アイルトン・セナ──1988、1990、1991年と、F1世界選手権で三度ワールドチャンピオンになった音速の貴公子。だが速かったのはセナではない。当時世界一速かったのは「マクラーレン・ホンダのセナ」である。
10月29日、PWA_ラトーシュ大会が終わった。結局風に恵まれず、ウェイブもスラロームもキャンセルとなってしまった。そしてその結果、マテオ・イアチーノのスラローム年間優勝が確定した。今期五連覇を狙っていたアントワン・アルボーは5位。去年2位だったピエール・モーテフォンは今期も2位。

去年の最終戦で自滅、3位に沈んだマテオが、2016年のPWAスラロームチャンプとなったのである。なぜマテオが勝てたのか? 実際に見てきたわけではないので、わかったようなことは言えない。でも誰にでもわかることがひとつある。マテオは今期、去年のトップ3の中ではただ一人、チームを移籍し、エキップメントを一新した。リスクを覚悟の上で、自分を含むレーシング・システムの再構築を図り、トータルスピードの向上を目指した。それが当たったのだ。
マテオは今期成立した5つのレースのうち、軽風下で行われた3つのレース(韓国、デンマーク、シルト)を制し、去年最後まで僅差でトップ争いをしていたピエールに99ポイントの差をつけた。2位に甘んじたピエールは、ラトーシュでレースがしたかったに違いない。なぜなら、ラトーシュでピエールが1位、マテオが5位以下なら、ピエールがチャンピオンになれたからだ。
またアントワンは、もっと強風レースがあれば、と思ったことだろう。彼は今期唯一の強風レース、フェルテベンチュラ大会で圧勝している。「吹けば負けない」という自負がある。
だが、シーズンは終わった。
マテオ・イアチーノ───2016年PWAスラローム・ワールドチャンプ。夢を叶えた26歳のイタリア人が、才能溢れるレーサーであることは間違いない。だがやはりこう言っておくべきだろう。今期世界一速かったのは「スターボード・ポイント7のマテオ」であると。
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