Aloha Classic 2017
世界でシングル入りした二人の「次の扉」
11月10日、金曜日(大会13日目)。
波はマストハイ、風は弱くカレントが強い。インサイドのホワイトウォーターに捕まると厄介なことになる。
今日は午後二時過ぎから夕方六時頃まで、約四時間をかけてプロ・ウィメンズのセミファイナルとメンズの
クォーターファイナルが行われた。
日本の佐藤モトコは、ヒート終盤までタチアナ・ハワードに次ぐ2位。ファイナルに進出するだろうライディングを見せていたのだが、最後の最後にヴィッキー・アボットに逆転されて敗退した。ヴィッキーはサイズのあるいい波を掴んで、その波をスムーズに丁寧に乗り切った。そして波にサイズがあるときには、それが極めて重要なポイントになることを改めて証明した。
『Aloha Classic 2017』佐藤モトコ=5位タイ。
───大きな試合に勝った選手のなかには、その喜びや自信と同時に負けに対する恐怖心が芽生える───
モトコは2004年、ホキーパで行われた『ハワイプロ』に優勝して、日本で初めてワールドカップを獲得した選手になった。それからもずっと日本のウェイブクイーンであり続けている。彼女が誰かに負けたという話は聞いたことがなかった。その彼女が負けたのは去年のことだ。
2016年、モトコは12年振りにホキーパで行われる大一番『アロハクラシック』に復帰した。そしてファイナルに進出し、4位になった。結果的にはトップ3に負けたことになる。だがそれはおそらくモトコの新たな挑戦の始まりだった。
これは推測だが『アロハ』への「復帰」を決断したときから、モトコの次の(大いなる)挑戦は始まっていた。
1972年生まれの彼女は二児の母であり、若い頃のようにずっと海の上にいることはできない。
しかしかつて世界を獲った日本のウェイブクイーンであることは変わらない。
おそらく彼女の心の中には葛藤があり、負けに対する恐怖も大きかったはずだ。でもそれを振り払った。
そして彼女は世界の舞台『アロハクラシック』に復帰を果たし、去年は4位、今年は5位の結果を残した。
モトコほどウインドサーフィンに深くコミットし続けている女性ウインドサーファーを、僕は他に知らない。
彼女はレディスセイラーにひとつの生き方のモデルを提示し続けてくれている。
もちろん簡単に真似のできるものではない。でもそれは、ひとつの確かな基準になり得るものだ。
モトコの行動の一部を真似してみたり、モトコを通して自分のウインドライフをイメージしたり、モトコから勇気をもらったり、そういうウインドサーファーは決して少なくはないだろう。
そういうことも含めて「今回もお疲れさまでした」と言いたい。来年も「期待してます」と。
モトコの新たな挑戦は(たぶん)始まったばかりなのだ。(文中敬称略)
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プロ・メンズのクォーターファイナル(ベスト16)に進出した板庇雄馬は、ヒート29でカイ・レニーとボジュマ・ギロールに敗れてベスト8入りを逃した。つまり準々決勝で敗れて準決勝に残れなかった。言い方を変えれば、それはいつ以来のことだろう、ウェイブライダーにとっての檜舞台である『アロハクラシック』において、日本の男子選手が「決勝」と名のつくラウンドまで勝ち上がったということだ。
『Aloha Classic 2017』板庇雄馬=9位タイ。
板庇のライディングを見て、一番最初に思い浮かぶのは「パワフル、爆発的、ダイナミック」というような言葉だ。
彼はリップの奥に隠れている最もパワフルなリップの芯にボトムをヒットさせ、ゴイターや360などのトリック系アクションにも頻繁にトライする。その動きはワイルドで、明らかに日本人離れしている。
だがそのスタイルは魅力的である反面リスクも伴う。
日本人離れしている、外人に似ている、よりパワフルな外人のなかに埋もれてしまう、というリスクだ。
英国紳士の集いの中に、日本人がスーツを着て出席したときのような感じに少し似ているかもしれない。
その中で際立つのは並大抵のことではない。
世界基準の選手が集う『アロハクラシック』において、板庇は真っ向勝負でその困難に立ち向かい、見事にシングル入りを果たした。大会MCのカイ・カチャドリアンは何度も「Itabisashi」と叫び、ライブ中継の担当カメラマンは時間を追うごとに彼を撮る機会を増やしていった。板庇は波に乗るたびに「stand out sailor(際立つ乗り手)」の一人として認められるようになったのだ。
板庇は日本選手の前でいつも堅く閉じられている重い扉を押し開こうとしている。そんな気がした。
彼は大会が終わった今もホキーパでトレーニングを続けている。本当の勝負はこれからだ。
きっとそう思っているに違いない。(文中敬称略)
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