南仏から日本へ、そしてボネールへ
《Defi-Wind 2017》
『世界最大のウインド祭り in 南フランス』として二月に紹介したデフィ・ウインド(Defi-Wind)がさらに大きくなり、その成長が止まりそうにない勢いです。多くのウインドサーファーがそのイベントのあり方に共感しているということですね。そりやそうだろうという気がします。
デフィ・ウインドではプロもアマも関係なく、ウインドサーフィン好きが集まって、一斉スタートでロングディスタンスを走る。難しいマーキング技術などあまり必要ではなく、マークとマークの間を行ったり来たりするだけのシンプルなレースだから、プレーニングができる人なら誰でもレースに参加できる。そりゃあロングディスタンスで、ウインドマラソン(南仏のレースは40kmのロングで、風さえあればそれを何レースも行う)みたいなものだから、レースを終えればくたくたになる。でもたくさんの仲間たちとウインドサーフィンをして、ひとつでもいい順位をと真剣に走り切ったあとの達成感や筋肉痛は何ものにも代え難く、ウインドサーファーたちを幸福な気持ちにする。
楽しかった。彼らは声には出さずとも、そこに本当の楽しさのひとつを感じ取るのだと思う。
デフィ・ウインドは、すべてのウインドサーファーにそういう「場」を提供しようとしている。
Defi-Wind 2017 Chalets beach, Gruissan, France / 5.25-26
今年もこの日を待ってたぜ───17回目を迎えた南フランス大会の会場(シャーレビーチ)には、なんと1,400名のウインドサーファーが集結した。地中海に面したそのリゾート地には、毎年この時季にはトラモンターナの風(北風)が吹く。だからレースコミッティは「40kmのロングディスタンスを5レースはやる」と豪語していた。
二日で200km? 面白い。やってやろうじゃないか。たぶんそこにいたビヨン・ダンカベック(アントワン・アルボーの前のPWAスラロームキングで「百年王者」の異名をもつ)やカリン・ジャギー(ちょっと前のPWAスラローム・クイーン)やデルフィーネ・カズン(現役バリバリのレディススラローマー。2×ワールドチャンプ)らは気合いが入っていたに違いない。でもトーマス・トラベルサはどうだったか? 2014年のウェイブ・チャンプで、今もスタイリッシュな現役ウェイバーである彼は「そんなにやるの」と苦笑いしたかもしれない。
そういう世界トップレベルの選手たちが1,400名の選手の一人として、普通のウインドサーファーたちと同じレースを走る。普通のウインドサーファーが、たとえ一瞬であれ、ビヨンを追ったり抜かれたりすることができるのだ。あるいはトーマスと顔を合わせて「気楽にやろうぜ」と言葉を交わすこともできるかもしれない。そういう映像が浮かんでくる。いかにも楽しそうだ。
でも今年はトラモンターナが吹かなかった。残念。けれどウインドフォイルやウインドサーフィンのファンレースが行われたり、他の催しもあったりで、選手はその二日間を大いに楽しんだみたいだ。この南仏の大会は、すでにビッグイベントとして定着しているので、まさかのときのサブイベントにも抜かりがない。選手も大会を信頼している。「あそこで吹かないのは珍しい。今年吹かなかったんだから、次は確実に吹くだろう」と今から期待を膨らませている選手もいる。おそらく来年はもっと多くのエントリーを集めることになるだろう。
Defi-Wind Japan Miyako Island, Okinawa, Japan / 6.16-18
この6月には日本の宮古島でもデフィ・ウインドが開催された。この大会には日本語の公式ウェブサイトがあるので、事の詳細についてはそちらをご覧ください、ということになるのだが、結果的にはコンディションが整わず、オフィシャルレースは成立しなかったものの(たぶん)参加者全員が会場となった宮古島の自然とファンレースを満喫したのだろうと思われる。写真や動画を見ると、その空気が感じられるのだ。バチバチしたレースではなく「南の国のリゾートレースを楽しもう」というコンセプトをみんなで共有している雰囲気が。
で、この大会には、去年のPWAスラローム・キングのマテオ・イアチーノが参加した。5月に横須賀のW杯からスペイン・コスタブラバでのW杯へ飛び、そこからすぐに宮古島に戻ってきてくれたのだ。暖かくて海も空も美しい宮古島でまさに世界のトップと走れた選手らは、それだけでも十分に楽しかったことだろう。一生の思い出になっただろうとも思う。ファンレースを心底楽しめる本物のファンレースにしてくれたマテオと大会関係者に乾杯だ。そして来年への足がかりを確かなものにしてくれた参加者にも。だって(GWでもなんでもない)この時季の宮古島に(リザルトを確認してみると)70名以上のウインドサーファーが集まったんだから。こんなことは今までになかったのではないか。来年は仲間が仲間を呼んで100名越えのイベントになる可能性が十分にある。宮古島の海面にカラフルなセイルが散らばれば、トロピカルな気分になることは間違いない。楽しいレースになりそうじゃありませんか。
Defi-Wind Caribbean Bonaire Island, Netherlands, Antilles 6.17-21
宮古島大会とほぼ同時期に、カリブ海の南、オランダ領のボネール島でも、当地における二度目のデフィ・ウインドが開催されていた。会場となったソロボン・ビーチ・リゾート(Sorobon Beach Resort)には、50名ほどのウインドサーファーが集まり、ここでは何と8つのレースが成立した。大会二日目に3レース(風:18-20ノット)、三日目に2レース(風:20-22ノット)、四日目に3レース(風:15-30)。レースディスタンスは約20kmだというから、選手らは三日で160km以上のレースを走り切ったことになる。マラソンなら殺人的レースになるのだろうが、自然の力を利用できるウインドマラソンだとこれができる。みんな乗り倒して、疲れ果てて、泥のように眠って、それでもきっといい夢を見たのだろう。これだけ走れば自分の限界と向き合うことになったかもしれないし、何かの発見もあったかもしれない。少なくともこの経験は、これからのウインドライフにポジティブな作用をもたらすに違いない。
勝ったのは先の横須賀W杯の勝者でもあるジュリエン・クエンテル、2位は地元ボネールのアマド・ヴリスウィック、3位はこの大会を開催するために尽力もした百年王者ビヨン・ダンカベックだった。豪華な面子だ。でも下のリザルト表をよーく見てほしい。地元の英雄で5位のタティ・フランスは、8レース中6レースでトップフィニッシュを果たし、完全にこのレースを支配していたように見える。実際にそうだったみたいだ。公式サイトのレポートにもタティは無敵(unbeatable)だったと書いてある。なのになぜ、残りの2レースが50人中の43位と39位なのか? レポートには“タティはいくつかの重大なミスを犯した”と書いてあるけれど、W杯のトップレーサー(2016年PWAスラロームランキング6位)であるタティが、シンプルなマーク往復レースでどんなミスを犯すというのか? まったく謎だ。タティはとても優しい男だから、世界からやって来たアマチュアも参加するこのレースで、地元のオレが勝つってどうなの? と思ったのかもしれない。十分にあり得る話だ。ぶっちぎりで優勝してもらっても良かったのに。
そんなわけで、今や世界に『デフィ・ウインド』やデフィ・ウインド的なイベントが広がっている。
それはそうだろう。シンプルなルールの中で自分や自分の限界と向き合うことができ、多くの仲間とともに互いをプッシュし合うことができるんだから。このようなレースでは、順位とは関係なく───マラソンに参加したアマチュアランナーがサブ4、サブ5を目指すみたいに───まずは“自分越え”が目標になる。だから出場者全員が真剣になれる。
ホノルル・マラソンみたいなデフィ・ウインドは、今後も成長を続けて世界に広がっていくことだろう。
そしてそれは、ウインドサーフィンをまたひとつ、ごろんと前へ転がす原動力になるだろう。
▼Defi-Wind Caribbean 2017_Day2_Video
▼Dunkerbeck GPS Speed Challenge Bonaire 2017_Video
6.22-25日、デフィ・ウインド・カリビアンのあとに同じ会場で開催された『ダンカベック・スピード・チャレンジ』の模様。相変わらずパワフルなビヨン・Dのサイバーフォームも見られる。こちらもシンプルで楽しそうだ。
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