ウルサンPWAワールドカップ

PWA WORLD TOUR 2018 / Ulsan PWA World Cup
EVENT_03 / Slalom Men #2・Slalom Women #2・Foil Men #2
KOREA_Ulsan, Jinha Beach_2018.05.19-05.24

◀︎韓国W杯、爆風(サーフ & 障害物)スラローム▶︎

PWA WORLD TOUR 2018 / Ulsan PWA World Cup All Photo by John Carter_pwaworldtour.com
PWA WORLD TOUR 2018 / Ulsan PWA World Cup
All Photo by John Carter_pwaworldtour.com

5月15日=『横須賀W杯』閉幕、16日=休息日、17日=韓国へ移動、18日=道具の準備と練習、19日=『韓国W杯』開幕。PWA一行は忙しい。そして風は、自然は、人の都合に合わせてはくれない。タフでなければPWAツアーは回れない。

大会初日から風が吹く。15-25ノット(7.5-12.5m/s)。女子2レース、男子1レースが成立する。
この時季にしては気温が低めでコンディションの変化が激しく、チョッピーな海面のデコボコによる被害者が続出した。
トップフィニッシュを果たしたのは、女子ではジェンナ・ギブソン(GBR-96)、デルフィン・カズン(FRA-775)、男子はアントワン・アルボー(FRA-192)。
横須賀でも優勝したデルフィンとアントワンは、吹けば無敵という感じがする。艇速で抜きん出ているのはもちろんだが、スタートからフィニッシュまで、とにかく安定した状態で走りきる。危ういところがまるでない。

Delphine Cousin(FRA-775)| Esther De Geus(NED-16)|  Jenna Gibson(GBR-96)
Delphine Cousin(FRA-775)| Esther De Geus(NED-16)|
Jenna Gibson(GBR-96)

デルフィンは第1レースでジェンナに先を越されて2位でフィニッシュしたのだが、それでも「まあたまにはそんなこともあるだろう」と(かつて常勝を誇っていた『巨人、大鵬』がコロッと負けたときのように)見るものに次への不安を抱かせるところがない。

でもそんなデルフィンに勝った「ジェンナって誰だ?」とは思った。
ジェンナ・ギブソン(GBR-96)=イギリスの20歳! 今大会がPWAツアー3戦目であるらしい。そんな彼女が第2レグで2×ワールドチャンプのデルフィンを抜いたのだ。夢のような出来事だったに違いない。経験が重視されるスラロームでも、そういうことがたまには起こる。
特に強風レースではその確率が少し上がる。日本選手にも起こればいいのに。

Mio Anayama(JPN-311)
Mio Anayama(JPN-311)

いや、それに近いことは起きたのだ。女子の第1レースで穴山未生(JPN-311)が、ジェンナ、デルフィンに次ぐ3位でフィニッシュを果たした。彼女のブログによれば、最終マークで捲って「自分でもビックリの3位」でも「2レース目は予選でスタート前に藻を引っ掛け、焦って後ろから入ったマークで(鈴木)ブンコさんにぶつかり自滅。ブンコさんが落ちなくてよかった・・・」とのことで、大会初日を3位、9位で終えた。悪くない、全然悪くない。
海面はデコボコで、風はガスティで、海面には多くのゴミが浮いており、海中には海藻が繁茂している。
何が起こるか、最後までわからない。選手に怪我がないことを祈る。

◀︎ジンハビーチ、大爆発 ▶︎

Matteo Iachino(ITA-140)
Matteo Iachino(ITA-140)

5月20日、大会二日目。今日も吹いている。というか吹き過ぎ。風速はマックス40ノット(20m/s)オーバー。
昨日からあった海面のうねりとチョップが、今日はさらに巨大化して複雑化してもいる。
おそらくその強風によって吹き寄せられて、レース海面のゴミも海藻も増えていることだろう。恐ろしい。

そんな中、この日は女子の第3、第4、第5レースと、男子の第2、第3レースが成立した。
実にいろんな意味で、ハードコアなサバイバルレースになった。

事件その1)女子の第3レースでデルフィンが落ちた。ほとんどレースをものにするだろうと思われる勢いで第3マークにアプローチしたのだが、ジャイブでミスを犯してしまった。PWAのレポートによれば、うねりにレイルを食われてしまったらしい。強風に強い彼女にしては珍しいことだ。さぞかし悔しかったことだろう。なぜなら彼女にはこの日行われた3つのレース、全てで勝つチャンスがあったからだ。それを自らふいにしてしまった。
結局このレースは4位、第4レースではトップを獲ったものの、第5レースでは最後のレグでフランスの21歳、去年のユース・ワールド・チャンピオンであるミール・ギルバード(FRA-551)に競り負けた。最後まで彼女本来のリズムを取り戻せなかった感じだ。しかしそれでも総合1位の座は渡さない。「吹けばデルフィン」の安定性は、ちょっとやそっとでは揺るがない。この風域において彼女が他の選手に与える圧は、もしかしたらさらに強まったかもしれない。

Oceane Lescadieu(NC-815 / 6.4㎡)|Mio Anayama(JPN-311 / 5.7㎡)
Oceane Lescadieu(NC-815 / 6.4㎡)|Mio Anayama(JPN-311 / 5.7㎡)

事件その2)ニューカレドニアのレディスレーサー、21歳のオシアン・レスカドゥ(NC-815)は、この日を通して6.4㎡のセイルを使用、3つのレース全てでファイナル進出を果たした(6位、7位、8位)。
6.4㎡は多くのメンズと同じセイルサイズで、メンズの中には彼女よりも小さいセイルを使った選手もいたらしい。40ノットオーバーの強風下で、映像で見る限り取り立てて身体が大きいわけでもない彼女が、なぜそんなセイルを使いきれるのか、謎だ。
ワールドカップには時々こういう不可思議な選手が現れる。常識では考えられないことが当たり前のように起こるのだ。そう思っていないと、混乱するばかりである。

事件その3)男子の第2レースでマテオ・イアチーノ(ITA-140)がトップフィニッシュ、今季初めて王者アントワンを止めた。さらにマテオは続く第3レースでもアントワンに次ぐ2位となり、大会総合ランキングでも暫定トップに立った。
去年の準王者であるマテオが強風でも速いことはすでに証明されている。だがアントワンにはそれを上回る速さがあるように見えた。
ではなぜアントワンが敗れたか? 第2レースのファイナル、その第2マークのジャイブでコケてしまったのだ。彼によれば「実際にはコケてないけど、いくつかのうねりにノーズが刺さってしまった」ということだ。結局そのレースでアントワンは8位。ファイナルのビリになってしまった。それほどコンディションがハードで予測が難しかったということだ。
だが明日もう1レース成立すれば、最悪のレースのポイントをカット(ディスコード)できる。アントワンが明日トップを獲れば、今日の8位をカットでき、有効レースの全てを1位として、パーフェクトな勝利を達成できる。もちろんマテオはその上を狙っている。いずれにしても実際のポイント差はわずかしかない(リザルト表参照)。明日が勝負だ。
(※その他にも事件はたくさんあったのだが、きりがないので割愛)

◀︎マテオが行く、アントワンが絡まる▶︎

Race 4_First Mark Jibing Battle
Race 4_First Mark Jibing Battle

 

5月21日、大会三日目。昼過ぎから風が吹き始める。13-22ノット。うねりもチョップも残っている。
で、実際にはメンズ第4レースのルーザース・ファイナルとウィナーズ・ファイナルが先に行われたのだが、まずはウィメンズの第6レース・ファイナル(13:14)の話から。
スタートで飛び出したのは去年のランキング3位、今大会ここまで暫定2位のレナ・アーディル(TUR-33)。最初のレグを突っ走り、デルフィンを抑えてファーストマークを回航する。艇速もジャイブもいい感じだ。これならデルフィンを抑えきれるかもしれない。
だが第3マークへのアプローチでレナが災厄に見舞われる。大きなチョップにボードをヒットして大きくバランスを崩してしまう。これで終わり。その間にデルフィンがトップに立ち、そのまま今大会3度目のトップフィニッシュ。レナは6位。
ここまでの全6レース、1カット(ディスコード)の総合ポイントでは、デルフィン6.1、レナ14.7で、その差は8.6ポイント。もう1レース成立すればさらにもう1レース分のカットが入るので、逆転も不可能な数字ではないのだが、ここまでの走りをみるとその差は極めて大きいものに思われる。

Matteo Iachino(ITA-140)_Full Power
Matteo Iachino(ITA-140)_Full Power
Antoine Albeau(FRA-192)_Leads The Way
Antoine Albeau(FRA-192)_Leads The Way

メンズの第4レース・ファイナル(12:30)。本日のハイライト。
マテオとアントワンの一騎打ち。かと思われたのだが、アントワンがもたもたしている。ファーストマークへのアプローチではセドリック・ボード(FRA-91)がトップ。マテオは3位。アントワンはビリだ。
アントワンは藻にやられた。スタート前からフィンに絡みついたそれをなかなか振り払うことができずに、ずっとそのまま走らねばならなかった。サイドブレーキを引いたまま、アクセルを踏み続けるみたいに。勝負を賭けたファイナルでこれか。ふざけるな、とアントワンは思ったかもしれない。しかし、レースは続く。

ファーストマークのジャイブバトル。トップのセドリックとジャイブマークとのあいだにあるわずかな空間にマチェック・ルコースキー(POL-23)が突っ込んでいく(写真:Race 4_First Mark Jibing Battle)。そして見事にトップに躍り出る。それは攻撃的で美しいダンスだった。心技体が世界レベルで充実していなければできない。マチェックは深いゾーンに入っていたのだろうと思う。
だがそのマチェックも、そのあとボードに何かをくらって吹っ飛んだ。ゴミかもしれないし、海藻かもしれない。チョップにやられたのかもしれない。原因は不明だが、速いだけでは勝てない。
それがここでのスラロームだ。

最終的にこのファイナルでは、アントワンとマチェックとエンリコ・マロッティー(CRO-401)が障害物の罠にかかった。それぞれの順位は4位、7位、6位。勝ったのはマテオで、アントワンに対するアドバンテージを2ポイントとした。

レース後、何人かの選手がレース・コミッティに抗議した。この結果を採用すべきなのか? このコンディションが本当にレースに適していると言えるのか? しかし、レースは成立した。彼らの抗議は通らなかった。
のちにこの件についてアントワンは次のように述べている(PWAのインタビューより)。

B_KR18_ls_Albeau_on_standbyAntoine Albeau:僕は今回のようなコンディションが好きだ。でも海藻やゴミが多すぎたのは確かだね。最初の二日間、僕は幸運だった。でも三日目(第4レースのファイナル)にやられた。スタートの2、30秒くらい前にフィンに大きな藻の塊が絡んで、ファーストマークでも別の藻を引っ掛けて、なかなかそれを振り払うことができなかった。で、結局僕はビリになって、そこからなんとか捲って4位にはなったわけだけど・・・。まあその結果は仕方ない。僕にとってはそれもコンペティションの一部だ。でも一番の問題は、選手にとってレースが危険すぎたということ。僕らがフルスピードで走っていってあの障害物にヒットしたらどうなるか? 深刻な事態も招きかねないわけだから。

まったくその通り。あのスピードで急にボードが止まって、セイルだけが走り続けたとしたら・・・想像もしたくない。怪我人がでなかったのが不思議なくらいだ。それに大会コミッティは、コンデションは誰にとっても同じ、リスクも平等に分配される、と考えているのかもしれないけれど、それも違うような気がする。少なくともトップを争う選手と下位にいる選手とでは、リスクの重みが変わってくるわけだから。

実際この韓国大会のスラローム競技はこのあと行われることがなく、三日目までの成績で全てが決まった。
優勝したマテオとアントワンの差は2ポイントだ。アントワンが最後のファイナルで藻を引っ掛けていなかったら、結果はどうなっていたかわからない。それでもアントワンは言う。
「いい風が吹いて、いいレースができた。日本(横須賀大会)ではトップを獲れたし、ここでは2番になれた。悪くない(シーズンの)スタートだ」

マテオもコメントを残している。

A_KR18_ls_MatteoMatteo Iachino:フェアなコンディションだったかといえば、そうではなかったかもしれない。でもまあ何と言えばいいのか、難しいところだ。ただ少なくともレースディレクターは(レース前に)コンデションの適合性についてをアナウンスすべきだったとは思う。

マテオは総合的に多くのライバルたちよりもレースコースを速く走り、海中の見えない敵にもやられなかった。そしてこの大会に優勝し、スラロームのオーバーオールランキングでもトップに立った。彼の勝利の価値が今回のコンディションに左右されることはない。今回の彼は全4レースを3位、1位、2位、1位でフィニッシュしている。文句のつけようがないじゃないか。マテオは、ほかの全ての選手を上回るだけの何かを持っていたのだ。

◀︎遠い世界を間近に見て▶︎

Mio Anayama(JPN-311)| Fujiko Onishi(J-94)
Mio Anayama(JPN-311)| Fujiko Onishi(J-94)

ところで日本選手はどうなったか。女子では穴山未生が8位、大西富士子(J-94)が10位だった。
二人とも強風には強い(と思われる)のだが、今回のコンディションは「並の強風」を超えていた。デルフィンもレナもコケたその海面で、二人もコケながら戦い続けた。そして新しいイメージを自分の中にインプットした、だろうと思う。

経験が豊富な選手は、自分の頭の中にある引き出しからいくつかのイメージを引っ張り出して、それらをミックスしてその日のコンディションに合った走りを模索する。その精度が高まるほど自分の走りがしやすくなる。今回のレースには、そのための素材がたくさんあった。おそらく二人は結果以上に強くなっているはずだ。現時点でも二人には(日本の男子並みに速いデルフィンは別にして)第二集団でトップ争いができるくらいの艇速があるように見える。そこにスタートやジャイブでも攻められる力が加われば表彰台も夢ではない。本当にそう思う。

Tomonori Anami(JPN-60)
Tomonori Anami(JPN-60)
Akihiko Yamada(JPN-67)
Akihiko Yamada(JPN-67)

男子の最高位は山田昭彦(JPN-67)の39位。『横須賀W杯』でクォーターファイナルに進出して僕らを沸かせてくれた穴見知典(JPN-60)は47位に沈んだ。以下穴見のブログより抜粋。
「海面も風も想定外で苦しいレースでした。成績も散々です。リグトラブルもあったりして。他の選手は走れているので、乗れてない僕が悪いのですが。この風域、海面に対して超練習不足ですね。この苦手意識をどうにか克服しなければ!」
頑張ってください。穴見は横須賀ではハマった。その「ハマりポイント」を一つずつ増やしていけば、例えばクォーターファイナルなどで本気の世界と戦える機会はきっと増える。穴見はまだ21歳。下を向く必要なんてどこにもない。

日本のキング、浅野則夫(JPN-25)は? 実は『横須賀W杯』の五日目(5月14日)選手テントの前のブルーシートに溜まった砂を取り除く作業をしているときに、腰を痛めてこの大会を欠場した。持病の椎間板ヘルニアからのぎっくり腰。痛み止めのブロック注射を打っても何とか立ち上がるくらいが精一杯の重症だった。
強風、ラフ海面、浅野則夫とくれば、僕は昔(たぶん1990年)の『サムタイムワールドカップ』でのサーフ・スラローム思い出す。ウェイブができるような海面へビーチスタートしていった浅野は、世界のファイナルで6位入賞を果たした。この海面で今の浅野が今の世界に挑戦したらどうなるか。僕はライブ映像を見ながらその光景を想像した。アントワンさえコケる海面だ、もしかしたら何かが起こっていたかもしれない。

今は5月25日で、韓国大会が終わって(その最終日にはフォイルのレースが4つ成立したんだけれど、今回は省略)丸一日が経過したことになる。祭りのあとみたいでなんだか寂しい。5月10日に『横須賀W杯』が開幕してから昨日まで、僕はずっとワールドカップモードだったような気がする。遠い世界を間近に見て(韓国大会はライブ中継だったけれど)世界は思った以上に遠いのだと実感した。そしてそのことに、スラロームはこんなところまできているのかということに、それからそんな世界にも日本の希望はあるのだということに、興奮していたように思う。

これで2018年のアジア・ラウンドは終わりだが、PWAツアーは始まったばかりだ。
そこに集まる選手たちはとんでもないウインドサーフィンを見せてくれるし、日本の選手も頑張っている。
第3戦はもうすぐ、6月5日にスペインのコスタブラバで開幕する。マテオは言う。
「いったんホームのミラノに戻って、6日間ほどリラックスして、またいつものように次のコンテストに出掛けるだけ。ただ今回はヨーロピアン・フードをたらふく食べてからね」
日本で2位、韓国では見事に優勝したマテオだが、彼にとってのアジアラウンドは、別の意味でしょっぱすぎたり辛すぎたりしたのかもしれない。
当たり前のことかもしれないけれど、欧州の選手がアジアに来たり、アジアの選手が欧州に行ったり、膨大な量になる道具を引きずって、それに対するオーバーチャージと戦ったり、彼らはそれはそれはいろんな面で大変なことをクリアしながら彼らの仕事をまっとうしている。まあ何はともあれ、もうすぐまたそんな彼らが主宰する世界最高峰のスラローム祭が始まる。みなさん、お時間があればPWAのライブ中継をフォローしてみてください。野球少年がメジャーリーグ・ベースボールを見ているときのように、ちょくちょく驚きながら楽しめるはずですから。

Outside Mark
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SLALOM_WOMEN
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15_SLALOM WOMEN

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16_FOIL MEN

Ulsan PWA World Cup 2018 / Foil_Men
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