2019年 日本のスラロームバトルが始まる

JWA JAPAN TOUR 2018-19_SLALOM #3
TSUKASA JAPAN CUP 2019
2019.02.01(Fri)-02.03(Sun)_Kurasaki-Beach, Amami Oshima, Kagoshima
『ツカサジャパンカップ』で何かが変わるか? 

『掛川クラシック(12月1日-2日)』からちょうど二カ月、JWAスラロームツアーがリスタートする。明日から始まる『ツカサジャパンカップ』はツアー第三戦にして、今年最初の公式戦ということになる。それはおそらく、選手にとって普段とは違う意味を持つレースであるに違いない。

この二カ月のあいだに所属チームを移籍した選手もいる。また多くの選手がこの時期に2019年モデルの新たなレーシングギアを手にしている。ツアー前半の二戦を踏まえて、どこかで合宿を張った選手もいるかもしれない。彼らは勝つために行動する。そして何かを掴んで、あるいは何かを求めてこの大会にやってくる。

1_TSUKASA_CUP2019_A2_1211_2何かが変わるかもしれない。何かを変えたい。そう思っている選手たちが鎬を削り、やがて冷徹な結果と向き合うことになる。希望を見出す者もいれば、失望を感じる者もいる。それは普段のレースでも同じだが、その感情はいつもより深く長いスパンで選手の心に残るものになる。

『ツカサジャパンカップ』で観るべきものは、まず「希望の変化」を求める彼らにどんな変化が見られるか、ということかもしれない。それは例えばこういうことだ。ボードやセイルを変えたことにより、あるいはトレーニングによって、以前よりもダウンウインドの艇速に自信をつけた選手がいるとする。彼(あるいは彼女)は、他の選手よりも下り気味のラインを取り、フルスピードでファーストマークに向かっていく。そしてそのまま───走行ラインをほとんど変えずに、あたかもPWAのトップレーサーのように───ノンブレーキング・ジャイブで際どくマークを攻めにいく。

そういうチャレンジングなレースが展開されやすいのが年初のレースであり『ツカサジャパンカップ』だ。観戦するにあたっては、もちろんシンプルに全体的にプロの速さや凄さを見るのもいいのだが、あなたがウインド好きで、何かを発見してみたいという思いがあるのなら、誰か一人、目当ての選手に焦点を絞って、その走りをじっくり観察してみるのもいいかもしれない。

▶︎そんなわけで、今大会の注目ポイントをいくつか挙げるとするならば ───

メンズクラスの本命は浅野則夫。対抗も穴もない。なにせ浅野はもう27年間も絶対王者として日本のスラローム界を統治し続けている(12月31日の記事参照)のだ。持病の腰痛は癒えてはいない。故に長時間セイリングすることはできない。練習不足も否めない。だが『掛川クラシック』のときもそうだった。同じ状態で圧勝した。今回だって同じだ。彼がレースに出場する限り、彼が負けると予想するに足る理由を、僕はこれっぽっちも思いつかない。

Norio Asano(JPN-25)@ Tsukasa Japan Cup 2018 / ⒸAkihiko Harimoto
Norio Asano(JPN-25)@ Tsukasa Japan Cup 2018 / ⒸAkihiko Harimoto

浅野は去年、PWAワールドツアーにおいて何度もクォーターファイナル(トップ32の戦い)に進出した。今の日本の男子の中で世界基準にあるスラローム・レーサーは浅野だけだ。今大会では、浅野は誰もいない海面の先の「本当の世界」を追走し───鈴木智彦、国枝信哉、生駒大輔、合志明倫、中井忠則、山田昭彦、酒井亨ら───日本のトップレーサーたちは「浅野という世界」を追いかけることになるだろう。そのそれぞれの距離がどれだけ近くなっているのか、あるいは遠くなっているのか、浅野に続く日本のトップは誰なのか? それを想像するのは興味深いことになるはずだ。

一方ウィメンズクラスの本命は・・・わからない。先の『掛川クラシック』では、大西富士子、須長由季、穴山未生、鈴木文子の順だった。だがレースが変われば順位が変わる可能性も高い。この四人の総合力は極めて接近していると思われる。今は四強時代である、と言ってもいいかもしれない。

Yuki Sunaga(JPN-470)@ Fly! ANA Windsurfing World Cup Yokosuka Japan 2018 / ⒸAkihiko Harimoto
Yuki Sunaga(JPN-470)@ Fly! ANA Windsurfing World Cup Yokosuka Japan 2018 / ⒸAkihiko Harimoto

大西と須長は東京五輪を目指し、今もオリンピック・キャンペーンを続けている。二人の強みは精神的にも肉体的にも苛烈な、オリンピック・クラスのレース経験が豊富なことだ。二人ともその経験から湧き出てくる確かな自信を持っている。戦略的、戦術的なレベルも高く、混戦にも強い。大西は今、マイアミで行われているレースに参戦しているのでこの大会には出場しないが、彼女も須長も五輪の正式艇であるRS:X(220ℓ・15.5kg)からスラロームに乗り換えたときには、まるで半分重力から解き放たれたような艇速でレースコースを走ってみせる。

もちろんこの数年日本のスラローム・クィーンの座を競ってきた穴山と鈴木も黙ってはいない。スラロームのスペシャリストとして黙ってはいられないはずだ。二人は(大西も須長もPWAに出場しているが、その二人よりも)PWAワールドツアーでのレース経験が豊富であり、そこで何度もファイナルを走ってきた。同時に何度も何度もファイナル進出を逃したことで、自分に足りないものを思い知らされ、そのギャップを埋める努力を続けてきた。

穴山は去年日本女子スピード記録(79km/h)を樹立し、鈴木はこの冬ニューカレドニアでトレーニングを重ねた。二人とも切実に求めて続けている「艇速」の面では確実に向上している。穴山がジャイブマークをスムーズに回航できれば、鈴木がトップスピードを緩めずにレースコースを走り切れれば、おそらく他の誰にもトップを譲ることはないだろう。

須長、穴山、鈴木。今大会のウィメンズクラスは(たぶん)三つ巴の戦いになる。ミスをしたら負けだ。けれど三人がそれぞれに完璧なレースをしたならば・・・やっぱり誰が勝つかはわからない。そういうレースを(またはどんな予想も見事に裏切るようなレースを)期待したい。(※ 文中敬称略)

▶︎大切なお知らせ ───
この大会の模様は『ジャッカルTV』でライブ配信される予定です。時間のある方は(時間のない方もできるだけ)お見逃しなく。奄美大島倉崎海岸に風が吹き、ヒート開始のホーンが轟けば、一回戦から観るべきものがあるはずですから。

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