杉匠真、石井孝良、爆風ポッゾで世界に挑む

PWA WORLD TOUR 2018 / Gran Canaria Wind & Waves Festival
EVENT_06 / Wave Men #1・Wave Women #2
Spain, Gran Canaria, Pozo Izquierdo_2018.07.15-07.21

Takuma Sugi(J-7)| Takara Ishii(J-20)
Takuma Sugi(J-7)| Takara Ishii(J-20)

風は35~45ノット(17.5~22.5m/s)波も優に頭を越えてロゴハイサイズに達している。
7月15日、大会初日。ポッゾらしいハードなコンディション下、二人の少年の戦いが始まる。
ヒート時間は14分。2ウェイブ & 2ジャンプ ピックアップの総合点で勝負が決まる。相手は世界のトッププロだ。

15歳の杉匠真と17歳の石井孝良は、定員48名のプロクラスに出場する。世界最高峰の舞台であるPWAワールドツアーにおいて、それも世界屈指の強風ポイントであり、マウイと並ぶウェイブパフォーマンスのメッカといわれるポッゾでの大会において、そのメンバーの一人に選ばれるのは簡単なことではない。しかし彼らは───下のプロフィールに記したような───これまでの実績を認められてそこにいる。

実績・・・15歳と17歳の日本の少年二人が、すでにそこまでの実績を残していることに驚きをおぼえる。大人になってからウインドを始めて、そこから実績を積み重ね、やっと大きな舞台に立てるようになったときには既にベテランの域に達している。それがこれまでの日本選手のパターンだったからだ。二人はそこから遠く外れて、世界基準のプロセスを踏んでいる。ウインドの、ウェイブのエリートコースのど真ん中で奮闘している。

PWA WORLD TOUR 2018 / Gran Canaria Wind & Waves Festival 33th, Takara Ishii(J-20 / RRD)/ ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com
PWA WORLD TOUR 2018 / Gran Canaria Wind & Waves Festival
33th, Takara Ishii(J-20 / RRD)/ ⒸJohn Carter_pwaworldtour.com

一回戦。ほとんどの選手は一番小さいセイルを選んだ。サイズは3.0か3.4㎡くらいだ。
石井は2.7㎡。それでも「ジャストオーバー」だったらしい。相手は地元出身のジョゼップ・ポンズ(E-203 / 34歳)。
以下ヒート後の石井のブログより:(ジャンプでは)高めのバックループ、T-プッシュループをメイク。波乗りはあまり攻めきれなかったけど無難に二本揃えることができました。でも相手選手の方が難易度の高い技を持ってきて、約3.5ポイント差で負けてしまいました。やはりダブルフォード、波乗りの3Dムーブが必要でした! ただジャッチ(ペーパー)を見て、技の完成度、位置(の重要性)など(ポイントの)付け方がよく分かったので次の試合につなげられそうです。

7月15日(大会初日)メンズ・ウェイブ / シングル・エリミネーション(勝ち抜き戦)
▼一回戦 / 石井孝良(J-20)対 ジョゼップ・ポンズ(E-203)結果
石井 (ジャンプ / 4.50+5.00=09.50)+(ウェイブ / 3.38+2.00=5.38)=合計 14.88
ポンズ(ジャンプ / 7.12+4.75=11.87)+(ウェイブ / 3.12+3.38=6.50)=合計 18.37

同じく一回戦。杉の相手はジュレス・デネル(FRA-41 / 28才)。去年のランキング17位の強敵だった。

7月15日(大会初日)メンズ・ウェイブ / シングル・エリミネーション(勝ち抜き戦)
▼一回戦 / 杉匠真(J-7)対 ジュレス・デネル(FRA-41)結果
杉  (ジャンプ / 3.88+5.28=9.16)+(ウェイブ / 1.00+2.12=3.12)=合計 12.28
デネル(ジャンプ / 5.62+3.75=9.37)+(ウェイブ / 5.00+3.75=8.75)=合計 18.12

以下ヒート後の杉のブログより:波乗りが上手くいかず苦戦しました。けどジャンプはバックループ、プッシュループを決めることができ、相手選手との差も小さくてよかったです。今回の反省点を生かして次につなげていきたいです。

さらに翌々日、二人は敗者復活戦に出場した。

7月17日(大会三日目)メンズ・ウェイブ / ダブル・エリミネーション(敗者復活戦)
▼一回戦 / 石井孝良(J-20)対 トーマス・トラベルサ(F-3)結果
石井   (ジャンプ / 1.00+5.18=6.18)+(ウェイブ / 2.25+2.62=4.87)=合計 11.05
トラベルサ(ジャンプ / 4.62+5.05=9.67)+(ウェイブ / 5.25+4.62=9.87)=合計 19.54
▼一回戦 / 杉匠真(J-7)対 アントワン・アルバート(NC-21)結果
杉    (ジャンプ / 4.75+4.43=9.18)+(ウェイブ / 4.25+6.88=11.13)=合計 20.31
アルバート(ジャンプ / 4.95+4.62=9.57)+(ウェイブ / 5.50+4.38=09.88)=合計 19.45
▼二回戦 / 杉匠真(J-7)対 ジュリアン・サーモン(G-901)結果
杉    (ジャンプ / 3.50+4.12=7.62)+(ウェイブ / 2.78+3.62=6.40)=合計 14.02
サーモン (ジャンプ / 4.75+4.38=9.13)+(ウェイブ / 4.88+3.88=8.76)=合計 17.89

PWA WORLD TOUR 2018 / Gran Canaria Wind & Waves Festival 25th, Takuma Sugi(J-7 / GA Sails, Tabou Boards)/ ⒸJose Piña
PWA WORLD TOUR 2018 / Gran Canaria Wind & Waves Festival
25th, Takuma Sugi(J-7 / GA Sails, Tabou Boards)/ ⒸJose Piña

杉は敗者復活戦の一回戦で、PWAプロクラス初勝利(!)をものにした。相手はニューカレドニアのアントワン・アルバート(NC-21)。去年のPWAフリースタイルランキング7位の選手だ。ジャンプではワンハンドバックループとプッシュループをメイクして、ウェイブでは6.88の高得点もマークした。二回戦では19歳のジュリアン・サーモン(G-901)に屈したが、それでも彼はプロクラスでも十分に戦える力があることを証明した。最終順位は25位タイ。

一方石井は一回戦で「調子が悪くほぼ何もできずに負け」たが(最終順位は33位タイ)貴重な14分を戦うことができた。相手が世界のトップ中のトップ、2014年PWAウェイブチャンプのトーマス・トラベルサだったのだ。ウェイブの本場で、本気の本物と戦える機会など、いくら望んでもそうそうもてるものではない。それは高校球児がメジャーリーグの公式戦で、投手大谷翔平(あるいはバーランダーとか)と対戦するようなものかもしれない。おそらく高校球児は何もできない。でも能力が高くセンスのある選手が実際にバッターボックスに立って対戦すれば、普通ではない何かを感じ取ることはできる。

二人は敗者復活戦の一回戦で世界チャンプと相対するような世界にいる。まったくとんでもない世界だが、若い頃にそういう環境に身を置くことができていればと、羨ましく思える世界でもある。そこで得られるものは、きっと想像できないくらいに大きなものだ。例えばそれは、今の彼らの中ではとんでもなく普通ではないことが、徐々に普通に近づいていくということかもしれない。そうなる可能性は大いにある。嘘みたいな話だ。日本からそういう選手が出てくるなんて、少し前までは思ってもみなかった。でも実際に二人は「そこ」にいて、おそらく世界のトップ選手が発するオーラや圧のようなものをダイレクトに感じている。それをなんとか跳ね返そうと、何らかの試みを始めているかもしれない。いやまったくすごい話だ。二人の明るい未来に乾杯したい。でも今はまだその気持ちを抑えておく。

プロクラスの戦いを終えたあと、二人はユースクラスに出場した。結果は石井=U-20クラス5位。杉=U-17クラス3位。
もちろん二人とも優勝を目指していたのだが、二人とも同年代の選手に負けてしまった。悔しかったことだろう。もしかしたら少し世界が離れてしまったと感じたかもしれない。でも違う。時代は変わる。世界には今の世界があり、次の世界がある。二つの世界はやがて混じり合い、攪拌されて、そして新しい世界が生まれる。いま二人が属している次の世界での熾烈な戦いは、おそらくそのまま新しい世界での戦いにつながっていくものだ。

大事なことはその戦いの中で生き残ること。世界に挑み続け、今の秩序を破壊して、PWAに新しい世界を築いてゆくだろうメンバーの重要な一人であり続けることだ。二人にならできる。今大会の結果をみてそう思った。今の二人にとっては勝ちも負けも、同じように大切なものだ。それらは強く成長していくために欠かせない栄養分として、若い彼らの中にぐんぐん効率的に取り込まれていく。そして「次につながる」活力になる。

二人は何も失っていない。ただ可能性の広がりを感じている(のだろうと思う)。オレにはできる。オレにならできる。そう思っているに違いない。やがて顕になる新しい世界は、僕らの知らない、僕らの想像を遥かに超えた世界になるかもしれない。

────────────── Windsurfing Magazine ────────────── ウインドサーフィン マガジン ──────────────

▲杉 匠真_Takuma Sugi(J-7)6歳でウインドサーフィンを始める。小学1年生のとき『ピザーラ・クアアイナ カップ』ビギナークラスで最年少優勝。2009年から2014年まで(小学1年時から6年時まで)『ジュニアユース 選手権』6連覇。さらに小学5年時『オール・ジャパン・ウェイブ・クラシック』ビギナークラス優勝。 翌年『ピザーラ・クアアイナカップ 2015』フリースタイル優勝。2015年『アロハ・クラシック』アマチュアクラス・ ベスト16。2016年PWAポッゾ大会・ユース12-13クラス2位。『アロハ・クラシック』ユースクラス(U-21)2位、アマチュアクラス2位。同年JWAフリースタイル・アマチュア年間ランキング1位となりプロ資格を獲得。 2017年、14才8か月、中学3年生で最年少プロとなる。2002年神奈川県生まれ、16歳。 Photo by Jose Piña
▲杉 匠真_Takuma Sugi(J-7)6歳でウインドサーフィンを始める。小学1年生のとき『ピザーラ・クアアイナ
カップ』ビギナークラスで最年少優勝。2009年から2014年まで(小学1年時から6年時まで)『ジュニアユース
選手権』6連覇。さらに小学5年時『オール・ジャパン・ウェイブ・クラシック』ビギナークラス優勝。
翌年『ピザーラ・クアアイナカップ 2015』フリースタイル優勝。2015年『アロハ・クラシック』アマチュアクラス・
ベスト16。2016年PWAポッゾ大会・ユース12-13クラス2位。『アロハ・クラシック』ユースクラス(U-21)2位、アマチュアクラス2位。同年JWAフリースタイル・アマチュア年間ランキング1位となりプロ資格を獲得。
2017年、14才8か月、中学3年生で最年少プロとなる。2002年神奈川県生まれ、16歳。
Photo by Jose Piña
▲石井孝良_Takara Ishii(J-20)5歳のときにウインドサーフィンを始める。小学6年生でジュニアユース選手権 高学年の部(レース)優勝。中学2年時『オール・ジャパン・ウェイブ・クラシック 2015』ビギナークラス優勝。 同年11月、さらに翌年の『アロハ・クラシック』では二年連続でユースクラス(U-21)3位。2017年にはついに 同大会、同クラスで優勝を果たす。2018年 IWT『モロッコ・スポットX・ウインドサーフ・ワールド・カップ』 ユースクラス優勝、プロクラス4位。「世界一を目指す」日本のユースの旗手の一人。2001年静岡県生まれ、17歳。 Photo by John Carter_pwaworldtour.com
▲石井孝良_Takara Ishii(J-20)5歳のときにウインドサーフィンを始める。小学6年生でジュニアユース選手権
高学年の部(レース)優勝。中学2年時『オール・ジャパン・ウェイブ・クラシック 2015』ビギナークラス優勝。
同年11月、さらに翌年の『アロハ・クラシック』では二年連続でユースクラス(U-21)3位。2017年にはついに
同大会、同クラスで優勝を果たす。2018年 IWT『モロッコ・スポットX・ウインドサーフ・ワールド・カップ』
ユースクラス優勝、プロクラス4位。「世界一を目指す」日本のユースの旗手の一人。2001年静岡県生まれ、17歳。
Photo by John Carter_pwaworldtour.com