PWA WORLD TOUR 2017
EVENT_03 / Slalom Men #3
SPAIN_Costa Brava_2017.05.23-05.28
V10へ、落ちない巨人
初戦の韓国はノーレース、次の日本でも1レースが成立しただけ。
2017年のワールドツアーは、風に恵まれぬまま、ヨーロッパラウンドに突入した。
しかしそんな中でも、日本大会では昨季ランキング4位のジュリエン・クエステルがツアー初優勝を遂げ、
今回のスペイン・コスタブラバでの第1レース(風速8-15ノットのライトウインド)でも
アーノン・ダガン(昨季15位)がトップフィニッシュを飾った。
「世界では何が起こるかわからない」──そういう世界が展開されていた。
だがコスタブラバにそれまでとは違う風が吹いた。
大会5日目には第2~第5レースが、そして最終日には第6~第8レースが成立した。
最後のレースはセミファイナルまでに終わったが、それでもレースは
「久しぶりにワールドカップのそれだった」
第2レース以降の風速は、10-20ノット。
昨季ランキング5位で今季王座奪還を狙う9×ワールドチャンプの
アントワン・アルボーは、次のようにコメントしている。
「僕らがミディアムボードを使うくらいの風が吹いて、8レースもできた。久しぶりだ。
速い選手ばかりのこの世界で(今季)最高のスタートが切れたことを嬉しく思う」
風が吹けば「世界はやっぱりこうなる」のだ。リザルト表を見るとそう思えてくる。
優勝したアントワンは8レースすべてでファイナル進出(!)を果たし、トップ3回、
2位が2回と「最高の結果をマネージメント」してみせた。
以下───
2位ピエール・モーテフォン(昨季2位)
3位マテオ・イアチーノ(昨季1位)
4位パスカル・トセッリ(昨季11位)
5位ロス・ウィリアムス(昨季3位)
ベスト5のうちの4人は、昨季のトップ5レーサーである。
(※ちなみに横須賀大会で優勝したジュリエンは20位、2位のジョーディは21位に沈んでいる)
今季ここまでのレースの傾向をまとめるとこうなるだろう。
ライトウインドでの単発レースならば何かが起こる可能性は高い。
だが風が吹き、誰もが十分にプレーニングできる風域でレースが重ねられていくほどに、
トップの順位に変動は起こりにくくなる。大会はいつの間にか「彼ら」の色に染まっていく。
ゲーム終盤にオセロの盤面が一気に白く(あるいは黒く)変わっていくみたいに。
そしてツアーリーダーとなったアントワンは、44歳にしてまだ速くなっているように見える。
日本大会で実際に見た彼の身体は引き締まっており、特に腰から下のシルエットが以前よりスリムに見えた。
そして日本でもコスタブラバでも、これまで唯一の弱点とされていたライトウインドのレースで
見事にファイナル進出を果たしている。
「今のアントワンに死角はない」とPWAのリポートもそう言っている。
それに今季はミニマムぎりぎりの風域でのレースも少なくなるはずだ。
なぜならその風域でなら、ウインドファオイルで観客を楽しませることができるから。
とにかくリザルト表の総合ポイントが示すように、アントワンはこの大会に圧勝した。
王座奪還と共にV10を目指すキングは、ポイント的にも精神的にも早くもツアーを支配してしまった。
次のレースは7月下旬、強風地帯として知られるスペイン・カナリア諸島のフェルテベンチュラで開催される。
そこはアントワンにとって、何度も優勝を重ねている験のいい場所でもある。
どう考えても流れはアントワンにあるとしか思えない。
それでも「世界では何が起こるかわからない」?
───その常套句をそこで証明する選手の出現を期待したい気持ちもあるのだが・・・。