横須賀W杯_Day 6
津久井浜の大祭閉幕
世界は遠い、だが希望はある
5月15日、大会6日目、最終日。フォイルの第3、第4レースが行われ、大会が終わった。
メンズ・スラロームが1、ウィメンズ・スラロームが1、フォイルが4。
今大会では6つのレースが成立したことになる。
今季から正式種目になったフォイルは、レースイベントから風待ちの時間を大幅に減らした。スラロームが走るか走らないかの風でも、フォイルは確実に飛び始め、ギャラリーを楽しませた。去年もエキジビション競技として行われていたのだが、この一年でより低風域から飛ぶようになり、スピード性能も上り角度も確実に向上している。
世界のトップレーサーたちは、僕らが知らない道具を持ち込んでいた。例えばアントワン・アルボーが使用したフォイル専用ボード『RRD / H-FIRE-91』は、全長225cm、最大幅91cm、ボリュームは155ℓで、全体的に見ると巨大な将棋の駒のような形をしていた。彼が使用するフォイル『F4』もフルカーボンからフューサレージ(フロントウイングとリアウイングをつなぐ胴体部分)にアルミを採用したものに変わっていた。
デカスラ(大きなスラロームボード)にフォイルをセットしていた去年までのフォイルは、あくまでスラロームの延長線上にあるものとして認識できたのだが、今はまるで違う道具を使う、別の種目になったという印象だ。
彼らはその道具を用いてライトウインドの中を安定的に飛び続ける。ある場合には、風上側のレイルを海面すれすれまでアンヒールさせて(傾けて)さらにセイルと身体も大きくハイクアウトさせた状態(風上側に傾けた状態)で滑空する。スピードは時速45キロを超え、50キロにも及ばんとする。
そんなフォームで乗れば、フォイルが発する揚力により、風上側に倒れてしまいそうなものだが、誰もそんな転び方はしない。ある選手の言によれば「ボードとセイルと身体を風上側に傾けても、フォイルが水中でベンドして、ウイングが水平に近い状態を保つように改良されているから」というのが、その理由の重要なところであるらしい。
アントワンの『F4』が、フューサレージをアルミにしたのもそのためかもしれない。
スラロームではアントワン・アルボー、マテオ・イアチーノ、ピエール・モーテフォンの別格的強さと、彼らに続くベスト16までの選手が構築している壁が高くて厚くて堅固なこと。さらに17位から32位までの選手も、まさにワールドカッパーと呼ぶに相応しい強大な力をもっていることを、改めて(生で)思い知らされた大会だった。
日本選手の中で彼らが待つクォーターファイナル(ベスト32の戦い)に進出できたのは(第1レースと不成立だった第2レースも含めて)浅野則夫と穴見知典の二人だけだ。だが別の見方をすれば、二人は世界のトップ32に食い込んだことになる。たいしたものだ。実際にレースを見て、心からそう思う。
この大会期間中、僕はPWAスラローム界の「ミスターコンスタント」ロス・ウィリアムに話を聞いたのだが、彼は「この世界で結果を残すには、経験を積み重ねなければならい」と言った。「経験」とは、きっと「這い上がり続けること」だ。新参者は多くの場合、スタートで圧倒され、艇速で引き離され、ジャイブで行く手を塞がれる。精神的にも圧倒されて、攻めの走りができなくなる。しかし、それでも戦い続けるしかない。ただ出場するだけではなく、這い上がり続けていれば、時々ギフトが降ってくることもある。それを集めてレースに有用な引き出しを増やしていくこと。この「世界」で結果を出すには、諦めずにそのプロセスを踏んでいくしかないような気がする。
女子のスラロームでは希望が見えた。強風下で行われた幻の第2レースで大西富士子と須長由季がセミファイナル(ベスト16の戦い)に進んだのだ。女子の中では今回も優勝したデルフィン・カズンのスピードが別格だが、大西と須長はデルフィンに続く第2パックの中でも、トップクラスの艇速があることを証明した。
二人はRS:X(オリンピッククラス)をメインに活動しているので、今年これからのPWAツアーに参戦するのは難しいかもしれないが、出場すれば表彰台も夢ではない。というか、おそらく二人は表彰台圏内の選手として皆に認められている。
ワールドツアーの経験が豊富な穴山未生も鈴木文子も黙ってはいないだろう。女子の中では日本選手同士のトップ争いも熾烈で、それがそのまま世界での戦いにつながっている。たぶん彼女らには「負けられない」という気持ちが強い。それは僕らにとっての「楽しみ」になる。
『ANA ウインドサーフィン ワールドカップ 横須賀大会 2018』は終わった。だが今季のツアーは始まったばかりだ。
PWAアジアラウンドの第二戦、韓国大会はこの週末、5月19日に開幕する。世界のトップライダーたちによるタフなレースで日本選手がどこまで食い込んでいけるか? みなさん、一緒に彼らのツアーをフォローしていきましょうね。そうして流れを掴んでおけば、来年のこの大会をもっとリアルに楽しめますから。それではまた。
────────────── Windsurfing Magazine ────────────── ウインドサーフィン マガジン ──────────────