フィン&フォイル PWA ミックススラローム緒戦

2021 Tiberias Israel PWA World Cup
PWA EVENT_04 / Slalom Men & Women, Foil Women
June 21-June 25 / Lake Galilee, Tiberias, Israel
Photo by John Carter_pwaworldtour.com
ニコラス・ゴヤード、フォイルでパーフェクトウィン!

Nicolas Goyard(F-465)Solitary Solo Trip / ⒸJohn Carter_pwaworldcup.com
Nicolas Goyard(F-465)Solitary Solo Trip / ⒸJohn Carter_pwaworldcup.com

(6月21日~25日、イスラエル北部ティべリア・ガラリア湖)

約1年半ぶりに開催されたPWAワールドツアー『イスラエル大会』が終わった。今季から新たに採用されたニューフォーマット、フィン&フォイルのミックススラロームの緒戦ともなった今大会を制したのは、2019年のフォイル世界チャンピオン、ニコラス・ゴヤードだった。

ニコラスは初日の第1レースから四日目の第5レースまでを五連勝。その後の2レースの結果を待たずにパーフェクト・スコア(0.7 × 5=3.5ポイント / ルール上残り2レースのポイントは削除される)で優勝した。25ノットのブローが吹きつける中でのフィン勢との争いでも、風速6-20ノットという超不安定な風の中での全員フォイル対決でも、最大風速30ノットのフィン対フォイルの一騎打ちでも、別格のスピードと強さでトップフィニッシュを繰り返した。

文字通りの圧勝である。ニコラスはバブル方式的に自らを隔離し、孤高のステージで一人レースを進めているように見えた。「風速が20ノットに近づけば、少なくともストレートレグではフィンのスピードが勝るだろう」というような事前の予想をことごとく覆し、フォイルの限界がすでに既成概念を超越していることを証明した。まるで大会前から描かれていた「フィン対フォイル」の戦いの構図に、どんとフォイル優勢のスタンプを押すように。

Fin vs Foil, Matteo Iachino(ITA-140)& Nicolas Goyard(F-465)/ ⒸJohn Carter_pwaworldcup.com
Fin vs Foil, Matteo Iachino(ITA-140)& Nicolas Goyard(F-465)/ ⒸJohn Carter_pwaworldcup.com

|| 勢力拮抗の風域は意外なほどに高かった

だがそれでもニコラスのバブルをフィンで破る術がなかったわけではない。第4レースでマテオ・イアキーノがそれを証明しようと勝負にでた。風は25ノット(12.5m/s)オーバー。フィンを選択したマテオは、とんでもないトップスピードでファーストマークを獲った。2位のマテウス・アイザックも3位のバジル・ジャキンもフィンであり、フォイルのニコラスはその時点では4位にいた。第2マーク、ニコラスが3位に上がり、第3マークでニコラスがマテオのあとにつく。そして第4マークへのストレートレグでニコラスがマテオをパスしてトップに立ち、ジャイブでマテオを置き去りにする。勝負あり。

マテオのチャレンジは失敗に終わった。原因はおそらく第4マーク付近から以降のエリアの風が弱まっていたことだ。フルパワーで走ってきたマテオのボードは、そこでパワー不足に陥り失速した。一方過剰になりがちなフォイルのパワーを制御しながら飛び続けていたニコラスは、そこでひと目盛りかふた目盛りぶんパワーを強にトリムしてスピードを保ち続けた。ニコラスはトップスピードでは負けたものの、アベレージスピードで上回り、フォイルのコンディションに対する適応レンジの広さと、乗り手のスキル次第でなんとかできる部分の幅の広さを証明した。(未確認情報だが、このレースのマテオのセイルサイズは7.8㎡、ニコラスのそれは6.0㎡! だったようである)

今大会における「フィン対フォイル」の戦いの潮目はこのレースにあったと思う。25ノット前後の風が安定していれば、おそらくマテオはこの勝負に勝つことができただろう。もしかしたらもっと風が弱くても、その風が安定してさえいればフィンはフォイルに勝てるかもしれない。そう思わせるレースでもあった。

「風が安定していれば」・・・とは、どういうことか? レースコース全面に風速も風向も安定した風が吹いており、さらに各マーク付近にジャイブでフィンスラロームの失速を最小限に抑えることのできる十分な風があれば、ということだ。ライトウインドではそういうコンディションは期待しにくい。中風域なら五分五分、強風ならその可能性は高くなる。それはつまりライトウインドならフォイル有利、風が強くなるほどフィン有利ということで、これまでの論と同じだが、大事なことは、ライトウインドから中・強風域まで「風が安定していなければ」フォイルが有利ということが、今大会で明らかになったことだ。

いや、そう断言するにはデータが少ない。まだミックススラロームの緒戦が終わっただけなのだ。だが多くの選手にとって今大会におけるニコラスの速さ・強さは想像以上であったはずだ。つまり他の選手はニコラスほどにはフォイルの可能性に気づいていなかった。だからニコラスほどにはフォイルと向き合ってこなかった。風が安定していなくても、もう少しフィンで何とかできると思っていた。それが今回の結果に反映されているのではないか、という気がする。

いまPWAツアーにおけるフィンとフォイルのパワーゲージの針は明らかにフォイルの側に振れている。ニコラスが駆るフォイルこそがその針であり、今後多くのレーサーがそのレベルを目指してフォイルのスキルを高めてくるはずだ。これから戦いが激化していくことは間違いない。個人的には力感溢れるフィンスラロームのリベンジにも期待している。次のレースを楽しみに待ちたい。

Full Power Slalom & Controlled Foil / ⒸJohn Carter_pwaworldcup.com
Full Power Slalom & Controlled Foil / ⒸJohn Carter_pwaworldcup.com

Slalom Men_Result
E_Result

French Monopolize The podium, Pierre Motefon(F-14)Nicolas Goyard(F-465)William Huppert(FRA-330)/ ⒸJohn Carter_pwaworldcup.com
French Monopolize The podium, Pierre Motefon(F-14)Nicolas Goyard(F-465)William Huppert(FRA-330)/
ⒸJohn Carter_pwaworldcup.com

PWAスラローム/新フォーマットについて・・・これまでのスラロームは「スラローム63」と呼ばれ、事前に登録した6枚のセイルと3本のフィンボードにより競われてきたのだが、これが今季からメンズクラスに限り「スラローム741」とも呼ぶべきフォーマットに変わった ▶︎『7』=10㎡以下の7枚のセイル(フィンでもフォイルでも使用可)▶︎『4』=(3× 最大幅85cm以下のスラロームボード/フィンでもフォイルでも使用可)+(1× 最大幅91cm以下のフォイルスラロームボード/フォイルのみで使用可)▶︎『1』=フォイル1コンポーネント(1マスト/3フロントウイング/2リアウイング/2フューサレージ)。参考までに今大会で優勝したニコラスと2位のピエール・モーテフォンが事前登録したギアは以下の通り(PWA『Registered Equipment』シートより)。

ニコラス・ゴヤード ▶︎7セイル(PHANTOM_IRIS)=RS 6.0_6.6_7.4 / RF 6.0_7.0_8.0_9.0 ▶︎4ボード=(SLALOM 95_115_Unregistered)+(PHANTOM _IRIS R91)▶︎1フォイル(PHANTOM_IRIS R)=(マスト100/フロントウイング 730_550_430/リアウイング 200_200/フューサレージ 100_110)

ピエール・モーテフォン ▶︎7セイル(DUOTONE_WARP)=6.2_7.0_7.7_8.4 / FOIL 6.4_7.8_8.8 ▶︎4ボード=FANATIC_FALCON 97_115_140)+(FANATIC_FALCON FOIL 91)▶︎1フォイル(LOKE FOIL_RACE)=(マスト95/フロントウイング 760_620_480/リアウイング 250+1/フューサレージ 100_110)

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