アントワン・アルボー / F-192
「9 × チャンプから新しい王者へ」
───去年アントワン・アルボーは五連覇を逃した。韓国、スペイン、デンマーク、シルトでのレースがすべてライトウ
インドで行われ、大男揃いのPWAの中でもヘビーなアントワンは、ほとんどのレースで満足のいく結果を残せなかった。
だが唯一強風が吹き荒れたフェルテヴェンチュラでは、9レースで4回トップを獲って圧勝している。
吹けば負けない。しかしライトウインドになると勝てない。
アントワンの前のスラローム・キングであったビヨン・ダンカベックを思い出す。
彼もそうだった。レースのミニマム風速が引き下げられるとともに神通力を失っていき、やがて一線から退くことになった。アントワンも同じ道を辿るのか。今年が勝負だ。
※ここにあるのはこの五月、日本でW杯が開かれる前に書いた文章であり、その時点で行ったインタビューである。
このあとアントワンは日本のライトウインドレースで3位になり、次のコスタブラバでの強風レースに優勝した。
アントワンはどのような気持ちで今季に臨んだのか。いかにして過去を現在につなげようとしていたのか。
───あなたのスラローマーとしてのストロングポイントはどこにあると思いますか。
それとは逆に自分で認識している弱点はありますか。
アントワン・アルボー(以下:AA) 僕はすべてのコンディションで戦える。もちろんワールドチャンピオンになるに相
応しいレベルでだ。そのために毎日トレーニングを重ね、体調を管理している。
ウィークポイントについては話したくない。わざわざ他の選手にそれを知らせる必要はないからね。
───PWAスラロームの 9 × チャンプであるあなたにとって、一番のライバルになりそうななのは誰ですか。
AA そう、僕は 9 × ワールド・スラローム・チャンプであり、すべての種目を含めれば、23のワールドタイトルを獲
得している。僕から見れば、今スラロームで一番のレーサーはマテオ・イアチーノだ。彼はまだ若く(27歳)去年チャ
ンピオンになった勢いもある。今季はさらに自信を深めて、もう一皮剥けた怖い存在になるだろう。僕はそんな彼を破る
ためにトレーニングを続けている。けっこうハードに。
───あなたは去年ランキング5位でした。でも、もし私があなたなら、こう思うかもしれません。
去年の結果はライトウインドツアーの結果だと。あなたはこの件に関してどうお考えですか。
AA いや、それは問題ではない。2014年のPWAツアーは、昨季(2016年)よりも弱い風の中でレースが行われるこ
とが多かった。それでも僕は優勝している。
2017年、僕はもっとトレーニングを重ねて、より戦闘力が高まるように道具をチューンしなければならない。
今のところ、それはうまくいっている。でもまあ去年のフェルテヴェンチュラの強風レースで勝ったときは気持ちよかったな。世界にここではオレがボスだとアピールできたからね。
───今季王者として復活するために何が必要だと思いますか。
ライトウインド対策はしてますか。あなたの今季のレースプランを聞かせてください。
AA すべての大会がいい風に恵まれ、より多くの日に、より多くのフェアなレースができればいいね。
僕の希望はそれだけ。日本の大会には期待しているよ。僕は2015年に今度の会場になる海(横須賀・津久井浜)で、
いいレースをした覚えがある(強風だった)。楽しかった。今年もそうなることを祈っている(そうはならなかったけれど、アントワンは唯一ライトウインドで行われたレースで3位になった)。
───日本の読者(スラローマー)に具体的なアドバイスをお願いします。
速く走れるようになるには何をすればいいですか。
AA できる限り海に出て、トレーニングを重ねること。そしてセイル、フットストラップ、ジョイント・ポジションな
どのチューニングを煮詰めること。これらが両立すれば、トレーニングの効率が高まる。さらに何人かでマークを使った
練習(模擬レース)ができれば、今より確実に速くなれる。やることはシンプルだけど、煮詰めていくべきことはたくさんある。それがスラロームだ。
───かつてあるトップレーサーは言った。「ワールドカップのレースは、強風時にやるものだ」と。
だが今は違う。ライトウインドで走る道具が開発され、ヘビーなレーサーでもそれを走らせることが可能になった。
本当か? アントワンの体重は公称100kgで、実際にはたぶんそれ以上に重い。だが彼はライトウインドでも完全に
ボードをリフトさせ続けることができる。彼は今、世界一の速さでそれを持続させることができるレーサーの一人であり、その限界を引き上げようとしている。
アントワンがライトウインドのレースでも勝ち、王座を奪還すれば、ウインドの進化が明らかになる。
彼はそれを実現することで、これまでの王者とは違う王者であることを証明しようとしているのかもしれない。
────────────── Windsurfing Magazine ────────────── ウインドサーフィン マガジン ──────────────