《編集余話 03 =『写真が語るブランド哲学』より》
ここに添えたのはニールプライドが送ってくれた写真だが、スペースの都合で本誌には掲載していない。被写体はアルノー・ド・ロズネイ(Arnaud De Rosnay)。フランスの───男爵でカメラマン、シャンパン販売会社の経営者でもあった───ウインド冒険家である。彼は1979~’84年にかけて、ウインドによる4つの単独海峡横断に成功している。
▶︎ベーリング海峡(米ソ間)
▶︎ジブラルタル海峡(スペイン・モロッコ間)
▶︎フロリダ海峡(米・キューバ間)
▶︎宗谷海峡(日ソ間)
そして1984年11月24日。「この横断が最後だ」と中国福建省から台湾海峡横断に出発、その後消息を絶ってしまった。当時の記録では遺体もボードも発見されていないという。
ロズネイは、意図的に政治的に対立する二国間に横たわる海峡を選んで横断した。セイルには必ず横断する二国の国旗をプリントした。彼の冒険は、その質とスケールにより、全世界に報道された。
東京オリンピック問題の騒がしさが、僕に彼を思い出させた。宗谷海峡横断時の手記でロズネイは言っている。
「近年スポーツは、特にオリンピックは政治的な力を誇示する場となっているように思える。だが本来スポーツやある種の勇気ある行動は、政治的に対立する国同士の橋渡し的役割を演じ得るものだと思う」
彼はウインドでその哲学を表現した。今のオリンピックに彼の思いは生きているか。直接的なつながりはないかもしれないけれど、彼の思いを大きく広げて解釈できる器量があれば、いろんな問題を解決するヒントが見えてくるような気がする。
オリンピックとは何か? 2020年。多くのアスリートが東京の(あるいは江の島の)空を見上げて大きく清々しく深呼吸ができるような、そんなオリンピックになるといいですね。