/デルフィン無双

Mio Anayama(JPN-311)|Delphine Cousin(FRA-775)| Marion Mortefon(F-118)|Marina Alabau(ESP-5)
Mio Anayama(JPN-311)|Delphine Cousin(FRA-775)|
Marion Mortefon(F-118)|Marina Alabau(ESP-5)

女子のフォイルでは全5レースが成立した。ルールに則って1ディスコードが入り(各人ワーストレースのポイントが削除され)デルフィン・カズンが有効レース4レース中の3つのレースでトップを獲って、日本大会に続く2連勝を達成した。第3レース終了時点ではマリオン・モーテフォンと同ポイントで並んでいたのだが、終わってみれば最終的に2位になったマリーナ・アラバウに4.6ポイントの差をつけての圧勝だった。

日本で7つ、韓国で5つ、デルフィンはこれまでに全12レースを走ってきたわけだが、そのうちの8つのレースでトップフィニッシュを果たし、最低順位も3位とほとんど弱みを見せていない。今の状態では彼女に弱みはないのかも。ライバルたちはそう思っているかもしれない。ライバルたち? 実際にはマリーナとマリオンの他に、デルフィンに対抗できるライバルは存在しない。女子のフォイルはこの三人のセメントマッチで、その頂点はデルフィンで固まりつつある。

Marion Mortefon(F-118)|Delphine Cousin(FRA-775)|Marina Alabau(ESP-5)
Marion Mortefon(F-118)|Delphine Cousin(FRA-775)|Marina Alabau(ESP-5)

今シーズン開幕前には、2012年ロンドン五輪金メダリストのマリーナに分があるのでは、との声もあった。だがフォイルはワンデザインレースではない。この種目では3枚のセイルの使用が許されており、デルフィンが登録した最大セイルは9.0㎡でマリーナのそれは8.0㎡である。となれば、その下の中サイズも小サイズも、おそらくデルフィンのセイルの方が大きいはずだ。同じ風域で異なる馬力のエンジンを積んだとなれば、マリーナに勝ち目が大きくなるのは、デルフィンが何らかの理由でアンダーセイルに陥ったときくらいしかないのではないか?

いや、そんな気がするだけかもしれない。今大会のマリーナにはミスや不運が多かった、第1レースではスタート直前の道具交換が間に合わず、そのあとのレースでもハーネスラインの長さを調整しようとしたところで沈したり、フォイルに海藻が絡んで失速したりもした。彼女が普段通りのレースをしていれば、もっと接戦になっていたことは間違いない。第1レースでトップフィニッシュを果たしたマリオンにも、彼女ならではのパワーと艇速を感じることはできた。マリーナとマリオンはデルフィンの独走を止められるか? それが起こるとすれば、どんなときなのか。注目していきたい。

▼女子スラローム/デルフィンWクラウン(どころではない圧勝)

Women's Slalom Battle
Women’s Slalom Battle

全4レース(1ディスコード)が成立した女子スラロームでは何度かトップが入れ替わった。第1レースでトップを獲ったのは、レナ・アーディル。去年のシーズンオフの疲労骨折(どちらかの足の指の付け根あたり)からの復帰戦で、いきなり見事な走りを見せた。でもやはり万全ではなかったのだろう。レナはそれ以後のレースで4位、8位、10位と順位を落としていった。ジャイブマークの刺客といわれる彼女が、そのマーキングで何度かセイルを落とす場面もあった。レースを戦い切るだけの体力がなかったのかもしれない。ジャイブでボードを押さえる筋力が回復していなかったのかもしれない。それでもレナ(総合5位)は周囲にその力を再認識させることには成功した。レナは回復すれば速いはずだと。

第2レースではマリオン・モーテフォンがジャイブでデルフィン・カズンを抜き、今季初めてのトップフィニッシュをもぎ取った。同時に暫定順位でもトップに立ち「もしかしたら!」と周囲にサプライズの期待を抱かせた。だがそれもほんのひとときのこと。第3レースでも第4レースでも、マリオンはデルフィンにやられた。結果、総合2位。互いを強く意識したレースで、マリオンはデルフィンの防衛線を突破することができなかった。ポイント差は1.3だが、実際にはそれ以上の差があるように思われた。

Delphine Cousin(FRA-775)
Delphine Cousin(FRA-775)

優勝はデルフィン・カズン。フォイルとスラロームでWクラウン達成である。いや、それどころではない。3×ワールドチャンプのデルフィンは、2017年11月のニューカレドニア大会以来、PWAのレーシングイベントで8連勝(スラローム6+フォイル2)を続けている。今や無敵だ。デルフィン城の守りは堅固で、その周囲の堀は深くて広い。誰も本丸には近づけないという感じである。

▼穴山未生「史上最大のチャンスを逃す」

Mio Anayama(JPN-311)
Mio Anayama(JPN-311)

3位争いは熾烈だった。第4レースのファイナルを前にマエル・ギルボー/リル・グラニエ/穴山未生が有効ポイント8.0で並んでいた。このレースでいい結果を残せれば、もしかしたら表彰台もあるかもしれない。穴山はそのことになんとなく気づいていた(以下、カギカッコ内、彼女のブログより抜粋)。でも「(ポイントの)計算はしなかった」精神が崩壊しそうだったから。「ジャイブでスピードを緩めるな、思い切りいけよ!」とセコンド(浅野則夫)から指令がとんだ。スタートホーンが鳴る。思い切りよくラインを切る。勝負のファーストマーク。3番手だ。セイルを重ねるようにすぐ後ろにマエルがいて、そのすぐ後ろにはリルがいる。しかし「残念ながらここでマエルちゃんに抜かれ、次のマークでリルに抜かれ・・・」結局5位。総合6位でレースを終えた。

穴山は「とにかく少しでも前に! と抜かれても前向きな気持ちで」レースをしていた。でも「(レースが)終わって細かく(ポイントを)計算してみたらめっちゃ落ち込んだ」セコンドには「あんなクソみたいなジャイブで3位になれるわけねーじゃん」と言われて「傷口にレモン」みたいな気分になった。本当に惜しかった。スピードはある。問題はジャイブだ。特にプレシャーのかかるマーキングでそこから脱出できるスキルを磨いていけば、穴山の可能性は大きく広がる。何年か前に彼女は「ジャイブは練習したことがない」と言っていたのだが、ならばなおさらそこには大きな伸び代が残っているはずである。いつか(というか、できるだけ近いうちに)ジャイブとポイントに正面切って向き合うようになった彼女のレースが見てみたい。ウィメンズクラスのレベルは年々向上しているけれど、まだ上がりきってはいないはずだ。おそらく今がチャンスなのだ。

▼男子スラローム/マテオ・イアキーノ反撃完遂

Matteo Iachino(I-140)
Matteo Iachino(I-140)

あと1レース成立してディスコードルールが適用されていれば、リザルトは大きく変わっていたかもしれない。だが男子スラロームで成立したのは3レース。その全てのポイントがカウントされて、総合順位が決まった。優勝したのは2016年のスラローム・チャンプで去年ランキング2位のマテオ・イアキーノ。もちろん彼はこの大会でも速かった。でも正直なところ、そのスピードや実績ほどは目立っていなかったと思う。多くの番狂わせがあったからだ。

第1レースではジョーディ・ヴォンクが、第2レースではブルーノ・マルティーニが人生初のツアー・トップフィニッシュを決めた。王者アントワン・アルボーは第1レースのクォーターファイナルで、さらに去年ランキング3位のピエール・モーテフォンも第1・第2レースの同じくクォーターファイナルで姿を消した。それらの派手な事件がマテオの走りにベールをかけた。たぶんマテオはそのなかで静かにクールに燃えていた。ライバルたちはそれぞれミスを犯している、このコンディションではおそらく(ディスコードルールが適用されるほど)多くのレースは成立しない、ならばオレは・・・そう思っていたのかもしれない。そして3位、5位、4位で各レースを走り切り、3レース全てでファイナル進出を果たした唯一の男になった。見事だ。『ミスター・コンスタント』とはロス・ウィリアムスの異名だが、今大会でその名に相応しいのはマテオだった。

Jody Vonk(NED-69)|Tristan Algret(GPE-44)
Jody Vonk(NED-69)|Tristan Algret(GPE-44)

2位はオランダの25歳、ジョーディ・ヴォンク。2017年から’18年にかけて何度もファイナルに進出したジョーディが、ついに第1レースで自身初めてのトップフィニッシュを決め、初めての表彰台までものにした。第2レースの13位は残念だが、それさえなければ優勝も夢ではなかった。

3位はフランス(グアドループ)の25歳、トリスタン・アルグレット。これまでにも時折きらりと光る走りを見せていた。2015年のトルコ大会では表彰台まであと一歩のところまで迫ったものの、最終レースでまさかのリコール(フライング)、チャンスを逃したこともあった。それから4年、少し時間はかかったけれど初めての表彰台を経験した。ジョーディもトリスタンもこれがいいきっかけになるといい。少なくともひとつの「たられば」の壁を抜けた二人は、これまでよりも強くなっているはずだ。若手の牽引者としてスラロームの世界を掻き回してほしいものである。

▼アントワンは死なない

Antoine Albeau(FRA-192)
Antoine Albeau(FRA-192)

11×スラロームチャンプのアントワン・アルボーは、先にも述べたように第1レースのクォーターファイナルで敗れ、一気に窮地に追い込まれた。原因はフィンに藻が絡んだことにある。今季のアントワンはついていない。開幕戦のフランス大会でも超ガスティな風の罠にハマってオーバーセイル、トップのピエールに追いつくことができなかった。それに加えて開幕直前に『JP』に移籍したことも、不安要素のひとつとされていた。だがもう心配はいらない。ノープロブレムだ。

これまでの敗戦の理由は全てはっきりしている。ただ不運だっただけだ。アントワンは第2・第3レースをいつものように走り、3位と1位でフィニッシュしている。その結果21位から4位までジャンプアップ、暫定年間ランキングではトップに躍り出て、今やいつものツアーリーダーのポジションに立っている。まるで不意打ちを喰らって膝をついたターミネーターが、数秒後には何事もなかったかのようにすくっと立ち上がるみたいに。ボードが変わっても、いくつかの不運に見舞われても、アントワンは不死身だ。彼を本当に膝まづかせるのは並大抵のことではない。

Norio Asano(JPN-25)|Ben Van Der Steen(NED-57)| Ingmar Daldorf(NED-191)|Arnon Dagan(ISR-1)
Norio Asano(JPN-25)|Ben Van Der Steen(NED-57)|
Ingmar Daldorf(NED-191)|Arnon Dagan(ISR-1)

『PWA TV』のMCが「ジャパニーズ・スター」と呼んだ浅野則夫は、第2レースに続き第3レースでもクォーターファイナル(トップ32の戦い)に進出した。だが結果は6位でセミファイナル進出は叶わず、総合32位で大会を終えた。以下、彼のブログのコメント。「ダメダメです。でも、もっといい走りができるはず! やはりちゃんと腰を治さないと」持病の腰痛が完治して、もっといい走りができたとき、浅野は世界のトップレーサーたちとどんなバトルを展開するのか。僕の中での「たらればイメージ」は膨らむばかりだ。そのときを楽しみに待ちたい。

▼2019 Ulsan PWA World Cup, Korea_Day 6

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▼2019 Ulsan PWA World Cup / Results
11_Result112_Result213_Result3

▼2019 Current PWA Overall Ranking / Foil Women
14_Result4
▼2019 Current PWA Overall Ranking / Slalom Women
15_Result5
▼2019 Current PWA Overall Ranking / Slalom Men
16_Result6