JWA JAPAN TOUR 2017-2018_FREESTYLE #3 / WAVE #1
Cold Breeze Pro Ama Tournament 2017
2017.12.16-12.17_Long-Beach, Omaezaki, Shizuoka
吉田洋海(29歳)vs 杉匠真(15歳)「歴史を紡ぐファイナル」
All Photo & Movie by JWA_Tetsuya Satomura
今期JWAフリースタイルツアー第三戦。2013年から日本のフリースタイルキングとして王座を独占している小林悠馬は、この試合を欠場した。この9月、シフティの練習中にスネを骨折した王様は、大会本部のパイプの椅子に座っていた。
そうなれば「優勝候補は前日本チャンプの吉田洋海。対抗は去年最年少でプロになり、今期のツアー第ニ戦、本栖湖大会で王者小林に次ぐ2位の成績を残した杉匠真ということになるだろう」
12月16日、快晴・強風・波のない御前崎ロングビーチ。下馬評は現実になった。
吉田にとってはやりにくい試合だったろうと思う。吉田は29歳で杉は15歳だ。若い杉には失うものなど何もない。前チャンプの首をとって、初優勝へと突進することに集中できる。一方吉田は勝っても当たり前と思われるかもしれない。負ければ世代交代だの何だのと言われ、この試合を杉の引き立て役として終えることになるかもしれない。
割に合わない試合だ。そう思ったとしても無理はない。だが、吉田は全力でファイトした。彼はそのモチベーションをどこにつなぎとめ、どのように集中させたのか?
「普段であれば(小林)悠馬に挑む覚悟でいけるんですけど、今回は悠馬の代わりに優勝する責務を感じて試合に臨みました。フリースタイルは若手とベテランとが切磋琢磨して、ベテランが叩いたぶんだけ若手が伸びていくものなんで。簡単にトップ譲るのはよくない、だから何とか匠真を押しのけたいと思ってました」
今大会、吉田と杉は三度対戦した。シングルイリミネーション(最初のトーナメント)のセミファイナルでは吉田が勝ち、ダブルイリミネーション(敗者復活戦)のファイナルでは杉が勝った。
そして一勝一敗で迎えたグランドファイナル。そのとき勢いは杉にあった。
「彼(杉)の持ち技が難易度の高い技ばかりなので、僕もそれに合わせたレベルの技で対抗しようと思ってはいたんです。でもこの日は頼りの『シャカ』の調子がよくなくて、それを決められるかどうかというプレッシャーが自分の中で邪魔になった。だから最後(グランドファイナル)は難易度を少し下げて、技の完成度と手数で圧倒しようと思いました。
匠真はまずインサイドで『シャカ』ができるし、アウトサイドで『バーナー』ができるんです。それらはE難度の技で決まれば高得点を得られるわけですが、この日は風が強くて匠真は3.7㎡(のセイル)を使っていた。(そこにチャンスがあった)実は彼はまだ、強風がそれほど得意ではないんです。それにインサイドはガスティで沖はパワフルブローという、風の強弱の激しい海面でもあった。その海で “攻めきれるかどうか?” 匠真もプレッシャーや不安を抱えているはずだと思ったんです」
吉田はヒートスタートを告げるホーンとともに海に出た。そしていち早くボードをプレーニングさせて、杉の目の前で『スイッチ・スタンス・スポック』をメイクした。
「それはC難度の技で、得点は低いんですけど、でもまずは技をメイクしてプレスをかけて、匠真に高難度トリックを決めなければならないという心的プレッシャーをかけたかった。彼の中に『シャカ』や『バーナー』をメイクしなければ勝てない、という強迫観念を植え付けたかった」
その戦略が当たった。杉は強弱の激しいブローに勢いを奪われ、本来の力を発揮できないままにヒートを終えた。
吉田はゲームプラン通りにヒートを進め、それぞれの技の完成度と安定感をアピールした。
「それにしても匠真はすごい」と吉田は言った。
「僕は10歳のときにウインドサーフィンを始めて、初めてプレーニングができたのが今の匠真と同じ、15歳のときです。
比べ物になりません。成長のスピードも段違いです。匠真は一つひとつの技をものにしていくテンポが異常に早い。それに見た目はまだ子供だけれど、身体はがっしりしていて、すでに力強いウインドができている。つまり子供の柔らかさと大人の強さをもっている。だから大人は、彼のなかに付け入る隙を見つけにくい」
吉田は高校生のころにフリースタイルに目覚め、卒業と同時に御前崎に移住、2007年、19歳で日本チャンピオンになった。そして翌年、さらに2011~12年にも同じくフリースタイルの王座を獲得し、日本のフリースタイラーとしてPWAワールドカップにも参戦した。かつての吉田は、今の杉のような存在として見られていた。
「でもだからといって、僕から匠真に特別アドバイスすることはないんです。時代が違いますから。それに匠真は自分なりに目標を見据えて動いている。彼は彼の世代の中では既に世界のトップにいます。特にウェイブではそのことを証明する結果も残している(※12月22日の記事参照)。それがどういうことかわかりますか? 今の世界のウェイブ模様を見てみると、そこで勝つには高いレベルのフリースタイル・スキルが必要であることがわかります。匠真もそのことを理解していて、フリースタイルの腕を磨きながら、同時にレイルワークの質を高めるなど、ウェイブライダーとしての底力を蓄えようとしている。今は二つの種目はつながっていて、それを高いレベルでリンクさせるほど強くなれる、というか、それができないと世界で勝てる可能性が低くなるという時代です。そのことに匠真くらいの年齢で気づいていて、匠真ほどのレベルで必要なスキルを手に入れる努力を積み上げている人間は、世界を見渡したってそう多くはないはずです」
「匠真は今の彼のやり方を続けていけばいい。そうしていればフリースタイルでは小林悠馬を、ウェイブでは板庇雄馬を倒して日本のWチャンピオンになれるんじゃないかと思います。まずはそこをクリアして、その後はPWAでも両種目制覇を狙ってほしい。フリースタイルが特化して、複雑化してハイテク化してからは、そういう選手は世界にもいませんからね。まあとんでもないことですけど、実際匠真はそれを目標にしていると思います。世界一オールラウンドなアクション・ライダーになることを」
吉田があと15年遅く生まれていれば、今の杉のような存在になっていたかもしれない。
いや、違う。人は紡がれてきた歴史の上にしか立つことはできない。
この10年、吉田が日本のフリースタイルを支えてきたからこそ、今の杉がいるのだろう。
『コールドブリーズ御前崎 2017 / フリースタイル』
優勝=吉田洋海。おめでとう。(文中敬称略)
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