PWA WORLD TOUR 2018 / Fuerteventura PWA Grand Slam
EVENT_07 / Freestyle Men #1・Freestyle Women #2・Slalom Men #5
Sotavento, Fuerteventura, Spain_2018.07.26-08.04
彼らの挑戦が日本のフリースタイルを変えている
フリースタイルは日本から一番遠い世界だった。アクションが激しく複雑で、日々マニアックになり「特殊化」の度合いを深めていくその競技(あるいは遊び方)は、ウインドサーフィン愛好者の年齢層が高くなったこの国では「あれは真似のできないもの」と特別視され、ほとんど “無きもの” にされかけていた。
そこに突然変異的に現れたのが小林悠馬だ。2013年、22歳で日本のフリースタイル・キングとなった彼は、以後16年まで日本のプロツアーを四連覇。2014年にはPWAワールドツアーにもデビューを果たし、16年からは同ツアーのフリースタイル大会にフル参戦、今日までに三度一回戦を突破している。
小林は日本で初めて世界基準を満たしたフリースタイラーである。彼が遠征から帰国して日本の海に出ると、そこは特別なフィールドになる。ホームゲレンデである逗子で、大会会場で、スターボードジャパンのスタッフとして訪ねて行く全国の営業先で、彼はできる限りの世界の技を披露する。海面が平らであるにもかかわらず、ウェイブのように空中に飛び出してメイクする3Dトリックは、重力からも水の抵抗からも解放されている。それはウインドサーフィンの自由を押し広げるものとして、見ているものにインパクトを与える。
だがそれでもやはり「(小林)悠馬は特別だから」と言われた。しかしやがて、その動きをただシンプルに「カッコいい」と捉える若手が現れた。逗子や御前崎や浜名湖などに徐々に増え始めていたウインドキッズたちだ。彼らは無条件に小林に憧れ、その動きを模倣した。世界のフリースタイルにも興味を持つようになり、ユーチューブなどで最先端の動きをチェックするようにもなった。そしてメキメキ上達し、今も信じられないほどのスピードで急成長を続けている。
その中の二人、杉匠真16歳と池照貫吾17歳が、小林悠馬先輩とともにフェルテベンチュラのワールドカップに参戦した。プロクラスに出場した小林と杉は、残念ながらそこで勝利を挙げることはできなかったが、U-17クラスにも出場した杉は3位で表彰台に立ち、U-20クラスに出場した池照はPWAデビュー戦で4位という結果を残した。湘南・逗子をホームゲレンデにする三人は「チーム・ジャパン」としてワールドツアーに迎えられ、ライブ中継のMCは何度もヒートを戦う彼らを「ジャパニーズ・ライダー」と紹介した。PWAのフリースタイルに日本から三人もの選手が出場したのは初めてのことだ。MCはそのことに驚いたのかもしれない。彼らに世界と戦う力があることを伝えようとしたのかもしれない。
それは僕にとっても驚きである。小林が初めて日本チャンプになった頃には、こんなときが来るなんて想像することもできなかった。だが5年で変わった。いま日本にはたくさんのウインドキッズ、フリスタキッズがいて、小林に続いた杉や池照も既に子供たちの憧れの対象になっている。かつてこの国で枯れそうになっていたフリースタイルの流れが復活し、それが遠い世界にまで届くようになっている。
去年のインタビューで小林はこう言った。
「僕に憧れてくれる若い子たちが増えるように、頑張ってアピールしていきます。それも僕の役目だと思っているので」
当人はまだ満足していないかもしれないが、その思いは実現したといってもいいだろう。僕は改めて今のその流れの源には、かつて小林が登場する前に日本のフリスタを支えた何人かの選手の偉功があり、そして小林がいることを覚えておきたいと思う。同時にこれからの若者たちには、いまあるその流れの中で自由に飛び跳ねてほしいとも思っている。それが流れを広げ、速めることにつながる。
こう書くと小林が古い選手のように思われるかもしれないが、そうではない。小林は27歳。世界のフリスタ界ではちょうど真ん中くらいの年齢である。脂がのっている。経験を演技に生かすには、最高の時期を迎えているかもしれない。
フリースタイルが日本から一番遠い世界であることは、おそらく今も変わっていない。でも今の日本には小林がいて、彼に続かんとする多くの若者たちがいる。彼らのおかげでこれまで見えにくかったフリスタの世界が日本からも見えるようになってきた。まだまだ朧げではあるけれど、高い雲の上に頂点があることは誰にでも確認できる。彼らはどこまでそこに近づいていけるのか? 自分が(あなたが)フリースタイルをやるかどうかは別にして、彼らの活動を見守り応援することは、もう特別なことではないはずだ。今すぐには大きな奇跡は起こらないかもしれない、でもいつかは・・・。少し大袈裟かもしれないが、僕はサッカーの日本代表がW杯で勝つことを願うように彼ら勝利を願うことができるようになった。彼らの挑戦によってフリースタイルと自分との距離が縮まったと感じている。それは大きな変化であるに違いない。
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