THE SEQUENCE_1
PushForward by Philip Köster(G-44)
空中で回転モーメントを逆転させる
まったく誰がこんな動きを思いついたのか。
ジャンプの後の慣性を利用して(後ろ回り系)プッシュ・ループを完成させて、その後慣性がほぼゼロになったところから、フォワードループにつなげてしまうなんて。人間業ではない。体操の内村航平や白井健三だってこんな動きはイメージの範疇にないはずだ。もしかしたらバイクのフリースタイル・モトクロスなんかではできるのかもしれない。彼らはエンジンのパワーを利用して高く飛ぶことができるから。でも後半、慣性がゼロになったところからは惰性で落ちながら何とか前転にもっていくしかないだろう。
なのにウインドサーフィン・システムはエンジンなしでその動きを可能にする。
このシークエンス(連続写真)を見ると、改めてその運動性能の高さに驚かないわけにはいかない。
写真⑦はプッシュ・ループとフォワード・ループの境目だ。セイルはフラットになり、ここでジャンプの慣性はほぼゼロになっている。あとは惰性で落ちるしか無いのか? いや、セイルに風を入れればいい。ここでぱちんとスイッチを入れ替えるように、セイルに風を入れながらベアだ。そうすることにより、フィリップ・コスターというライダーを含むウインドシステムは、ぐりんとダイナミックにフォワード・ループまでメイクしている。前半と後半の真逆の回転モーメントが、⑦での一瞬の静止により一層ダイナミックに見える。
フィリップ・コスターは23歳。若くして既に3度ウェイブ・ワールドチャンプになった天才的ウインドサーファーである。だが常に挑戦的であるがゆえに昨年9月にヒザの十字靭帯断裂という大怪我を負い、それ以降のシーズンを棒に振った。
このシークエンスは、彼の復帰戦となった今シーズンの開幕戦、ポッゾ大会で撮影されたものだ。フィリップは、その大会のファイナルで、このジャンプとさらにダブル・フォワードの両方でパーフェクト10を獲得、去年の王者(つまり現王者)のヴィクター・フェルナンデスを下して優勝した。
まったく凄い人ですね。近く彼のダブル・フォワードのシークセンスも紹介する予定です。お楽しみに。
ウインドサーフィンは、人を超人にするネイチャー・ヴィークルである。
この乗り物には「人が上手く自然と折り合いをつければ、こんなことまでできてしまう」という重要な示唆が含まれているような気がする。少し大袈裟かもしれないけど。
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PushForward by Philip Köster(G-44)
@Pozo, Gran Canaria, July 2017
ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com
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